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6月20日(土)に公開されるやいなや映画ファンの話題をさらった「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。その大ヒット映画のコンセプトアートアンドデザインを務めた日本人クリエイター・前田真宏さんに特別単独インタビュー。「マッドマックス」ファンならずとも見逃せない逸話の数々を3回に分けてお届けします。
■第1回「前田真宏と『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の“カンケイ”とは」
――最初に企画が立ち上がってから完成するまでに10年以上かかった映画ですが、どのタイミングでジョージ・ミラー監督から声が掛かったんでしょうか。
前田:リーマン・ショックの直後だから、2008年くらいだったと思います。当時、ミラーさんは「マッドマックス」のアニメ版をつくるパートナーを探してたらしいんですね。で、そのお話を受けて先方のスタジオにうかがった時、すでに今回の映画のスクリプトもストーリーボードも全部できあがってて、それを見せられたんです。ラストとか、「ちょっとここはどうかな?」っていうところは直ってましたけど、基本的には完成した映像と印象もほぼ一緒でした。
――つまり映画とアニメの企画が、同時進行で動いていたワケですね。
前田:ミラーさんとダグ(・ミッチェル。本作をはじめ、多くのジョージ・ミラー作品で製作を担当している)さんの思い描いていた画っていうのは、実写映画とゲームとアニメの3本柱だったんですよ。僕らがやろうとしてたアニメ版は、フュリオサという主人公の女の子の過去譚で、ゲーム版のほうがマックスの過去譚なんですね。そして、その2人のドラマ線が、ミラーさんみずからが手がける映画で合流するというのが、もともとのプランだったんです。だからキャラクターとかイメージボードも、2000年くらいから作りためたものがあったんですよ。それに対してアニメ版はどうするかということで、僕のほうからも勝手にアイデアをぼんぼん出していったんですけど、最終的にはミラーさんも気に入ってくれて実写映画のほうにフィードバックされたということなんだと思います。
――映画の美術を担当していたコリン・ギブソンや衣装のジェニー・ビーヴァンといっしょに打ち合わせをされたりも?
前田:ええ。主要スタッフは、シドニーにあるケネディー・ミラー・ミッチェルっていうスタジオに集まって、毎日のように顔を突き合わせて話してました。ジェニーさんには最初、「誰こいつ? アニメ…?」っていう顔をされましたけど(笑)、スケッチを取り出して話してるうちに「あぁ、そういうことね」と。
――映画、アニメ、ゲームの枠を取っ払った、総合的な打ち合わせが何回もあったんですね。
前田:アニメのスタッフとしては僕がディレクターで、最初の「マッドマックス」でグリース・ラット役を演られていたニコ(・ラソウリス。本作はもちろん、ゲーム版やコミック版の脚本も手掛けている)さんが、シナリオライティングの専門家として補佐で入ってくれてました。あの人、もともとは大学の偉い演劇の先生なんですよ。あと、プラティークとアンジェンっていうインド人の映画青年がいて。僕・シナリオチームの3人・ミラーさんに加えて、状況によって美術班の人が来たり、ダグさんが来たり、いろんな人が出たり入ったりしながら車座になってディスカッションをしていくっていう形の仕事でした。
――ゲーム版は今秋発売されるようですが、アニメ版のほうは続報を聞きませんね。
前田:スクリプトは完成してて、イメージボードや絵コンテにも着手していました。3Dアニメにするための実験もしてたんですよ。ただ、最終的にワーナーからオーケーが出なかったんです。僕らの野望としては、独立した劇場作品としてアメリカのシアターでかけたかったんです。ダグさんもミラーさんも後押ししてくれたし、アメリカのワーナー本社まで行ってプレゼンもしたんですけど、「そんなマーケットはない。ウチじゃなくて、ワーナー・ホーム・ビデオに行ってください」って門前払いされちゃった(笑)。つまりビデオグラムかケーブルでかけるタイトルであれば可能性はあると。だけど、逆にスクリプト自体は気に入ってもらえて、「これ、実写にしたほうがいいんじゃないの?」とも言われたんです。僕らもアニメイテッドだからといって子供におもねる内容にすることはいっさい考えてなかったし、そこで話が止まっちゃったんですね。
――そこで明確にプロジェクトが打ち切られてしまった?
前田:僕はそういうふうに理解してます。もちろん、それまでにつくったものはあるので、ミラーさんが使いたいと思ってくれたのならば、リファインでも何でもして使ってくれればいいんじゃない?っていう。僕のほうは慌てて次のメシの種を探すことに(笑)。<第2回に続く>
なお、月刊ニュータイプ10月号の別冊付録「movie Newtype」には、前田真宏さんと「ベイマックス」でコンセプトデザインを務めたコヤマシゲトさんによる“マックス対談”後編を掲載。WebNewtypeで期間限定掲載をしている前編とあわせてご覧ください。【取材・文=ガイガン山崎/撮影=木藤富士夫】