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現在、好評放送中のTVアニメ「盾の勇者の成り上がり」。その放送を記念して、スタッフ&キャストによるリレー連載をお届けします。
第10回は、阿保孝雄監督とキャラクターデザインの諏訪真弘さんにお話をうかがいました。前編では、尚文とラフタリアのキャラクターデザインの裏側について語っていただきます。
――諏訪さんは本作にはどのような経緯で参加されたのでしょうか?
諏訪 キネマシトラスに移ってから「Under the Dog」(メインアニメーター)と「灼熱の卓球娘」(総作画監督)に参加しまして、その流れで「盾の勇者の成り上がり」のキャラクターデザインをやってみませんかというお話をいただきました。
阿保 最初に、キネマシトラスの小笠原(宗紀)さんから今回のキャラクターデザインに諏訪さんをご推薦いただきました。「卓球娘」では演出と総作監という形で組ませていただいたこともあり、諏訪さんの画の雰囲気は存じていたので、「盾の勇者」の原作に対してどんな画作りをされるのか、とても興味深かったですね。
――諏訪さんは本作にどのような印象をお持ちになりましたか?
諏訪 勇者がレベルアップして仲間がどんどん増えていくというRPGっぽさに懐かしさを感じました。自分もそういうRPGをよくプレイしてきたので。
――キャラクターデザインをする上で、最初にどういったことを考えましたか?
諏訪 作業的な話になりますが、なるべくシンプルなデザインにしたいと思いました。小説イラストは線が多く豪華絢爛なキャラクターデザインなので、まずはその線をいかに少なくして作画的な負担を減らすかというところですね。特に洋服が細かいので、アクセサリーなども取れるところは取っていこうと考えました。
阿保 私のほうからは、線の書き込みを少なくしつつも、書き込んであるように見えるようにしていただきたいという相談をさせていただきました。実際には線として描かれていない部分でも、トータルの見た目の印象として存在しているかのように、諏訪さんのセンスで情報量をコントロールして表現していただきたかったんです。
――難しい注文ではなかったですか?
諏訪 そうですね、気付いたらできてしまったという感じで……。
阿保 まさに諏訪さんのセンスですね。アップのときはこれくらい、ロングショットのときはこれくらいと、線の量のコントロールって描き手のセンスがよく出るんです。諏訪さんの画は、ロングショットでも描き込んであるように見えますし、アップからの流れでロングショットを見ても同じ情報量に感じられて、まさにこれがセンスなのだなと。
――最初にデザインされたのは尚文ですか?
諏訪 そうですね。
――尚文を描く際にポイントとなったのはどういったところでしょうか?
諏訪 原作のイラストレーター・弥南せいらさんに言われたのが、髪型の特徴ですね。渦を巻いているような髪型で、髪の毛がある方向にハネているんです。その方向に規則性があるので、ハネ方を逆にしないでください、と。
――確かに尚文の髪型は外ハネが特徴ですよね。
諏訪 ええ。それが難しくて、最初は苦労しました。
――尚文の表情などはいがかでしょうか?
諏訪 原作を読ませていただいて、尚文は「とにかく強い」というイメージを受けたんです。逆境でもめげない不屈の精神があって、何事にも真っ直ぐ立ち向かっていくような印象ですね。その上、仲間もしっかり守る主人公らしい主人公だなと。ティザービジュアルで尚文が仁王立ちしたような画を描いたのですが、あれが自分の中の尚文のイメージに近くて。表情にしても、たとえばアオリの表情などは見下している感じやふてぶてしさを出すようにしました。
――叫びや怒りの表情も多いですよね。
諏訪 そうですね。大学生だったとは思えないくらいたくましくなりました。ただ、第1話で罠に嵌められる前の尚文は、キャラクター設定よりわずかに目を大きくしていて、少し幼い印象にしています。
――尚文のキャラクターデザインについて、監督からオーダーしたことを聞かせていただけますか。
阿保 ダークファンタジー感やシリアスな部分が強く出てくる作品なので、そういうテイストのお芝居にも対応できるようにしたいと相談させていただいて、原作のイラストでも少し年齢感が高いものを参考にチョイスしました。
――原作よりも大人っぽく描くということでしょうか?
阿保 大人っぽくしてほしいというよりは、“美少年”感を増してほしいという感じでしょうか。自分としてはちょっとハンサムな男の子を描きたいというのが最初にあって。そこから諏訪さんのほうで原作と比べていただきつつアレンジしていただいて、現在の形に落ち着きました。
諏訪 そうですね。その流れで、先ほどの見下している感じやふてぶてしさを付け加えていきました。
阿保 最初は、表情集には喜怒哀楽を表現したものがもっとたくさんありましたよね。主人公然とした二枚目系だったり、今より爽やかなバージョンだったり。
諏訪 ありましたね。
阿保 その中から尚文の“闇堕ち”したようなワルっぽい表情や芯の強さが出ている表情、そして優しい表情など、本編で使っていくのはこの辺かなというものを選ばせていただきました。
――では、ラフタリアについてはいかがでしょうか。監督はどういったオーダーを出されましたか?
阿保 ラフタリアについては特に大きな要望みたいなものはなかったですね。幼少期も成長してからも彼女の内面が外見に反映されていたらいいな、というくらいだったかと。短い時間ではありましたが、尚文と出会ってから心のありように変化があったわけですから、その影響が外見にも出ていたらいいなと思ったんです。諏訪さんから上げていただいたものは、とてもしっくりくるデザインでしたので、こちらから何か変更をお願いするようなことはありませんでした。
諏訪 僕が意識したのは、ちゃんと戦える、強くてカッコいい剣士であるということですね。
――ラフタリアはあくまでも剣士であると。
諏訪 そうですね。
阿保 その剣士としてのラフタリアの表情が個人的にすごくいいなと思ったんです。ラフタリアのかわいらしさって、ネットでもだいぶ好評をいただいていますが、それはきっと剣士としてのカッコいい部分をしっかり押さえてくださったから、かわいらしい部分が引き立ったのかなと考えています。
――幼少期のほうで意識したことは?
諏訪 奴隷時代は本当に弱々しくて、守ってあげたくなるようなデザインを心がけました。体もやせっぽちで手足を細くして、一見かわいそうに見えるような感じですね。尚文と出会ってからは、そこにかわいらしさを加えようと思いました。
――ラフタリアを描く上で、大変だったことなどはありますか?
諏訪 彼女も髪型ですね。カールしている上に段になっているんです。この処理が難しくて、バランスよく段を作れるときと作れないときがあって、今でも悩まされます。
――ほかにも様々なキャラクターが登場しますが、特別難しいというキャラクターはいますか?
諏訪 やっぱり尚文ですね。これは先ほども話した髪型問題なんですが、自分だけではなくまわりのアニメーターの方も難しいと言っていますし、どうすればいいのかと悩みをいただくことがあります(笑)。自分も描くたびに変わってしまったことがあったので、それがまた難しい印象を与えているのかもしれません。
阿保 とはいえ、尚文やラフタリアのような主要キャラクターはアニメーターの皆さんもしっかりキャラクターデザインを押さえようという意識が出てくるんですが、オルトクレイや奴隷商のようなその他のキャラクターはたくさん登場するわけではないので、やっぱり一番しっくりくるのが諏訪さんの画になるんですね。諏訪さんの総作監のお仕事としては主要キャラクターがメインになるのですが、ポイントポイントで諏訪さんに王様の威厳を強くしてほしいとか、奴隷商の顔に怪しさを加えてほしいと思うときがあります。
――ちなみにオルトクレイや奴隷商は描きやすいデザインなんですか?
諏訪 奴隷商はある種、記号化されたキャラクターなので描きやすいですね。でも、オルトクレイは単純にパーツが多くて大変でした。衣装も髪型も細かくて、これでもかなり線を少なくしたほうですが……。あと、オルトクレイはちょっとカッコよく描きすぎてしまったかもしれないと反省しています。作品の内容とは合ってなかったかなって(笑)。
阿保 いいと思いますよ(笑)。
諏訪 尚文と敵対する人なのに、普通にイケてる中年みたいな感じになってしまって。
阿保 でも、威厳を保ちつつ、一方で尚文に対する恨みやメルティへの後ろめたさのような細かい心情が出ていてよかったです。
諏訪 威厳があるんだけど、小物っぽいんですよね。それも難しいところですね。
――逆に描きやすいな、馴染むなというキャラクターはいますか?
諏訪 それも尚文ですね。何回も描いているぶん、自分の中で洗練されていっているので、やっぱり馴染んできている実感はあります。
【取材・文:岩倉大輔】