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1月より好評放送中のTVアニメ「上野さんは不器用」。奇想天外な発明品を使って後輩・田中を振り向かせようと奮闘する上野さんと、それをアシストしようとするもう1人の後輩・山下。そんなとある中学校の科学部の非日常的な日常を描いたコメディ。中学生たちの恋愛模様……とまとめるにはあまりにも奇抜過ぎる原作だが、アニメ化に挑んだ心境やいかに!? 監督・月見里智弘さんに訊ねました。
――本作に関わられたのはどういった経緯だったのでしょうか?
月見里 清水(香梨子・アニメーションプロデューサー)さんからある日「次の仕事を取ったどー!」と言われて、その流れでという感じだったんですが(笑)。原作を読んで、女の子たちの可愛らしい感じとギャグ、フェチ要素が合うと思って幹事のプロデューサーさんに僕を監督に提案したそうです。
――清水さんから特に要望されたことはありましたか?
月見里 原作のギャグが際どい感じなんですけど、僕の傾向として、その際どい感じをさらに強めてしまいがちなので「そこだけは注意して、少女マンガだと思って!」と、それはもう洗脳されるくらい言われました(笑)。とにかく可愛くしなきゃ、と。
――原作の中で気に入っておられるポイントはどこですか?
月見里 ただのラブコメ、ギャグじゃなくて、上野にはちゃんと科学者としてプライドがあるのが好きなんですよね。田中に好意を伝えようとしているんですけど、そこでプライドは曲げないというか、ズルをしないのが萌えポイントだと思っていて。一番好きなのが“カンチカン”が登場するエピソードなんですけど、発明が成功したうえで田中に想いが通じるようにこだわるのが本当に不器用だなぁって。あのお話では、発明が失敗だったことにすれば自分の欲求は満たせるんですよね。だけど作ったものがちゃんと作動しているから……。
――かえって想いが遂げられないんですよね。
月見里 そういう、いじらしい部分には読んでいるうちに気づいたんですけど。最初に可愛いと思ったポイントは、グイグイいくわりには途中で折れちゃうんですよね。最終的には乙女の羞恥心が勝ってしまうところ、それは普通に男性として見ていて萌えるというか、キャッチーだなと思いました。
――原作からアニメにするにあたって、一番難しかった点は?
月見里 キャラクターが可愛いんですけど、最近の流行りの系統ではなくて、ディフォルメが効いていてエッジが立ったデザインなんですよね。既存のファンに喜んでもらいつつ、新しいファンを取り込んでいくにはどうするかをキャラクターデザインの大和田さんと何度も相談しました。
――たしかに、ひと目で「あの作家だ」とわかる独自性があります。
月見里 色味に関しても、原作のカラー絵はビビッドで、アニメでこの感じを出すべきか悩んだんですけど、そこで清水さんに言われた「少女マンガ」というワードが響いてきて。ギャグの中身がけっこう攻めているじゃないですか。そこにコントラストの強いビジュアルが重なったアニメになると強すぎる印象にもなりかねないので、少し抑えてガーリーな方向に落ち着きました。原作ファンの方の反応は気になりましたけど、そこで抑えた分、ギャグは思い切りできますから、中和ですよね。画は可愛いけど相当際どいギャグをやっている、というギャップも狙っていました。
――放送は1話A・Bパート合わせて15分という形態ですが、難しさはありますか?
月見里 最初に15分と聞いたときには「マジか!?」と思いました。本編が正味9分半で、原作は1話12ページなんですけど、一度自分で声をつけて確かめさせてもらって、9分半を1エピソードで上野の怒涛のしゃべりのテンポ感を出すのは無理だなと。彼女の早口やギャグの移ろいの早さを出そうと思ったら、1話で原作2エピソードというボリュームしかないなと思いました。
――やはり尺的には短くてカツカツという感じでしょうか?
月見里 それが、上野の出番やセリフが少ない回は時間が余っちゃうんですよ。バランスが難しい(笑)。だからその回はゲストキャラクターの声優さんにゆっくりしゃべってもらって間をもたせたりしました。A・Bパートで定尺を決められていたら危なかったかもしれないですね。そこは任せてもらったんですよ、9分半の間でバランスをとっていいと。だから短いエピソードと長いエピソードで微妙に差がついているんですけど。
――制作の工程ではシナリオを作らず、原作から絵コンテを起こしていらっしゃるそうですね。
月見里 そうですね。これまでの作品でもショートアニメのときはその方法を採っているんですが、これだけしっかり描かれた原作があるなら、脚本をまたいで要素が棄損されちゃうよりはいきなりコンテを起こしちゃったほうが伝わるかなと思っていて。スケジュール的に端折りたいということもありますし。
――コンテ作業で苦労した点はありますか?
月見里 エピソードによっては部室の中でキャラクターの位置関係を捉えるのに苦労しました。でも(原作者の)tugeneko先生はアニメーター出身だけあってそのあたりはかなり意識して描かれているので、大きくは違わないんですが。
――tugeneko先生はアニメ化を意識して原作を描かれていると感じますか?
月見里 原作を描かれている以上はアニメになってほしいというか、作品には世に羽ばたいてほしいと思っていらっしゃると拝察しますが、だとしたらキャラクターを増やしたり、部室(理科室)から出て物語を展開しやすくされるのかなぁと。
――それもそうかもしれません。
月見里 このロケーションの思い切り方はすごいですよね。ひたすらアイテム(発明品)とキャラクターの関係だけでお話を作っているわけですから。お話づくりに窮したら新しいキャラクターを出してロケーションを替えるというのが定石ですよね。だけど自分で作品に縛りをかけて、いろんなネタをひとりでずっと考えていらっしゃる。これはガチガチのクリエイターだなと思いました。
――作品の内容とは裏腹にストイックというか、硬派な姿勢を感じます。
月見里 ただ、アニメでも部室の外に出せないし、みんな基本的に制服しか着ないから、“画変わり感”がどうしても出にくくなってしまいます。各話の場面写を出してもらっても「これって前の回じゃない?」と思われかねない(笑)。だからアニメではイメージ背景を多めに出しています。
――メインキャスト3人はどのように選ばれたのでしょうか?
月見里 tugeneko先生や編集部の方、プロデューサーの方々といろいろ話し合ったんですけど、最終的にはかなり僕の意見を通していただいています。芹澤 優さん(上野役)は特にそうだったんですけど、声に特徴があるのと、勢いとか感情の起伏を早口でありながらしっかり出せる人という観点で、一番マッチしていると思ってお願いしました。全セリフの半分以上をしゃべっているキャラクターですから、ここは監督として「この人だ!」と思う方にやっていただきたかったんです。朝のアフレコから絶叫していただきつつ、身振り手振りも交えて迫力ある芝居をしてもらえました。次の現場は大丈夫かなと心配になりましたけど(笑)。おかげで収録はすごくスムーズでしたね。
――山下役の影山 灯さんについては?
月見里 tugeneko先生とも意見やイメージがぴったり合ったんですよ。低めで抑え気味だけどキレるときはばっちりキレる。実は部内の統率をはかっているフィクサー的な一面もあって、部内をコントロールしている役ですね。たまに際どいことを言ったり、上野をしっかり見守っていたり、そこは落ち着いた影山さんの声が馴染んだんですよね。アドリブでも気の利いたことを言っていただいたり、印象的でした。黒さもコミカルさも持ち合わせていて、期待通りにやっていただけました。
――田中役の田中あいみさんは、選ぶ側としても非常に難しかったのではと想像するのですが。
月見里 “田中役の田中さん”を狙ったわけでは本当になくて(笑)。田中って感情がないわけじゃなくって、あんまり表情には出さないけど言うことはちゃんと言う男の子なので、その微妙な表現を田中さんの技量でなんとかしてもらったという感じです。音響監督からも非常に細かい指示を出してもらったんですが、田中さんなら応えてくれるという信頼があったからこその調整だったと思います。上野とはまたぜんぜん違う難しさがあるんですよ。上野は感情むき出しですけど、田中は抑えながら感情を出す必要があるので、表現力が豊かじゃないとできないと思うんですけど、それがすごく自然だったと思います。
――1月5日には放送に先駆けて先行上映会がありました。監督も来られていたそうですが、視聴者の方と一緒に作品を観るという機会はあまりないですよね。
月見里 めったにないですね。後ろから観ていたので、どのくらい楽しんでいただけたのかわからないですけど、狙ったところで笑いが取れていたので、そこは安心しました。特に原作から微妙に変更したシーン、「クマタンダー2号」の「次の人どうぞ~」と田中が言うところ。あそこは原作にはまったくなくて、田中の性格も若干変わっちゃっているんですけど、上野が超気合を入れてやっている後に何にも気にせずに田中が発する言葉のギャップで笑わせようと思っていたので、アニメオリジナルの些細なギャグシーンで笑いが取れたのは嬉しかったです。
――作品全体を通して、監督として特に注目してほしいところはどこですか?
月見里 まずはキャストの皆さんの演技ですね。あれだけ全力でやってもらったので、まずそれを楽しんでもらいたいですし、原作からもう一段階攻めたようなアニメならではの作画もあるので、そこを観てもらいたいかなと思います。原作をきっちり再現しているところもあるんですけど、アニメと観比べて両方楽しんでもらいつつ、両方から入ってきてくださる方々それぞれに「上野さん」を楽しんでもらえるといいなと思っています。
――OP・EDがつくのも、アニメならではですよね。
月見里 特にOPはミスリードを狙っているんですよね。あれを観ただけだとどういう作品に見えるかな、キャラクターがたくさん出てくる作品に見えるかなって(笑)。原作のエッジの効いた部分を抑えて、可愛らしさをより強調して作っています。最初に出てくるビーカーの中身も一見さわやかですし(笑)。本編を観ていると真意がわかるように意識しているんです。
【取材・文:御杉重朗】