スタッフ

TVアニメ「勇者、辞めます」原作・クオンタムインタビュー 「僕が生存できているのは、間違いなく『勇やめ』のおかげ」

クオンタム先生による小説『勇者、辞めます~次の職場は魔王城~』が原作のTVアニメ「勇者、辞めます」は、魔王軍を撃退した圧倒的な力を恐れられ、人類に追放されてしまった勇者レオが、ボロボロになった魔王軍の再建を担う物語。レオが披露する数々の仕事術に、魔王軍の四天王たちも彼の実力を認めるようになっていく。はたしてレオは、彼を憎らしく思っている魔王エキドナのお眼鏡にかなうことができるのか……。
Web Newtypeではアニメ放送を記念して、原作のクオンタム先生にインタビューを実施。物語を書こうと思ったきっかけや、作品に込めた思い、アニメ制作に携わってみての感想を語ってもらいました。

TVアニメ「勇者、辞めます」キービジュアル
TVアニメ「勇者、辞めます」キービジュアル(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

執筆のきっかけはTRPG仲間たちのコンテスト応募

――まずは原作についての話をうかがえればと思います。クオンタム先生は『勇者、辞めます~次の職場は魔王城~』(『勇やめ』)がデビュー作ですが、それまでに作家になりたいと思ったことはありましたか?
クオンタム 何度かあこがれたことはあります。学生時代、国語の成績はよかったですし、子供のころに作文で賞をもらったこともあったので。ただ、作家というのは特別な人がなる職業だと思っていたので、なれるとは思っていませんでした。

――そんな中で、『勇やめ』はどんなきっかけで書き始めたのでしょうか?
クオンタム 「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」の現代アクション部門で大賞を受賞されたロケット商会さんとは、TRPGでたまに遊ぶ仲だったんです。ロケットさんが賞を取ったと聞いて、ほかのTRPG仲間たちが「俺も小説を書いて、ロケットさんみたいに(賞金の)100万円を当てるぞ」と意気込んでいたんですね。ちょうど僕も勤めていた会社が解散してお金がなかったので、それなら参加してやるぞと思ったのがきっかけでした。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

――処女作で「第2回カクヨムWeb小説コンテスト」の異世界ファンタジー部門の大賞を受賞するというのはすごいことですね。
クオンタム 小説はほぼ書いたことがありませんでしたが、昔はゲームのプレイ日記をブログによくあげていたので、長文を書くのには慣れていたのかもしれません。それから、『勇やめ』を書き始めた年の夏に、友達とSSを書いてどちらがおもしろいのかを投票で決めるという謎の遊びもしていて、物語を書くこと自体は初めてではなかったというのも大きかったですね。

――当時はどんなゲームをプレイしていましたか?
クオンタム 学生時代は「ラグナロクオンライン」や「FINAL FANTASY XI」、社会人になってからは「FEZ」「FF14」「PSO2」といったオンラインゲームをプレイしてブログに書いてました。2014年か2015年ごろからTRPGを始めたので、それ以降はずっとTRPG漬けですね。

――ファンタジー作品がお好きなのでしょうか?
クオンタム はい。ゲーム、漫画、小説を問わず、”名作”と呼ばれるようなファンタジー作品がたくさんある時代に育ったので、余計に好きになったのかもしれません。漫画の『BASTARD!!』や小説の『スレイヤーズ』は特に思い入れのある作品で、どちらも魔法を使う主人公がいるところと、魔法の詠唱をきちんと描いているところがお気に入りです。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

――小説は読んでいましたか?
クオンタム 父の本棚から勝手に取ってよく読んでいました。中でも菊地秀行さんの小説が多かったと思います。菊池さんはたくさんの作品を書かれていますが、僕が特に好きなのは『退魔針』。主人公が最強で、いわゆるなろう系に近いシーンもたくさんあって、すごくおもしろいんです。それから、五代ゆうさんの『アバタールチューナー』という「女神転生」シリーズの派生作品のノベライズも好きでしたね。SFとファンタジーが合わさった感じが特に気に入っています。

――『勇やめ』はファンタジーではありますが、バトルはそれほど多くないですよね。
クオンタム 『勇やめ』を書き始める前に、ほんの少しだけファンタジー小説を書いてみたんです。その時点で、僕はバトルを描くのがあまり好きじゃないなと思って(笑)。バトルものを読むことは好きなんですが、自分の強みを活かせるジャンルではない。じゃあバトル控えめでもう少し違ったアプローチをしよう、と思ったら『勇やめ』を書いていました。もともと、会社員にならなければ先生になりたいと思っていたので、誰かに教えたり、うんちくを言ったりする話にすればいいんじゃないかと思い、この方向になりました。”主人公が最強”という設定なら、偉そうにうんちくを言っても許されると思ったんですよ。

――勇者が勇者を辞めようとする物語もとても新鮮でした。
クオンタム これはもう、当時会社を辞めたいと毎日のように思っていたことが大きく影響していると思います(笑)。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

レオの仕事術は実体験とオンラインゲームの体験談

――先生は、小説を書くときにプロットは立てますか?
クオンタム 『勇やめ』に関しては、最低限の起承転結だけ考えて、細かなプロットは立てなかったと記憶しています。TRPGのシナリオでもそうなんですが、お話を考えるときはまず書きたいシーンが頭に浮かぶんですね。そのシーンに行くためにはどうすればいいかを考えて、肉付けしていく書き方のほうが僕には合っているみたいです。でも、本当はちゃんとプロットを立てたほうが絶対にいいですよ!

――キャラクターについては、どんなふうに考えていったのでしょうか?
クオンタム 実は、ほとんど決めていなかったんです。名前にしても、レオやリリのような短い名前は自分で考えましたが、ネーミングセンスがないことは自覚していたので、TRPGでよく使っていたネーミング生成サイト的なものを参考にしました。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

――それでも、ネーミングのもととなる性格やキャラクター像は考えていましたよね?
クオンタム そうですね。こいつは上品だからフランス風とか、大柄な騎士のようだからイギリス風みたいなことは考えていました。四天王に関しては、きっと皆さんの中にある四天王像と大きな相違はなく、パワー自慢がいて、すばしっこいキャラクターがいてと考えて……それを書きながら膨らませていきました。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

――レオは本人も自覚しているくらいに性格が悪いですよね。
クオンタム これは僕の好みが大きいですね。品行方正にしたら、自分の好きなキャラクターにならないんですよ。僕は『銃夢』というマンガの傍若無人で荒っぽいキャラクターも好きで。ほかの作品の好きなキャラを考えてみても同系統のキャラが多かったので、品行方正だと書けなくなるだろうなと感じて、ちょっと性格が悪くなりました。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

――レオの仕事術は、先生の実体験から来るものですか?
クオンタム リアルなものは実体験から来るところが大きいですね。仕事をしていると、『ここをこうしたほうがいいんじゃないか』と思ってもなかなか変えられないことってあるじゃないですか。長年の慣習だから変えるのに抵抗があるとか、契約上無理だとか、単純に忙しくて改革にまで手が回らないとか。そういう、体制を変えたいけど変えられない!という歯がゆさが仕事の解像度を上げてくれて、結果的に物語に活かされているところは多々あります。

選ばれしタイトルだけのものだと思っていたアニメ化

――そんな物語がアニメになりましたが、アニメ化の話があったときは率直なお気持ちは?
クオンタム 僕は『るろうに剣心』や『ONE PIECE』といった少年ジャンプの漫画を読んで育ったので、アニメといえば『週刊少年ジャンプ』の選ばれしタイトルだけがなるものだという先入観がどこかにあったんです。なので、「アニメ化の話が進行しています」と担当編集さんから電話があっても半信半疑でした。実際、実感がわいたのは、Episode01のオンエアのあとだったんですよ。

――それまでにシナリオ会議やアフレコに参加していたそうですが、それでも実感はわいていなかった?
クオンタム もちろん、会議やアフレコに参加しながら、本当にアニメの制作が進んでいるんだなと感じてはいたんです。でも、どうしても特別な人の物だという感覚が拭えなくて。Episode01のオンエア後にSNSでいろんな感想を見て、やっとアニメになったんだなと感じられました。

――Episode01を見たときの感想を教えてください。
クオンタム 映像自体はオンエアの前に見せてもらっていたので、同じものが流れているな、本当にアニメになったんだなという感覚でした。最初にチェック用の映像を見たときは、声が入ってキャラクターが動いているだけでも感動でしたね。アフレコにも立ち会わせていただいたんですが、その段階では絵も完成していないし、SEやBGMもないんです。それが本編になると加わって、ガラッと印象が変わる。その制作過程はアニメの関係者しか体験できないので、いい経験になりました。でも、実際にオンエアされるまでは、正直なところ怖かったです。小説も十分怖いんですが、アニメは話題性も強いし、いろんな感想が飛んでくる。いい感想もあればそうでもないものもあるので、そこが怖い。ただ、この怖さもアニメ化しなければ味わえなかったものなので、うれしい怖さではありますね。

――アニメ化されてよかったところ、うれしかったところは?
クオンタム あげようと思えばいくらでもありますが、特に声ですね。僕は頭の中でキャラクターにしゃべらせながら文章を書いたり読んだりするタイプなので、思い描いていた通りの声が実際に聞こえてくるというのは感動でした。オーディションで、キャラクターに合う声をみんなで時間をかけて選んで、その人たちが声を当ててくれたキャラクターが生き生きと動き出す。その過程を実際に見ているからこそ、喜びしかありませんでした。あと、単純によかったこととしては、お金が入ってきます(笑)。『勇やめ』はシリーズとしては既に完結しているのですが、その作品がまた動いてお金が入ってくるというのはシンプルにうれしいです。それから、アニメ化を喜んでくれたり、放送を実況してくれたりしている人がいるのを見て、この作品を好きな方が大勢いらっしゃるとわかったこともうれしいですね。アニメ化されなければ可視化されなかったことなので、本当にありがたいです。そして何より、『勇やめ』がこんなふうに動いていなければ、きっと今の僕は違う生活をしていたと思います。大げさではなく、いま僕が生存できているのは間違いなく『勇やめ』のおかげであり、アニメ化したおかげですね(笑)

――執筆していたころの自分に何か声をかけるとしたらなんと言いたいですか?
クオンタム 「アニメ化するよ」です。

――当時の自分はその言葉を信じると思いますか?
クオンタム 自分が言うんだから、本当なんだろうな、とは思うんじゃないでしょうか。人間って、宝くじのように将来に希望があれば頑張れるところがありますよね。だから、当時の僕なら、「ウソじゃないの?」と思いつつ、「万に一つくらいは本当かもなぁ」と思ってそれをもとに頑張れるんじゃないかと思うんですね。なので、「アニメ化もするし、書籍化もするよ」ということは伝えたいですね。

TVアニメ「勇者、辞めます」より
TVアニメ「勇者、辞めます」より(C)2022 クオンタム・天野英/KADOKAWA/「勇者、辞めます」製作委員会

――また新しい小説を書きたい気持ちはありますか?
クオンタム もちろんあります。今は『勇やめ』周りに全力ですが、新作を書きたいですし、構想もあります。

――小説家を目指す人に、何かアドバイスはありますか?
クオンタム 正直なところ、作品が受けるかどうかは半分くらい運だと僕は思っています。現代はとにかくおもしろい娯楽があふれかえってますから、「これおもしろいな!」と思ってくれる人のところに届くかどうかは実際にやってみないとわからないんですよね。今回アニメの話が来たのも、コロナ禍になってプロデューサーさんに時間ができて、たまたま読んだ『勇やめ』をおもしろいと思っていただいたからだと聞いていますし。ですので、とにかく誰かに読んでもらうこと。そのためにコツコツと作品を書き、ネットで公開したり賞に応募したりすることが、小説家への近道なのではと思います。
あと、ファンのことを忘れないというのは大事ですね。僕は自己評価があまり高くない人間なので自戒も兼ねて言うのですが、作者自身が自分の作品を卑下していたら、複雑な気持ちになってしまうファンの方も多いと思うんです。自分の知らないどこかに作品を応援しているファンがいるかもしれない、続きを楽しみにしてくれている人がひとり人でもいるかもしれない……という気持ちは忘れないようにしたいですし、創作をしている皆さんにも忘れないでいただきたいです。これはプロでもアマチュアでも同じだと思います。
「自分の作品の一番のファンは自分だ!」と言い切れるような創作活動ができるなら、それが一番ですね。

――改めて、放送を見ている皆さんにメッセージをお願いします。
クオンタム 社会人に役立つ豆知識がたくさんあるので、今大変だと思っている人の何かの助けになれば幸いです。それから、物語は後半になると、前半とは方向性がかなり変わります。レオと魔王軍の話というのは変わりませんが、どう変わっていくのかを気にしていただけたらうれしいですね。オンエアをどうぞお楽しみに!

プロフィール

クオンタム……2017年に小説投稿サイト「カクヨム」にて「勇者、辞めます〜次の職場は魔王城〜」を連載し、「第2回カクヨムWeb小説コンテスト」ファンタジー部門で大賞を受賞

【取材・文:野下奈生(アイプランニング)】

■TVアニメ「勇者、辞めます」
放送:AT-X…毎週火曜 22:30~
   ※リピート放送:毎週木曜 10:30~/毎週月曜 16:30~
   TOKYO MX…毎週火曜 24:30~
   BS11…毎週火曜 24:30~
   MBS…毎週火曜 27:00~
   BS11…毎週金曜25:00~
配信:ABEMA…毎週火曜 23:30~ ※地上波先行・単独最速配信
   dアニメストア…毎週金曜 23:30~
   ※その他のサイトも順次配信中

スタッフ:原作…クオンタム『勇者、辞めます~次の職場は魔王城~』(ファンタジア文庫/カドカワBOOKS刊)/キャラクター原案…天野英/総監督…信田ユウ/監督…石井久志/シリーズ構成…村越繁/キャラクターデザイン…中野裕紀/プロップデザイン…杉山友美/美術監督…徳田俊之/美術設定…泉寛/色彩設計…鈴木咲絵/撮影監督…江間常高・石黒瑠美/編集…新見元希/音響監督…森下広人/音楽…宗本康兵/音楽制作…フライングドッグ/アニメーション制作…EMTスクエアード/製作…「勇者、辞めます」製作委員会

キャスト:レオ・デモンハート…小野賢章/エキドナ…本渡楓/シュティーナ…伊藤静/リリ…大和田仁美/メルネス…内山夕実/エドヴァルト…稲田徹/ディアネット…鈴木みのり/ジェリエッタ…松岡美里

リンク:TVアニメ「勇者、辞めます」公式サイト
    TVアニメ「勇者、辞めます」公式Twitter・@yuuyame_anime
    クオンタム公式Twitter・@Quantum44_NJ
    『勇者、やめます』ファンタジア文庫特設サイト
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