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「社畜じゃねえじゃん」と突っ込めるほっこりギャグ路線を狙いました。『アフリカのサラリーマン』連載第8回畳谷哲也監督インタビュー

動物たちが世知辛い世間のサラリーマンとして大奮闘…と思いきや、暴言と奇行で日本人的社会を突破する!? 無事に放送を終えたTVアニメ『アフリカのサラリーマン』のインタビュー連載のラストには、満を持して畳谷哲也監督が登場。「ライオン先輩たちに負けないくらい社畜でした」と、今だから語れる制作裏話とは!?

――監督は普段、アニメ以外のお仕事をすることも多いそうですね。

畳谷:アニメーションを用いたコマーシャルやミュージックビデオなどの制作が多いです。テレビアニメ系だと、神風動画さんが制作した『ジョジョの奇妙な冒険』第1部から第3部までのOPではクレジットの部分のアニメーションを書かせていただきました。アニメ本編の制作は初めてで右も左もわからず、でもテレビアニメが好きですし監督に選んでもらったのはありがたいし、「とにかく前に進むしかない」という気持ちでした。

――原作漫画を読んだ印象はどうでしたか?

畳谷:すごく余白があって、映像を想像しやすかったですね。コマとコマの間に別のコマがあって、それを見る側が勝手に想像しやすいといいますか。それにショートショートの物語で、設定や見せ方の制限が少ないぶん、挑戦を入れやすいというのもありました。リアルな絵はもっと怖そうな感じを出そうとか、コミカルなシーンは3DCGにしちゃおうとか、いろいろ想像しながら読んでいました。

――ある意味、アニメ本編の制作は初めてながら今までの経験を生かせた、ということでしょうか。

畳谷:それはすごくありがたいことでした。型を知らないがゆえに、型にはまったことができないので…。むしろ、そういった手法をOKしてくれた原作者さんやプロデューサーさんに感謝しながら、自分に最大限できることを探しました。まあ、大変ではありましたけど…。

――大変でしたか。

畳谷:「これくらいの量なら何日でできる」という経験値がないから、言うなれば、頂上の見えない山を全力疾走で走っていました。当然バテるので、1歩進んでは2歩下がるような感じで、逆流に対して必死で走ったけど、無茶を言っていたのでスタッフ・関係者の人たちはつらかったかもしれません。キャラクターたちと一緒に、自分も社畜になっていたかも(笑)。

――(笑)。そんな中でも多くのファンを獲得した作品だと思いますが。モチベーションを保つのは大変だったでしょうね。

畳谷:テレビアニメの制作には憧れていたし、待ち望んでいたことなので。というか、誰もが望むような大舞台にどこぞの童(わっぱ)がという中で立たせてもらってますから、腹括るしかなかったですね。パロディもかなり多用しましたが決して悪ふざけではなく、それぞれのアニメ作品が好きだからです。たとえば『らき☆すた』にはパロディ(元ネタとなるもの)がたくさん入っていますけど、他のアニメを見ていないとわからなくて、いろんなアニメを見てからもう一度見ると、『らき☆すた』はやっぱすごいな〜、アニメカルチャー最高!って感じられると思うんです。

僕もそういうのをやりたくて。かといって見たことがない映像を作るのは難しいし、影響を受けたアニメを参考にさせていただきながら、とにかく手法含め、好きなものをぶつけまくるしかないなと。戦略とまではいかなかったかもしれませんが、見てくれた方のフィードバックから感じることが多かったです。

――考えもしないようなフィードバックもあったんでしょうか。

畳谷:毎話数リアルタイムでみなさまの反応を見ていたのですが、予想以上にウケたところと、全然ウケてないところがあったのがすごく新鮮でした。「ここ面白いな〜」って思ってリアタイリロードしても誰も反応していなかったり(笑)。ネット検索のサジェストで「炎上」が出るのは予想外でしたが、それは良し悪しとは別に結果として受け止めています(笑)。でも、これだけの人気声優さんが集まっていることに対するフィードバックだと思いますし、反応してもらえるから全力で前向きに作ることができました。めちゃくちゃ図々しいですが、結果は気にせず、最悪失敗してもいいやって思える余裕を持って、その代わりに全力で面白いことを取り組もうとしていました。

――アフレコ現場では、キャストの皆さんからは「すべてを受け入れてくれる監督」という声が挙がっていましたが。

畳谷:みなさんは僕なんかより圧倒的に、何をしたら面白くなるのかを知っていらっしゃる方々なので、それを僕のディレクションによって制限されてしまうのは避けようと思っていました。大変な思いをさせてしまったと思うのですが…(苦笑)。ギャグで面白いものと作ろうとなったときに、全員でゲラゲラ笑いながら作れる作品を目指したかった、というのもあります。しかめ面ではなく。隣の人が笑ってたら、笑いが伝染するような感覚ってあると思うんです。

――特に現場で笑いが止まらなかったような回はありますか?

畳谷:10話はメインキャラクターの編成が多めで、アドリブの真骨頂だったなと。特に、ツルが広告収入を得る最後のカットですね。たしか最初に大塚(明夫)さんが振って、津田(健次郎)さんや下野(紘)さんが合いの手を打ち、そこでなぜかカメ社長の石田(彰)さんが入ってきて、最終的にカメ社長がセリフを締めるんです。あのシーンはほとんどアドリブで、テストよりもさらに面白い返しを全員で重ねてくるという、間合いとか尺のテンポ感が秀逸だったと思います。久しぶりにお腹が痛くなるくらい笑って、会話ができなかったです。地獄のアニメ制作におけるオアシスでした。

――ちなみに、石田さんが連載で語っていた「物語後半で登場する企業ドラマの肝とも言える大ネタ」というのは?

畳谷:11話の最後あたりからちょいちょい登場していた「シネマカフェプロジェクト」が、いよいよ動き出したところですね。一つのアニメのタイトルとして着地させる必要があったので、けっこう真面目な感じで展開させたんです。ちゃんとライオン先輩やオオハシが働くし、「クソバード」なんて言われているオオハシが、吊り橋効果じゃないけど一番かっこよく見える瞬間があるかもしれない。オオハシっていかに自分の人生を充実させるかを考えている世代で、それを極端に描いているから遊ぶときは遊ぶしサボるときはサボる。でもやらなきゃいけないときは、会社の存亡をかけて最終的に頑張るんです。最終話に向けては笑いがほとんどないので、それを視聴者の方がどう受け止めてくれたのか…。でも、なんだかんだ、いい会社だよなって思いますよ。

――ライオン先輩たちの会社がですか?

畳谷:そうですね。かなり平和的な会社だと思います。残業代もボーナスも出ますしね(笑)。むしろ社畜を追体験しようと思い、僕もゲスな感じで頑張ろうとした結果、自分のほうが社畜になった気がしますね(笑)。なんなら、もっとブラックで陰湿な方向に振ることもできたんですよ。仕事がうまくいかず、同僚には陰口を叩かれ…という「超社畜」にすることもできたけど、「社畜じゃねえじゃん!」と突っ込めるくらいのほっこりギャグ路線がいいのかなと。「こういうやつがいるから笑ってやってくれ」と。それで、「あ〜明日も仕事するか〜」みたいな気持ちになってくれたら、作った側としてはありがたいですね。

――いよいよBlu-rayやDVDも発売されますが、見返してほしい点はありますか?

畳谷:4話で初登場する「卑屈兎」というアニメのオリジナルキャラがいて、じつは2話や3話でも堂々と出ているし、そこから最終話まで1カットだけ出てくるんです。すでに見つけている人もいるみたいですけど、しれっと映っているので探していただけたら。それと、とにかくアドリブがすごくて、テレビで聞き取りにくいものも多いんですよ。トカゲはずっとブツブツ言っているし、下野さんと津田さんが普通に雑談をしていたり、福山潤さん(ペン三郎役)がずっと「いらっしゃーい」って言ってたり。音声を上げるか、イヤホンで聴いてもらってもいいと思います。声優さん目当てで見る人にもっと聴いてもらいたくて、パッケージでなんとかできないか考えたんですけどね…。JKの喜多村英梨さん&小倉唯さんのアドリブもすごいです! やっぱり演技力の高さがすごいんですよ。

あとパッケージデザインが「超オフィス」で凝っているので、こそも含めてぜひ手に取って欲しいですね。

――今後もアニメ作品に携わっていきたいお気持ちはありますか?

畳谷:もちろん、お仕事をいただけるなら。学生時代にアニメを観てアニメを作ることを目指そうと思いましたし、今でもアニメを見るのが生きがいなので。そんなアニメに仕事で関わらせてもらえるのは本当にありがたいことです。ですので、「アフリカのサラリーマン」Blu-ray&DVDを買ってもらえたら嬉しいです!

【取材・文:吉田有希】

【データ】
■TVアニメ「アフリカのサラリーマン」Blu-ray/DVD BOX
上巻:2020年1月24日(金)発売/第1話~第6話収録
下巻:2020年2月26日(水)発売/第7話~第12話収録
価格:Blu-ray BOX…税別1万5000円/DVD BOX…税別1万3000円 ※上下巻共通
特典:アニメ描き下ろしアウターケース、原作・ガム描き下ろしコミック掲載ブックレット、特典映像 ※上下巻共通
<店舗別購入特典>
キャラアニ…アニメ描き下ろしイラスト使用ラバーキーホルダー2個セット ※上下巻それぞれに付属
アニメイト…アニメ描き下ろしイラスト使用アクリルスタンド ※上下巻それぞれに付属
Amazon.co.jp…アニメ描き下ろしイラスト使用アクリルキーホルダー3個セット ※全巻購入特典

リンク:TVアニメ「アフリカのサラリーマン」公式サイト
    公式Twitter・@afusara_P
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