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好評放送中のTVアニメ「彼方のアストラ」をさらに盛り上げるための、キャスト&スタッフによるリレー連載がスタート。
第5回のゲストは、音楽を担当する横山 克さんと信澤宣明さんが登場。カナタたちの冒険とドラマを表現するために、どんなことにこだわったのかを伺いました。
――「彼方のアストラ」 という作品にはどんな第一印象をお持ちになりましたか。
横山 この作品には二つの面白さがあるなと感じました。一つは作品を読み始めたときと読み終えたときで、作品の印象がガラリと変わるところ。ラストのどんでん返しはやっぱり興奮しました。もう一つは、いろんな惑星をまわって冒険をするところ。映画の「オデッセイ」や「インターステラー」が好きなのですが、そういった映画とリンクするところもあり、ワクワクしました。
信澤 サスペンス要素、ミステリー要素はもちろんですが、特にいいなと思ったのはカナタたちの冒険がわりとコミカルに描かれているところですね。宇宙の漂流って本来は過酷なことですし、暗い話になりがちだと思うんです。でも、過酷なお話が明るく前向きに演出されていて、篠原(健太)先生のすごさを感じました。
――今回、信澤さんと二人体制の理由を教えていただけますでしょうか。
横山 信澤さんとは、これまで何度か一緒に組んできて意思の疎通が取りやすいというのが一番の理由です。いろんな音楽性を求めて複数人体制になることがありますが、僕は複数であっても統率の取れた音楽であるべきだと考えているので、二人で話し合いながらコンセプトをまとめていきました。
信澤 横山さんからは「二人で作るけれど、一体となったものにしたい」という提案をいただきました。コンセプトについて細かく打ち合わせたので、制作は別々でしたが出来上がった曲のブレみたいなものはまったくないですね。別の仕事でもほかの作家さんと組むことがありますが、横山さんの打ち合わせが一番細かいので、横山さんの意図をしっかり汲んでから取り掛かれるという安心感があります。もちろん、すべて横山さんの言ったとおりにやるわけではないので、曲を聴いていただければ、二人でやる意味も感じ取っていただけるのではないかなと思います。
――横山さんは最初にどういうコンセプトを考えられたのでしょうか。
横山 曲としてはシリアスなものを目指したいと考えていました。信澤さんも言っていましたが、「彼方のアストラ」は壮大な世界観がある一方で、絵柄や演出はわりとコミカルなんです。ともすると、このコミカルさに引っ張られて音楽もコミカルにしたくなるんですが、そうすると作品の格が下がってしまう。もちろん、要所要所にコミカルな音楽は必要になりますが、基本的にコミカルさは画とお話に任せて、音楽は作品の根底に流れるシリアスな部分をすくい取った格調のあるものにしたいと考えました。
――楽曲の振り分けはどのように?
信澤 特に決め事はなかったのですね。いただいた音楽メニューにどんな場面で流すのかというカテゴリがあるのですが、なるべくジャンルを偏らせずバランス良く配分することになりました。
横山 たとえば、コミカル担当、シリアス担当と振り分けてしまうと、曲の方向性がバラバラになりかねないんです。それがいい作用をもたらすこともありますが、「彼方のアストラ」の音楽に必要なのは統一感なので、僕も信澤さんもそれぞれコミカルとシリアスの両方をやるという体制にしました。
――今回、レコーディングを取材させていただきましたが、オーケストラを使った曲については海外のオーケストラが演奏していますよね。海外のオーケストラを使う理由というのは、どういうところが大きいのでしょうか。
横山 一番大きい理由はスタジオの広さで、東京のレコーディングスタジオは海外のスタジオと比べると土地の都合上どうしても小さいということです。東京で一番広いと言われるところでも、私としてはダブルカルテットが適正だと感じます。 そこに6型(ストリングスにおいて1stヴァイオリンが6人の編成)を入れても得られるサウンドに対しての空間が狭く、空間のキャプチャーが理想通りにいきません。
――空間をキャプチャーする、というのはどういうことでしょうか。
横山 レコーディングというのは、空間をキャプチャーするものだと思うんです。今はシンセ音源が発達しているので基本的にシンセでどんな音でも出せます。じゃあ、あえてレコーディングする意味は何かというと、それは空間の状態、空気の振動をキャプチャーしたいからなんです。そのためには広さが必要になります。
広い空間に人数を増やせれば、音のにじみが出る。音のにじみが出るとテクスチャー、つまり質感が生まれるんです。「彼方のアストラ」の広大な世界観を表現するには、このテクスチャーが必要になると考えたので、海外でレコーディングをすることにしました。もちろん、日本が適しているという場合もあります。
――それはどういった場面でしょうか。
横山 フレーズやかたまりとしての動き、点や線を重視した動きがほしいときですね。それは日本のオーケストラ、日本のスタジオが適しています。要は適材適所なんです。今回のサウンドを考えたときに重要なのは壮大さやテクスチャーだった、と。
――演奏はブルガリア・ソフィアのオーケストラとのことですが、日本のスタジオと現地でSkypeを使ったやり取りをされていることに驚きました。
横山 コミュニケーションはSkypeで、音声のやり取りはまた別の専用のソフトを使っています。現在は、より便利なやり方もあり、ほぼ遅れもなくコミュニケーションが可能な技術もあります。
――信澤さんは今回のレコーディングについてはいかがでしたか?
信澤 最初の打ち合わせのあとに横山さんから「海外のオーケストラでやってみない」というお話をいただいたんです。日本でのレコーディングと勝手が違うので、それを前提とした曲を作らなければいけないというのは大きな課題でした。
横山 実際やってみてどうでした?
信澤 今回はストリングスメインのオーケストラになったのですが、その中でどうやって彩りをつけていくかは自分の中で工夫できたところかなと思います。SFの冷たい空気感を出せるピアノやストリングスを、SF的ではない部分にどう応用できるかを特に考えました。
――こういった制作方法は今後当たり前になっていくのでしょうか?
横山 今後ではもう遅くて、もう当たり前になっているべきなのと、コンポーザー(作曲家)がその選択肢を持ち得るべきだと考えています。選択肢がなければ、曲の幅も狭まってしまいますから。もちろん、「海外のほうが上手い」ということではありません。大事なのは上手い下手ではなく、その曲に適したレコーディングができるか。そして、その選択肢や手段を持っているか。そう難しい話ではないので、できなければいけないと思いますね。
信澤 海外のスタジオで大編成のストリングスを録るという経験は初めてでしたが、実際、海外でレコーディングしたものを聴くと自分の作る音楽にも変化が生まれるというか、幅が広がったなという感覚がありました。ただ、横山さんがおっしゃったように、やっぱり適材適所だということも実感できて。やってみないとわからなかったことですし、今回はとても勉強になりました。
――さて、第4話ではユンファのキャラクターソング「Star of Hope」が披露されました。こちらはどのようなコンセプトで作曲されたのでしょうか。
横山 やりたいことはミュージカルでした。ミュージカルは独特な言葉の乗せ方をします。本来、曲に乗る言葉というのは“歌詞”であり、“詩”とは違います。ミュージカルの言葉の乗せ方が独特なのは、詩を強引にメロディーに乗せているからなんです。「Star of Hope」はもともと原作にある詩をメロディーに乗せないといけないので、最初からミュージカルを狙っていきました。
歌唱の難易度も非常に高いのですが、早見(沙織)さんが歌うということで難易度を気にしなくてよかったのは大きかったです。「四月は君の嘘」という作品で早見さんの歌を録ったことがあり、どれだけ上手なのかはよくわかっていましたから。普段でしたら歌いやすく調整することもありますが、一切遠慮することなく書きたいものを書くことができました(笑)。
――では最後に、「彼方のアストラ」ファンに一言お願いします。
信澤 原作を読んでいる方も読んでいない方もいらっしゃると思いますが、音楽もラストに向けてストーリーを暗示するようなものにしているので、ぜひ音楽にも注目していただきたいです。音楽に集中していただくことで、物語の推理も一段と捗るかなと思います。
横山 「宇宙」「SF」というキーワードからイメージするものから外れない音楽を作っていますが、ただ、そこに「彼方のアストラ」だったらこうするというエッセンスをたくさん散りばめています。音楽とフィルムがどう重なっているのかを楽しんでいただきたいです。
【取材・文:岩倉大輔】