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「Deep Insanity」プロジェクト・メインスタッフ座談会(後編)――「嫌いな登場人物を誰でもひとりは見つけられる?」

ついにTVアニメ「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」の放送もスタートした、大型メディアミックスプロジェクト「Deep Insanity(ディープインサニティ)」。謎多き巨大な地下空間「アサイラム」が出現した世界を舞台に、さまざまなメディアで異なる時間軸での物語が展開するこのプロジェクトに関する、プロデューサーであるスクウェア・エニックスの石井諒太郎さん、世界観原案を担当した深見真さん、海法紀光さんの座談会の後編をお届けします。


――一種の異形に変態する、ゾンビもの的なテイストもありますが、この要素はどこから?

海法 変形のゾンビものだともいえると思うんですけれども、それよりは異形ホラーものですよね。映画の「エイリアン」とか、さきほども名前を出した「遊星からの物体X」とか。

――やっぱり基本的には、皆さんのお好きなものを詰め込んでみる形だったと。

海法 そうですね。人として生まれたからには、「ストーカー」のゾーンみたいな、なんかよくわからない化け物がいて、そこに入るとどんどん頭がおかしくなってくるような意味不明の空間を出してみたいですね……とか。

――それでいうと、深見さんの趣味が色濃く反映されている要素は?

深見 プラットホームの審査に落とされない程度に、男の子同士、女の子同士を仲よく描くことですかね。匂わせるようなセリフは、あちこちに仕込んでいます。

海法 それ以上に、はたから見ていると、登場人物がだいたい倫理が壊れてる人ばっかりで……。

石井 そこにすごく深見さんを感じますよね。

深見 いやぁ、人間のクズをたくさん書けたんでよかったです。

石井 本当に、登場キャラクターたちの中にまともな人が探せない感じしますよね。

深見 やっぱりこうその……まともな人っていうのは、フィクションの中だといちばんつまらないじゃないですか。どうしてもちょっとダメな人のほうが、フィクションの中では見ごたえがあるし、やっぱイヤなやつをたくさん出したい。イヤな奴って嫌われもしますけど、いないと盛り上がらない。

石井 あんまり正確な表現じゃないかもしれないんですけど、僕はキャラクターを描くときに、欠点から描いていくのがいちばん見てる人に伝わると思っていて。いいとこを並べても何か似通っちゃうんですよね。そうではなくて何か悪いところとか、ダメなところを描いたほうが、キャラクターの個性が出る。その意味で、今作に関しては、みんなそれぞれすごく特徴的で、感情移入できるかどうかはわからないですけど、実際にそのキャラクターに対して愛情を持って接してくださる方が多いんじゃないのかなというふうには思ってます。どのキャラもとても印象に残りますからね。

深見 僕としては、どうしても何か、恵まれてるキャラクターを主軸に置きたくないんです。みんな、何かしら大変な思いをしながら生きてる。だからマイノリティをお話の主軸に置きたい。当たり前のことが当たり前にできない人たちを描きたいんです。

海法 でもそうした人たちが多い中でも、今回は特に女性のキャラクター陣が全員元気で、そこはすごい楽しかったですね。

石井 後ろ向きな人間、ネガティブな人間はいないですよね。今を生きているというか。

深見 そう。そしてこのゲームのヒロインたちに共通しているのが、殺人に抵抗がないことです(笑)。

――(笑)。マンガ、アニメ、ゲームでそれぞれ時間軸が違うというのも今作の特徴ですね。

石井 それぞれのメディアでの制作の自由度を上げるためと、あとは制作工程の都合を考えると、マンガが先行することが最初からわかっていたんです。そうなると、マンガを読んでいる方をそのままスムーズにアニメ、ゲームへとつなぐことを考える必要があった。時間軸をずらしたほうが、そのためにはいいと判断しました。ゲームに関しては、アニメが終わった後も、最後まで長く続ける可能性があるものですから、時間軸を最後にする必要がありもしました。

――各作品間のクロスオーバーはどれぐらい?

石井 メディアのあいだで時間が何百年と離れているわけではないので、それぞれ共通して登場するキャラクターが複数存在します。

――そこの意味でも、メディアをまたいで楽しむことのおもしろみがある。それぞれの媒体でならではの魅力だと皆さんが考えるポイントは?

深見 マンガ版は「機動戦士Vガンダム」だって僕は言ってます。といっても、主人公の少年が、大人のお姉さんにといっしょにお風呂に入るシーンが多いというそれだけの理由なんですけど(笑)。それはそれとして、アクションシーンもかっこいいし、キャラクターも魅力的だし、すごくいい感じです。

石井 おそらく3メディアの中でゴア表現がいちばん深いのはマンガ版な気がしますね。

深見 この作品の舞台になる地下の巨大世界には、バミューダトライアングルで消えた船とか飛行機とか、行軍途中で行方不明になった部隊とか、そういう歴史上の消えた存在が流れついて、独自の不思議な世界が形成されている。塩野さんのマンガ版の中で、軍用潜水艦を神様と信仰するカルト集団が出てきて、あれはすごいアイデアだなあと思いました。本当に「Deep Insanity」という企画の魅力が凝縮されていると思います。

石井 マンガから入っていただくのが、多分どういう世界なのかがいちばんよくわかると思うので、まずマンガを読んで予習をしていただくのがいいと思いますね。

――アニメ版はどうですか?

石井 アニメ版はマンガとゲームをつなぐことをいちばん主軸に置いています。そういった意味では、アニメ単体で見るよりも間違いなくその前と後ろを見たほうがお話のつながりを意識できるので、そこは順番においかけていただくのがいいんじゃないのかなあというふうに思ってはいます。特にアニメはゲームと時系列が近いことがあって、アニメとゲームでの共通のキャラクターはとてもたくさん出てきます。その中にもアニメオリジナルのキャラクター……具体的には主人公の時雨がいて、彼がどういうふうに生きていくのかがいちばんの見どころになるんじゃないのかなと思っています。とても純粋な子で、マンガ版やゲーム版では見たことのないキャラクターなんです。そういった意味では、いちばん心安らかに触れられる「Deep Insanity」なんじゃないかなとは思っています。また、プロジェクトとして三つの時間軸を推していますけど、アニメ単体でも時間をテーマにしているところがあって、そこはちょっと注意して見ていただけるとうれしいです。脚本の下山健人さんは「仮面ライダージオウ」で時間をテーマに作品を書かれているので、そのへん、すごくお上手ですからね。

海法 脚本を読ませていただいて、おもしろかったですね。

深見 僕ももちろん脚本は読んでますけど、積極的にはかかわれていないんです。でも、作品の世界設定はちゃんと共有できているので、安心しています。

――ゲームはどうですか?

石井 ゲームは設定の細かいところ拾いますよね。

深見 あと、繰り返しになりますけど、いろんなタイプのイヤな人が出てくるところ。だけど本格的な鬱作品にしたいわけじゃないので。娯楽性の高いイヤな人がたくさん出てくる。こちらはこちらで、安心して眺められる悪人、安心して見ていられる拷問と虐殺、みたいな。

石井 必ず誰かひとりは、皆さん、嫌いな人が見つけられると思うんで。

深見 でも本当にイヤな人間は出てこないんですよ。「これくらいの悪人ならいるよね」っていう、エンターテイメント的な悪事がたくさん見られます。

石井 不思議とちょっと愛せる悪役が多いですよね。「こういうところがいいな」って思えるところもあって。すごい絶妙なバランス感覚のキャラクターがとてもたくさん出てきます。

海法 ゲーム版はサブクエストも含めて、いろんな所にあちこち行けるんですよね。出てくるアイデアの幅の広さは、アニメやマンガより一歩ちょっとリードできるのかなと思っています。

――では最後に、お話いただける範囲で、プロジェクトの今後の展開について。

石井 まず現状としては、アニメが無事放送されることと、ゲームがリリースされることに全力を尽くしているので、あまりその後の形っていうところまで具体的に決めていません。とにかく、ちゃんと続けていきたいですね。

海法 うん。そうですね。まずはちゃんと続けていくことが目標です。

深見 ただ、ゲームはどこか区切りのいいところでエンディングをやりたいですね。やっぱりアプリゲームって、延々と終わらないものが多いじゃないですか。区切りをつけて、でも何かうまく続けられる。そんな新しい形を模索できるといいと思っています。

【取材・文:前田久】

■TVアニメ「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」

放送:TOKYO MX 毎週火曜深夜24:30~
   MBS 毎週火曜26:30~
   BS11 毎週火曜25:00~
   テレビ愛知 毎週金曜26:05~
   AT-X 毎週水曜21:30~
   ※リピート放送:毎週金曜9:30~、毎週火曜15:30~

配信:ABEMA  毎週火曜24:30~
   ※地上波同時・単独最速配信/その他のサイトも順次配信予定

スタッフ:世界観原案…深見真、海法紀光、塩野干支郎次/監督…大沼心/シリーズ構成・脚本…下山健人/キャラクターデザイン…山吉一幸/色彩設計…水本志保/美術監督…新城湧基/3D監督…北村浩久/撮影監督…山本聖(チップチューン)/編集…木村勝宏/音楽…未来古代楽団/音響監督…郷文裕貴/オープニングテーマ…鈴木このみ「命の灯火」/エンディングテーマ…伊東歌詞太郎「真珠色の革命」/音響制作…ビットグルーヴプロモーション/アニメーション制作…SILVER LINK./制作協力…KADOKAWA/原作・製作…SQUARE ENIX

キャスト:時雨・ダニエル・魁…下野紘/ヴェーラ・ルスタモワ…小清水亜美/レスリー・ブラン…鳥海浩輔/ローレンス・ラリー・ジャクソン…広瀬裕也/小鳩玲香…野口瑠璃子/餅木スミレ…本渡楓/エルシー…田中貴子

■ゲーム「ディープインサニティ アサイラム」

対応プラットフォーム:iOS / Android / PC(Steam)
ジャンル:RPG
プレイ料金:基本プレイ無料(アイテム課金型)

リンク:TVアニメ「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」公式サイト
    ゲーム「ディープインサニティ アサイラム」公式サイト
    「Deep Insanity」プロジェクト公式Twitter・@deepinsanity_pj

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