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あてもなく、気ままに諸国を旅する少女・イレイナ。行く先々でさまざまな文化や慣習に触れ、幾多の人と出会いを果たしますが、旅人である彼女は決して一か所に留まることはなく、再び旅の途へと戻っていきます。これはまだ若き魔女の、出会いと別れの物語――。
好評放送中の「魔女の旅々(魔女旅) 」は、原作・白石定規さん、イラスト・あずーるさんによる同名の連作短編式ファンタジーノベルを原作としたTVアニメです。WebNewtypeではそんな本作の魅力を掘り下げるべく、スタッフやキャスト陣へのリレーインタビューをお届けしています。連載第9回は、窪岡俊之監督にお話をうかがいました。
――本作のオファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
窪岡 ノベル原作の作品は今回が初めてでしたので、当初はコミック原作の作品よりは作るうえでの自由度は高いのかな、という印象がありました。コミックが原作だとファンのみなさんの中に確固たるビジュアルイメージができあがっていますので、それを見定めてそこにしっかり合わせていく必要がありますので。
ですが、そうしたビジュアルイメージがないならないで、コンテマンの間で作品へのイメージにぶれがあったりして、そこを適宜調整する必要がありました。コミック原作はコミック原作ならではのメリットもあるのだなと知りました(笑)。
――原作に触れての印象はどのようなものでしたか。
窪岡 イレイナのキャラクターはもちろん、あずーるさんのイラストと時おり描かれるシリアスな物語とのギャップや、魔法使いは女性優位である独自性のある設定など、さまざまなところに惹かれました。
また、シリアスだったりコミカルだったりと振れ幅が大きいエピソードをどのようにチョイスするかでアニメのテイストも大きく変わりますので、そこは慎重に選ぼうと気を引き締めました。
――アニメ化するエピソードはどのように選ばれましたか?
窪岡 イレイナが旅をしていくなかで、かつて出会った人たちと再会を果たすのは"旅モノ"の醍醐味だと感じましたので、そのテイストをアニメにも入れてほしいとシリーズ構成の筆安(一幸)さんにお願いして構成案を出していただき、それを元に主要スタッフで話し合いを重ねて固めていきました。
――アニメ化にあたり、強く表現したいと思ったのはどこのようなところになりますか?
窪岡 ノベル作品を映像化させていただくわけですから、ビジュアルを通して作品世界の存在感をいかに出していくか……というのは深く考えました。ベースは中世ファンタジー風の世界であるとして、イレイナが訪れるさまざまな国の描き分けをどうしようかと。今回は内尾和正さんに描いていただけたコンセプトアートがとてもすばらしいもので、そのお力も借りてかなり存在感があるものにできたのではないかと思っています。
あとは、架空の世界があり、そこに人が暮らしているなら当然存在するものとして、本作独自の文字をきちんと作り込みました。『ニケの冒険譚』に印刷されている書体のデザインはプロップデザインの水村(良男)さんが、イレイナが日記に書いてる筆記体は2Dワークスの杉本(京子)さんが担当しましたが、その手書きの文字がどうもぎごちなくて。
――それまで書いたことがない文字なわけですしね。
窪岡 はい。とはいえ、それをニケやイレイナのような"その世界で物心ついた時から文字を使ってきた"キャラクターの字とするには不自然さがありましたので、まずは100回書いて手慣れた感じを出してほしいとお願いしたら、本当に100回以上繰り返し書いてくれまして。おかげさまでかなり流麗な文字になり、当初のイメージに近づけることが出来ました。『ニケの冒険譚』の書体はフォント化したのですが、手書き文字は日記とサブタイトルを含め、毎回杉本さんが自分で書いています。
――本作の文字を解読する、という楽しみ方もあるわけですね。先ほど話に挙がった内尾さんのコンセプトアートは本作の公式サイトで公開されていますが、どれも背景が本当に美しく、目を引くものばかりです。始めて見たときの感想はいかがでしたか。
窪岡 発注する際にこちらから大まかなイメージをお伝えして、そのうえで「線画をベースに、色は淡いものをラフに乗せていただければ大丈夫です」とお伝えしたのですが、それであのビジュアルを描いていただけましたので、本当にありがたかったです。あとは、テレビシリーズという制限のあるなかで、内尾さんが描いてくださった世界にどこまで近づけるかの勝負でした。
――美術設定は具体的にはどのように詰めていかれましたか。
窪岡 たとえば、規模の大きな町には城壁や外壁があるわけですが、魔女はみんなほうきで空を飛べるわけですよね。そうであるならば、この世界における城壁や外壁の存在意義とは何か? おそらく、ある程度は形式的なものになっていて、そして魔女たちもその形式にのっとって、入国する際はきちんとほうきから降りるのではないか? というようなところから雰囲気を固めていきました。美術設定は滝口(勝久)さんが非常に緻密な設定を描いてくれました。フランの家の内装など、モダンでありながらどこかかわいらしさがあるのは彼のセンスだと思います。
――町の外壁ひとつ取っても、そこまで深く考えて決めておられるのですね。メインキャラクター4人を描くうえで、気を付けていることもお聞かせください。
窪岡 イレイナはしたたかなところもある子で、原作ファンの方たちの感想をネットで探してみると、「腹黒」とか「お金にきたない」とか結構な言われようをすることもあるんですよね(笑)。でも、だから嫌われているかというとそうではなく、そんなところも含めて好かれているのだなと。
――個人的にも、イレイナのお金にがめついところはむしろチャームポイントに近いと感じています(笑)。
窪岡 原作はイレイナの一人称だからこそ、よけいキツく感じられてしまう面もあるだろうと思い、アニメ化するにあたっては言い方の一つひとつに気を使いました。いろいろな意味で、自分に素直な子なのだろうなと。
あと考えたのは「そう、私です」をアニメではどうするかということです。イレイナを象徴するフレーズではありますが、誰かに向けて発声しているセリフではありませんので。アニメではこのフレーズは付かないという選択肢も考えましたが、最終的にはモノローグとして入れることにしました。
――それでは、サヤ、フラン、シーラについてもお願いします。
窪岡 サヤは"やらかしがち"な子で、好き嫌いが分かれそうなタイプだという印象です。第2話では、孤独な環境で彼女なりにがんばっていたという姿がうまく伝わっていればよいなと思います。今後のエピソードでも登場しますので、視聴者のみなさんにも好きになってもらえたら嬉しいです。
フランは一見何を考えているか分からないようなところもありますが、イレイナの師として、厳しいところは厳しく、かっこいいところはかっこよくメリハリをつけて描くことを意識しました。フランは親のような目線でイレイナを見ていると思いますが、僕も子供がいますので、制作時はフランにシンパシーを覚えることもありました。
シーラは今後の登場となるキャラですが、かつてはヤンキー、今はしっかりした大人の女性…と分かりやすく、かつ魅力的なキャラだと思います。個人的にも気に入っていて、ついつい贔屓しそうになってしまうのでそうならないよう気を付けました(笑)。
――窪岡監督ご自身についてもお聞かせください。アニメーション監督はそこにいたるまでのキャリアがさまざまで、それもあって監督としてのスタンスなども個々人によって異なるかと思いますが、窪岡監督がとりわけ力を入れるセクションはありますか?
窪岡 僕は作画出身ということもあって、やはり絵回り…その中でもコンテかなと思います。コンテが芯をとらえたものになっていないと、フィルムが最後まで芯から外れたものになってしまいますので。
あとは撮影でしょうか。いつも、少しでも理想の絵に近づけるために最後までこだわっちゃいますね。僕自身もAfterEffects(撮影で用いられる、Adobe製のソフトウェア)などを使い、「このカットはこういうイメージで」と見本を作って撮影スタジオのシアンさんにお渡しすることもよくありました。今回はキャラの色トレス処理、質感処理、そして大いに悩んだ魔法表現にもずいぶんとご協力いただきました。
新型コロナウイルスの感染拡大が起きる前には、連日のように撮影スタジオに通い詰めることもありましたが、今はリモート環境を構築し、リアルタイムで画面を共有して行っています。案外、これでもできるものですね。やり方としては悪くないなと思っています。
――もしイレイナのように旅や旅行をするなら、行きたいところはありますか?
窪岡 TVアニメ「はるかなレシーブ」の制作時に沖縄へロケハンに行ったのですが、湿気が少ないおかげで思っていたよりすごしやすく、県全体から漂うどこかのんびりとした雰囲気もすごくよかったので、もう一度、今度は家族で行ければなと思っています。テレワークで沖縄からアニメ制作! …とかできたらいいですね(笑)。
――時世にあわせ、アニメ制作環境が少しずつ変わりそうですね。イレイナにとっての「ニケの冒険譚」のように、幼いころに読んで印象に残った本はありますか?
窪岡 オスカー・ワイルドの子供向け短編小説「幸福な王子」がすごく印象に残っています。楽しいお話も好きですが、長く記憶に残りやすいのは悲しいお話なのかな。
それと、物語ではないのですが、幼いころ兄の部屋に魔女のことを記した図鑑のような本がありまして。兄の部屋に勝手に入っては、それを夢中になって読んでいました。当時の自分にとっては、その本が不思議の世界につながる入り口だったのかもしれません。
――悲しいお話に、魔女の図鑑。くしくも、どちらも「魔女旅」につながる要素を持つ本ですね。それでは最後に、アニメの今後の見どころをお聞かせください。
窪岡 第9話は、おそらくアニメで一番重い話になると思います。ある意味で「魔女旅」らしいともいえるかもしれません。その後も、最終話まで自分が気に入っているエピソードが続きます。スタッフたちががんばってくれていい仕上がりになっていると思いますので、どうか最後までご期待ください!
次回の「魔女の旅々」リレーインタビューは、シリーズ構成・脚本の筆安一幸さんにお話をうかがいます!