ゴルフが題材のショートアニメ「空色ユーティリティ」斉藤健吾監督インタビュー 「スコアよりも大切なものがある」

12月31日(金)19時よりTOKYO MXで放送されるショートアニメ、「空色ユーティリティ」。「ゴルフアニメを作りたい」……斉藤健吾監督がそうSNSで呟いたことをきっかけに、クリエーターたちが集結し実現にこぎつけたという意欲作だ。「ゴルフ×女子高校生」、穏やかだけれど心に残る映像に、きっと「日常」へのいとおしさがこみあげてくる。

若手人気アニメーター・斉藤健吾さんを中心に企画された、ゴルフが題材のショートアニメ「空色ユーティリティ」。いわゆるスポーツものは、競技へのイントロダクションとしてのように作られるものも少なくないけれど、本作はちょっと違った不思議な感触だ。話を聞くと、そこは斉藤さんの狙いどおりなのだとか。
「『ゴルフの説明をするのはやめよう』って、企画の最初のほうで決めたんですよ。ルールを解説するためだけにあるようなストーリーは作りたくなかったし、そもそもゴルフ自体、ルールよりもマナーが大事にされるスポーツなんです。つまりゴルフの楽しさって、よいスコアを出すことや競技としてのおもしろさだけじゃない。少なくとも僕はそれだけじゃないと思ってプレイしているので、その感覚をアニメでも伝えたかった。まあ、単純に女の子3人がわちゃわちゃしてる姿が好きで、僕が描きたいタイプの女の子を、描きたいように描きたかったという動機もありますけど（笑）」

作品の中心になるのは、３人の女子高生。ゴルフといえば、学生が手を出すにはちょっとハードルの高い、お金のかかる趣味という印象もあるような……？
「そこは実は、話を作る上で一度問題になって、ちゃんと計算してみたんです（笑）。ラウンドフィー（※ゴルフコースの使用料）って大体1回あたり1万円くらいで、交通費も含めて大体一度に使うのは最低で１万５、６千円。あとは練習ですけど、週に1回か2回くらいのペースだとして、週にかかるのは２、３千円。月額３、４万円あれば全然できるんじゃない。学生がバイトしながらやれる趣味として、結構、現実味があるところです。道具にしても、ゴルフクラブって毎年、絶対新しいモデルが出るので、そうなると一代、二代前の道具はもうほぼ半額以下になっちゃうんです。新品でもそうだし、中古だともっと安い。敷居が高く感じられている部分はあるんですけど、実際やろうと思えば、身近なものなんですよ。僕自身も、両親はずっとやってましたけど、自分が始めたのは‘20年の春からです。それに、コロナ禍の中で、外でディスタンスをとりながらやれることもあってか、若い人のゴルフ人口は実際に増えているんですよ、今。その状況を、アニメを作ることで後押ししたい気持ちもあったんです」

さらに斉藤の中には、人間関係に対するこんな思いも。
「学校や会社の外にコミュニティがないと、やっぱり、人間ってすごくしんどいんですよ。ストレスを発散できる部分がない。僕はゴルフもだし、他の趣味でも仕事以外の人間関係をすごく作れていて、そこでいろいろな話ができることで助かっている部分があるんです。今回、3人が別々の学校に通っていて、先輩後輩的な関係でもなく、立場がそれぞれに全然違う設定にしたのは、そうした思いがあったからです」

もちろん、ゴルフの魅力を感じるシーンもばっちり。
「演出も監督も初めてで、目の前にあるものを作っていくのに結構必死だったんですけど、そんな中で意識的にこだわったのは、空の描き方です。初心者の美波は、ずっと地面を見てゴルフをしてしまっている。そんな美波が、初めて空を見上げる瞬間を描きたかった。その上で、絵コンテを担当してくれた雨宮哲さんとも話して、空に雲を描かないようにしたんです。遠景は別にいいんですけど、見上げたとき、真っ青な空に白いボールが1個ある光景を描きたかった。ゴルフのいいところのひとつですから。あとはボールに集中した瞬間をどう描くかも、こだわったところですね」

15分という長さに収めるために、削ったエピソードは大量。まだまだ描きたいゴルフの魅力は山盛りだそう。少々気が早いけど、今後の展開にも期待大！

【取材・文：前田久】