オリジナルTVアニメシリーズとして、世界で初めて「女子ゴルフ」をテーマにした作品「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」が好評放送中です。自由かつ豪快なプレイスタイルで賭けゴルフ界を席巻するイヴと、ジュニアゴルフのエリート街道を突き進む天鷲葵は、ヨーロッパの国・ナフレスで出会い、お互いのゴルフに魅力されます。
物語が大きな盛り上がり新たな展開を見せるタイミングで、稲垣隆行監督にお話をうかがいました。発売中の「月刊ニュータイプ」6月号の記事と併せてお楽しみください！

――「BIRDIE WING」という作品の第一印象を教えてください。
稲垣　スポーツアニメは、監督としてトライしたいジャンルのひとつでしたので、ぜひ挑戦したいと思いました。企画が本格的に動き出して間もなく、渋野日向子さんが全英女子オープンで優勝し、その後、松山英樹さんがマスターズを制覇、東京オリンピックで稲見萌寧さんが銀メダルを獲得するなど、ゴルフに対する注目度もあがりました。流れが来ていると感じるなかでの制作でしたね。

――監督ご自身は、ゴルフの経験はほとんどなかったそうですね。
稲垣　スポーツとしてのゴルフの経験は、打ちっ放しぐらいのものでしたね。知識としては、「プロゴルファー猿」をはじめ、ゴルフをテーマにしたマンガも好きで読んでいて、ゴルフのエンターテインメント性は体感していました。そこからルールなどの情報を現在のものにアップデートしていきました。
印象的だったのは海外に留学した知人の話です。海外ではゴルフが身近で、普通の公園でフリープレイできる国もあるそうで。イヴがお金がなくてもゴルフをプレイできているのは、そういう環境にいるからでもあります。そうした違いも、「BIRDIE WING」で表現できればいいなと感じました。

――打ち合せの場では、どんなやり取りがあったのでしょう？
稲垣　シリーズ構成の黒田洋介さんほか主要スタッフで話し合ったのは、キャラクターの成長物語をシッカリ中心に据えようということです。ゴルフを知らない人が見ても楽しめる作りにしていますし、難しい専門用語も使わないようにしています。

――アニメーションでゴルフを描くにあたって、どんなことを意識されてますか？
稲垣　今の時代に、物理法則を無視したような“必殺技”を出しても、ギャグに思えてしまいます。プロが100回挑戦したら1回成功するくらいのリアル感で、スーパーショットのアイデアを出し合いました。イヴのレインボー・バレットのカラフルな軌道も、心象風景であるという位置づけです。

――リアルとエンターテインメントのバランスを追求したわけですね。
稲垣　プレイに関しても、ボールの速度やプレイヤーが歩く速さをリアルに再現すると、アニメとして間延びしてしまいます。そのため、実際よりも早回しにしてテンポアップしています。一方で、コースについては、割とリアルを追求しました。たとえば、日本のゴルフコースは、ホールごとに林などで区切られていますが、ヨーロッパのゴルフコースは開放的。一度に多数のホールを見渡すこともできます。美術スタッフには、背景のそんな描き分けにも力を入れていただきました。

――キャラクターや作品の世界設定は、どのように生み出されたのでしょうか？
稲垣　スポ根ライバルものの王道として、主人公2人のデザインやキャラクター像を正反対にすることを意識しました。また、「BIRDIE WING」の世界観は、賭けゴルフは存在するにせよ、ジュニアの世界選手権や日本の高校ゴルフなど日の当たる舞台も描かれています。しかし、初期の段階では、「バットマン」のゴッサムシティのように、犯罪がすぐ隣にあるアンダーグラウンドな世界設定にするという案もありました。それが、現在のような形になった理由は、若い人たちに夢を与える作品にしたいから。イヴや葵がゴルフで活躍する姿を通じて、世界で活躍できる自分を空想してもらいたいと思ったんです。

――ダブル主人公のひとりであるイヴについて詳しく教えてください。
稲垣　ゴルフに対して特別に思い入れがあるわけではありません。ゴルフが得意で金を稼ぐことができるので続けているだけであって、こだわりはまったくなかったんです。生きるか死ぬかのギリギリのところで生き甲斐を感じる破滅的なキャラクターで、生きる実感を得られるのがゴルフだったわけです。それが葵と出会い、ゴルフの楽しさを知りました。ここから、イヴの人生がガラッと変わっていきます。

――一方の葵はいかがでしょうか？
稲垣　イヴとは正反対の、典型的な優等生キャラクターですね。純粋にゴルフを楽しみ、今まで挫折や苦労をほとんど感じたことのないのが葵です。個人的には、若くして世界ジュニア選手権に優勝するような人のメンタルは想像外で、葵の心情を描くほうが大変でしたね。

――日本に帰った葵の活躍も楽しみです。
稲垣　今後、高校ゴルフにおける葵の仲間やライバルたちとの対決もあります。これまでのお話はイヴと葵の個人戦の印象が強かったと思いますが、今後は高校の威信を賭けた団体競技として、チーム同士の競争の側面も描かれ、物語はますます熱くなります。そのなかで、葵たちがどう変化し、どう成長していくのか。見届けていただけると幸いです。

――高校ゴルフでの仲間やライバルも、すでに作中に多数登場していますよね。
稲垣　シリーズを通じて数多くのキャラクターが登場するので、それぞれの個性を演出するのは大変でしたが、シリーズ構成の黒田洋介さんがうまくバランスをとってくれました。演じるキャストも、実力派の方ばかり。声を収録してみて、キャラクターの魅力がより深まりましたし、各キャラクターをしっかりと描くことができたと自負しています。

――そのなかでお気に入りのキャラクターはいますか？
稲垣　第6話くらいまででいうと、カジノの興行権をかけたゴルフでイヴと対戦したヴィペールですね。先ほどお話ししたアンダーグラウンド寄りのストーリーを検討していたときに生まれたキャラクターです。言動がマッドで、エピソードを明るくしてくれるところが好きですね。

【取材・文：星政明】