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あてもなく、気ままに諸国を旅する少女・イレイナ。行く先々でさまざまな文化や慣習に触れ、幾多の人と出会いを果たしますが、旅人である彼女は決して一か所に留まることはなく、再び旅の途へと戻っていきます。これはまだ若き魔女の、出会いと別れの物語――。
原稿放送中の「魔女の旅々(魔女旅)」は、原作・白石定規さん、イラスト・あずーるさんによる同名の連作短編式ファンタジーノベルを原作としたTVアニメです。WebNewtypeではそんな本作の魅力を掘り下げるべく、スタッフやキャスト陣へのリレーインタビューをお届けしています。連載第10回は、シリーズ構成と脚本を手がけた筆安一幸さんにお話をうかがいました。
――本作のオファーを受けた経緯や、その時のお気持ちをお聞かせください。
筆安 KADOKAWAさんの他の作品のアニメで脚本を担当させていただいたご縁で、プロデューサーからお声がけいただきました。かつて、メガCD(編注:1991年にセガ・エンタープライゼス(現セガ)から発売されたゲーム機)で「LUNAR ザ・シルバースター」(1992年発売。窪岡俊之監督がキャラクターデザインを担当)に夢中になった僕にとって窪岡監督はレジェンドですのでお会いする前は緊張していましたが、気さくな方でよかったです。
――Twitterでも「LUNAR」のパッケージの写真をアップロードされておられましたね(笑)。「魔女旅」の原作を読んでの感想はいかがでしたか。
筆安 短編集、かつロードムービー風の作品ということで、明るい話、暗い話、バカバカしい話がバラエティ豊かにそろっているなと。アニメとして楽しい作品になりそうだなと感じる一方で、アニメをひとつのシリーズとしてどうまとめあげるかはしっかり考えないといけないなと感じました。あと、これは脚本の範疇ではないのですが、舞台が次々に変わって新たなゲストキャラクターがどんどん登場するので、制作現場は大変だろうなぁと……(笑)。
――構成は具体的にどのように詰めていかれましたか?
筆安 窪岡監督、プロデューサー、僕で原作のどの話をやりたいかを持ち寄り、それを元に検討しました。明るい話ばかりでも、逆に暗い話ばかりでも「魔女旅」らしくはならないと思いましたので、偏りが出ないようにというのは考えました。
そして、短編の連作式という形式はどこで読み終えても収まりがよいですが、それは逆に言えば、全12話のパッケージとしてまとめるのが難しいということでもあります。アニメでは全12話をつなぐものとして、原作では第3巻で始めて描写が出てくる日記を第1話から登場させることにし、イレイナが日記を付ける描写も端々に入れました。
――原作第1巻の最初のエピソードはアニメ第2話で描かれた魔法使いの国でしたが、そうした理由でイレイナの旅立ちがアニメの第1話になったのですね。
筆安 もちろん、原作通りに第1話はサヤと出会う話でもいいのではないかという案もありましたが、あの話を第1話にすると、アニメで初めて本作に触れる人にサヤの印象が強くなりすぎてしまうのではないかという懸念もありまして。
――たしかに、毎話登場するというレギュラーキャラクターではありませんしね。
筆安 ですので、ちょっと分かりやすすぎるかなとも思ったのですが、素直に時系列に沿ってイレイナの旅立ちから描くことにしました。第2話は明るい話にしようということでサヤのエピソード、第3話は反対に暗いお話も見せよう、第4話では派手なアクションを見せよう……というコンセプトで決まりました。
ここまでで、アニメからの方にも本作がどのような作品かが伝わるかなと。また、暗い印象ばかりにならないようにと、原作第1巻のエピソード「旅の途中」に登場する"筋肉の人"を、監督の強い希望もあり、アニメ全篇を通してあちこちに登場させることにしました。
――画面に入ってくるとやたら印象に残ります(笑)。そういえば第1話ではイレイナの父親が登場していますが、原作よりもよく食べる人に描かれている印象を受けました。あれは筆安さんによるキャラクター付けでしょうか?
筆安 旅情感や土地ごとの特色を出すためだと思いますが、脚本を書くにあたって窪岡監督から「食事の描写を大切にしたい」というオーダーがありましたので、シリーズ全体でできるだけ描きました。第1話では、その役目を果たすためにイレイナのお父さんに白羽の矢が立ったという感じで、監督がコンテで膨らませたのだと思います。
――では脚本執筆の際、メインキャラを描くうえで気を付けたことはありますか?
筆安 イレイナは、かわいいだけの子にはならないように気を付けました。ちょっと自意識過剰といいますか、自信家なところがあるといいますか。第1話でお母さんにそれをたしなめられたわけですが、とはいえまだ18歳の女の子ですので、若さゆえの失敗もあるだろうと。あとは、冒頭のナレーションを書く際、最後の「そう、私です」にどうつなげるかに苦心しました。
サヤはとにかく明るく元気に。フランやシーラは、表面的には接しやすく感じられても、その内面は見通せないような雰囲気が出るといいなと。あとは、もちろんこの作品にかぎったことではありませんが、見てわかることは極力セリフでは言わせないようにしています。説明セリフやモノローグは、少ないに越したことはありませんから。
――全篇を通して明るさと暗さのバランスには気を使ったというお話ですが、雰囲気が暗くなりすぎないように気を付けていることはありますか?
筆安 経験とそれに基づく感覚でやっている面が大きくて、ちょっと言葉では説明しづらいですね。ただ、暗くするのって簡単なんですよ。暗くしようと思えば、多分どこまででも暗くできます。なので、"いかにそうならないようにするか"……ですかね。個人的には、暗いお話は見るのも読むのも書くのも好きなんですけどね。
――筆安さんご自身についてもおうかがいしたいのですが、イレイナのように旅をするなら行きたいところはありますか?
筆安 基本的に出不精なのですが、こうしたご時世になって"どこにでも行けるけど行かない"のと、"どこかに行きたくても行けない"のは随分違うものだと、あらためて実感しています。もう少し落ち着いてきたら、どこかに出かけたいですね。
――イレイナにとってのニケの冒険譚のように、幼い頃に憧れた本、印象に残った本などはありますか?
筆安 「ドラえもん」と江戸川乱歩の「少年探偵団」ばかり読んでいましたね。少年探偵団には深い憧れを抱いていました。「ドラえもん」は物心がついたときにはもう読んでいて好きになっていたので、どこが好きなのかをうまく説明できません(笑)。ただ、今もずっと好きで、最近になってもふとしたときに読み返したりしています。
――そうした物語に触れたことが、脚本家として活躍される今のご自身につながっているということはありますか?
筆安 いえ、そこはあまり関連がないです。昔は漫画家になりたいと思っていましたし、映画を撮りたいと思っていた頃もありますし。それに、僕はアニメ業界のキャリアも撮影から始まっていますから。
――業界に入られた当初は、どのようなキャリアを想定しておられたのでしょうか。
筆安 当初は演出家を目指していました。そして、その第一歩としてまず絵コンテを書けるようになろうと、当時マッドハウスにおられた丸山正雄さんに絵コンテや企画書を書いてはお見せしていたのですが、あるとき「脚本を書いてみろ」と言われまして。最初は右も左も分かりませんでしたが、自分の書いた脚本がフィルムになったらすごく達成感があったんですね。そうして今に至ります。
――"脚本家・筆安一幸"は丸山さんの慧眼とひと声で誕生したのですね。それでは最後に、アニメ第9話以降の見どころをお聞かせください。
筆安 第9話は、アニメ全話を通して一番と言ってもいいほど暗いお話です。第10話と第11話は、それまでと同じ1話完結ではあるのですが続きモノのようにもなっていて、メインキャラクター全員にスポットが当たります。最終話がどのエピソードになるかは……原作を読まれている方なら、もう想像がついているかもしれませんね。原作ファンの方も、アニメから入られた方も、ぜひ最後までご覧いただけると嬉しいです。
次回の「魔女の旅々」リレーインタビューは、コンセプトデザインの内尾和正さんにお話をうかがいます!