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「マッドマックス」奇想天外なデザイン誕生の瞬間

6月20日(土)に公開されるやいなや映画ファンの話題をさらった「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。その大ヒット映画のコンセプトアートアンドデザインを務めた日本人クリエイター・前田真宏さんに特別単独インタビューを3回に分けてお届けします。第2回となるこのインタビューは、作中でも抜群の存在感を放っていたあのキャラクターを中心に、「マッドマックス」ファン必読の内容です。

■第2回「個性的な『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、デザインの源」

――悪玉のイモータン・ジョーは、割と日本人好みのルックスというか、あのむき出しにした歯のようなマスクに韮沢靖テイストを感じていたりしたので、前田さんもデザインに関わられていたと知って納得するものがありました。

前田:最初はいろんな日本のデザイナーを紹介しようと思って、サンプルとしていくつか画集を持っていったりしたんですよ。でもミラーさんからすると、ちょっとデザインの色が強すぎたんでしょうね。で、「鬼面人をおどす」じゃないですけど、相手を威嚇するような感じの歯をつけるというアイデアは、ミラーさんから出たものです。米軍の特殊部隊のチンガードにスカルのペイントを施したものの写真を見せられました。深海魚みたいにとがった歯にしてくれだとか、もうちょっとゴツい歯にしてくれだとか、いろいろと描かされたんですけど、最終的に美術部のほうで馬の歯になったんだと思います。僕の描いた歯は、もっと鋭い釘でできたような歯でした。

――そうなると、当初のジョーにはドクロの意匠は盛り込まれてなかった?

前田:どちらかというと、それは子分のウォーボーイズのほうですね。ジョーは宗教的なアイコンというか、黄金のハンドルを持たせようなんていう話もありました。

――筋肉を模したアクリル樹脂の甲冑は?

前田:あれはたしか、ミラーさんとディスカッションしている時に出てきたアイデアだったと思います。最初のデザインはコミックアーティストの方が描かれてて、「デューン/砂の惑星」みたいなSFっぽい感じだったんですよ。「マッドマックス2」の衣装って、女戦士が白い肩パッドとか付けていたり、「スター・ウォーズ」っぽいテイストが入ってたじゃないですか。あれをもうちょっとSF方向に伸ばした感じで、もっとダース・ベイダー寄りの鎧だったんです。でも、もっと印象的で変わったものがいいということで、バイクの風防に使うポリカーボネートとかをプレスして造形したニセの筋肉を提案してみたら、すごく気に入ってもらえた。もちろん、バックルのデザインとかデコレーションの部分は、僕は全然知らないので美術部の仕事だと思います。元軍人っていう設定を反映させたんでしょうね。

――「スター・ウォーズ」の話が出ましたけど、特撮ファンの間では、日本の変身ヒーロー番組「変身忍者 嵐」に出てくる血車魔神斉が、ダース・ベイダーのモデルなんじゃないかと言われてたりしますよね。ちょっと眉唾な話だと思うんですが……。

前田:僕もそう思います(笑)。

――でも、イモータン・ジョーを見ていると、これこそ血車魔神斉がモデルになってるんじゃないの!?と。炎の輪に頭蓋骨があしらわれたシンボルも、魔神斉率いる血車党のマークにそっくりですし。

前田:せっかくネタとしておもしろくなりそうな推察なんですけど、スイマセン!そこはまったく意識してなかったです(笑)。ただ、変なフォローになっちゃいますけど、石森章太郎さんの萬画版「変身忍者嵐」は大好きですよ。魔神斉の正体が主人公の父親で、最後に戦った相手も自分の兄弟だったなんていうダークさにすごくひかれるものがあって、今でもアニメでやってみたいと思ってたりするんです。まぁ、そういう血の繋がりの話になるところも、確かにダース・ベイダーっぽいのかな(笑)。

――たぶん、ドクロモチーフと白髪が被ってるせいで、魔神斉に似て見えるんでしょうけど、ジョーにはスキンヘッド案もあったんですよね。

前田:まだジョーが青い男だった頃ですね。水とか空を象徴する色として青い顔料を塗ってて、青い巨人として君臨してるというイメージでした。その後、アルミニウムの粉みたいな白いヤツを吹き付けてて、ゴテゴテと飾りまくってガタイを大きく見せかけてる朽ちかけた男みたいな方向性で話が固まっていったんですが、そうなってからもスキンヘッドのイメージを引きずってた時期はありましたね。そういえば、ジョーは自分の健康にすごく気を使ってて、片時も空気清浄機を離さないっていう案もあったなぁ。お腹に人工心肺のローターが付いてて、ぐるんぐるん回ってるんです。ウォーボーイズたちが、ジョーとパイプで繋がった大きな機械をよいしょよいしょと運んでるとか(笑)。<第3回につづく>

なお、月刊ニュータイプ10月号の別冊付録「movie Newtype」には、前田真宏さんと「ベイマックス」でコンセプトデザインを務めたコヤマシゲトさんによる“マックス対談”後編を掲載。WebNewtypeで期間限定掲載をしている前編とあわせてご覧ください。【取材・文=ガイガン山崎/撮影=木藤富士夫】

■BD&DVD「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
発売:10月21日(水)※同日デジタルレンタル配信開始
価格:税抜3990円(初回限定生産・2枚組デジタルコピー付きBD&DVDセット)
   税抜5990円(初回限定生産・2枚組デジタルコピー付き3D&2D BDセット)
   税抜4990円(数量限定生産・デジタルコピー付きBDスチールブック仕様)
発売:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

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