設立5周年を迎えたTRIGGERが手掛けるテレビアニメ「宇宙パトロールルル子」。その魅力に迫るべく、キャストやスタッフを直撃するインタビュー企画を連載してきました。
今石洋之監督とキャラクターデザインのまごさんが登場している最終回。この中編では、まごさんが初挑戦した設定画の制作を中心に、TRIGGERや今石監督が心がけていることなどを聞きました。
――キャラクターデザインのリテイクはあまり重ねずに進んだんでしょうか?
今石:いや、頭身や髪型、どのくらいまでデフォルメするのかなど、はじめは結構何回も描きましたね。決め手になったのは手と時計を決めた時だったと思います。
まご:私もそこで自分の絵が認められたって思いました。私はディテールを描き込むのは苦手で、手も節を描かない“もみじ”みたいな絵が好きなんですが、それをそのまま拾ってくださったので。
――それは、どういうことだったんしょうか?
今石:アニメは設定画よりアップの絵を描くことが多いから、ディテールアップしないと画面がもたないんです。だからアニメーターは自発的にディテールアップして描いてしまうんですね。でもそうすると、まごさんのデザインから離れてしまう。それを防ぐために設定画にある、省略されたような描き方の「手」以上のものを描き込まないでほしいということと、時計も文字盤のないただの白1色ベタのデザインですということをルールとして決めたわけです。そうすればアニメーターは「じゃあその中でどううまく描こうか」と考えるし、僕も「まごさんのデザインが徹底して活かせるし、統一感取れるかも」と思えるようになりました。
――なるほど。
今石:あと、絵としてすごくいいなと思ったのは、設定画に全体のロングの絵が3段階くらい描いてあったことです。
――指示もない中でロングショット用の設定画を3段階分、描かれたんですか?
まご:いや、「キズナイーバー」の設定画がすごく細かく描いてあったので、それをマネしたんです。
今石:なるほど!「キズナイーバー」のキャラクターデザインをやっている米山(舞)もよくわかっていて、「何を省略するか・省略しないか」という部分もデザインで統一した方が見栄えが良くなるんです。例えば瞳の黒目。アップの時には5色くらい使っているけど、ロングの時には白1色か黒1色、どっちの色にするか?という部分ですね。指定がなければアニメーターが独自の感覚で描いてしまうんです。
まご:実際、アニメーターさんが設定画を見て、どのくらいまで汲んでくれるのか全然わからなかったので、いろいろとテキストで註釈が付いている「キズナイーバー」の設定画はかなり参考になりました。ルル子の「☆」も私は手癖でぐしゃっと崩れた星がいいと思って描いているんですけど、「それも設定に書いておいてください」と言われてビックリしました。放っておくと定規で引いたキレイな星が描かれてしまうんですね。
今石:そうですね、ちゃんと書いておかないとダメなんですよ。
――今石監督は、カットを担当するアニメーターに比較的自由に描かせるというやり方をされていると聞きますが、細かく全体のトーンを調整する部分と各アニメーターに委ねる部分で葛藤があったりはしないのでしょうか。
今石:やっぱりアニメは大人数でやるというのが前提なので、設定で細かく頑張るというのは、特にその回だけちょっと作画に入った人に作品の雰囲気などをわかってもらうためということですよね。それとは別で、やれる人には自由にやってほしいという思いが同居してます。そこは難しいですよね。総作監の芳垣とか半田とか、いつも一緒にやっている人とかはやっぱり、まごさんに寄せたり自分の中で咀嚼してやっていますから、それはもちろんいいことだと思ってます。
――TRIGGERは若手の育成も順調に行っている印象がありますが、育成に際して今石監督が心がけていることはあるのでしょうか。
今石:う〜ん、わからないですね…。失敗してるとも思わないですけど、僕個人は教育が得意じゃないというか、放し飼いしかやったことがないんですよ。「場を与えることはする、後は頑張ってくれ」とそういうことばっかりなので。…まあでも、個性を尊重するということは重要だなと思っています。描かされている絵と、描きたくて描いている絵というのは全然絵のハリが違うんですよね。それはまごさんにしてもそうだし、アニメーターひとりひとりみんなそうなので、描きたいと思う気持ちや個性をどれだけ引き出せるか、そういう場を作れるかだなあとは思ってます。
まご:みんな今石さんが好きだから。
今石:なんですか。それ!?(笑)
まご:今石さんの笑顔が見たくて描いてるから、それで育ってるんですよ。もっと笑顔が見たい、もっと会話したい! そう思うことで、成長に繋がるんですよ!
今石:そうなんですか、はははは(笑)。
――放送をご覧になって、ご自身のキャラクターが動いているというのはやっぱり嬉しいですか?
まご:もちろん自分の絵ということにすごく感情はこもっていますし嬉しいですけど、それ以上に「面白いアニメで最高!」という思いが大きいですね。だから、やっぱり最高の気分です!
今石:あははは(笑)。
――今石監督はどのようなお気持ちでしょう。
今石:最高…確かにそうですね…。自分たちがいいと思うものを作るぐらいしか存在価値がないと思っているので、まずは自分たちが楽しいものを作る。楽しくないことはやらないようにしよう、自分たちが楽しんでいることで面白そうな、楽しそうな作品に見えてくれればいいなあと思っています。まあでも、お客さんにどう見られるかは絶対にコントロールできないので。
まご:思った以上に皆さんがついてきていますよね。「よくわからんけど面白い」って、理屈でなく感覚で見てくださってる感じです。
今石:理屈でツッコミ始めたら際限なくなっちゃうアニメだし(笑)。だからそう見てくださってたら嬉しいですね。<後編に続く>【取材・文=細川洋平】
■今石洋之(いまいし・ひろゆき)
ガイナックスを経て、大塚雅彦、舛本和也らとTRIGGERを設立。アニメーターとしての人気、実力も非常に高い。主な監督作品に「天元突破グレンラガン」、「キルラキル」などがある
■まご
イラストレーター/漫画家。主な作品に「ともだちマグネット」(竹書房・全2巻)、「キルラキル/SDキャラ」などがある。現在WebNewtypeでエッセイ4コマ「潜入!TRIGGERトリガー24時」を連載中。twitterアカウントは
@magodesu
リンク:
アニメ「宇宙パトロールルル子」公式サイト
アニメ「宇宙パトロールルル子」公式twitterアカウント・@s_p_luluco
4コマ漫画「潜入! TRIGGER24時」