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大学の女子寮で同じ部屋に住む入巣柚実(演:久保史緒里)と、その先輩である鯨井ルカ(演:平祐奈)。大学生らしい緩くも心地いい日々を過ごしていた2人だったが、ルカが大手音楽レコード会社から連絡を受けたことで、その日常に大きな変化が訪れて――。
石黒正数の青春コミック「ネムルバカ」が、「ベイビーわるきゅーれ」シリーズのスマッシュヒットで一躍その名を知らしめた阪元裕吾監督の手によって実写映画化! そこで、コミックの映像化は初という阪元監督のインタビューを前後編でお届けしたい。前編では、本作を撮るに至った経緯や気になる脇役たちのキャスティングについてお聞きした。
Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
――今回の実写映画化について、「ほかの作家にやられるくらいなら僕がやりたい!」と思った旨のコメントを寄せられていますが、もともと原作コミックのファンだったんでしょうか?
阪元 実は監督の話をいただくまで読んだことがなかったんです。もちろん「天国大魔境」や「それでも町は廻っている」は知っていましたし、特に「それ町」に関しては、「ベイビーわるきゅーれ」を撮るとき、主演の髙石あかりさんに読んでもらったくらいなんですが。
――「ベイビーわるきゅーれ」は殺し屋の話ですけど、社会不適合者な女性2人のモラトリアム期間を描く物語でもあって、「ネムルバカ」とは相通ずるものがありますよね。
阪元 実際、プロデューサーの寺田(悠輔)さんは、「ベビわる」の空気感だったりを見て、今回の話をもってきてくれたみたいなんです。ネットの声に耳を傾けてみると、「ネムルバカ」に「ベビわる」感といいますか。そういう共通するものを感じると言ってくれてる方も少なくなくて。まあ、「ネムルバカ」の原作のほうが、ずっと先に発表されてる作品なんですけど、どう思われるんやろ?と不安に感じていたところはあったので、好意的にそう受け取ってくれる方が多くてありがたかったですね。
Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
――「ベビわる」のヒットを受けて、いろんなお仕事の依頼があったと思うのですが。
阪元 ええ。それこそアクション系のものも含めて、実写化のお話はけっこうありました。ただ、どうやって撮んねん!みたいなハードルの高い作品も多くて。やっぱり段階を踏みたいじゃないですか。それに、一巻完結として引き算しすぎず、むしろ足し算もできるような原作じゃないとやれないなと思っていたので、「ネムルバカ」はそう考えると運命的な出会いでした。
――原作に忠実な実写映画化でありながら、ネット描写をはじめとした現代的な肉付けもけっこうされてますよね。もちろん、原作発表当時(2006~2008年)もインターネット自体はあったわけですけど、劇中にはメールくらいしか出てこなかっですから。
阪元 原作の柚実は酒飲みなんですが、今だったらSNSとかもメチャクチャやってるだろうなという解釈で撮りました。たぶん、柚実も「(THE FIRST)SLAM DUNK」とか「RRR」くらい流行った映画は見てるんですよ。でも「トワイライト・ウォリアーズ(決戦!九龍城砦)」は……ギリ見てないくらいのサブカル感というか。要は「花束みたいな恋をした」の2人よりも3段階くらい薄い感じが出てたらおもろいかな?と思ったりもしたんですけど、結局そこまでは描けなかったですね。
――本作の代名詞ともいえる概念「駄サイクル」は、どんなふうに実写で描かれるか気になった原作ファンも多かったかと思います。
阪元 そうそう、今もネットミームとして語り継がれてますよね。でも僕が思うに、原作者の石黒さんって、別にミームとかを残したいタイプの作家ではないんじゃないかなと。駄サイクルも、結果的に残っちゃっただけだと思うんですよ。だからミサイルの照準を合わせるように、ここが名シーンです!みたいには撮らないほうがいいだろうと判断しました。実際、石黒さんとは何回かお話することができたんですが、おそらく石黒さんが僕に求めてるのは、そこにもうひとひねり加えることというか、もっと変な目線で駄サイクルを切り取ったほうがいいんじゃないかと思って、今回は柚実にも使わせてみたんです。お前のことも言ってんねんで?っていうことに、柚実はいっさい気付いてない感じを出さないと、ただ単に観客に説教してるみたいな感じになっちゃうかもしれないし、それはちょっとイヤやなと思ったんですよ。
――柚実のバイトの同僚、仲崎を演じたのはロングコートダディの兎さん。ルックスこそ原作とはまったく違うんですが、絶妙にイヤな目線芝居をしていて雰囲気バツグンでした。
阪元 本当ですか! よかったです。僕的にはいい日本映画を撮るという気持ちもありつつ、ちゃんと「ネムルバカ」を映画にしたね感というか、2次元を3次元にすることができたね感が欲しかったので、ある程度のリアリティは加えつつ、元の作風にあるかわいげみたいなものは残したいなと思ってたんですよ。ただ、世の中にはファスト映画じゃないですけど、人の撮ったものを切り取って動画をつくっておいて、堂々と無断転載禁止!みたいなことを言ってる人がいたりするじゃないですか。そういう生きててモヤッと感じたりしたものを、仲崎のキャラクターにちょっと入れ込んだりはしてますね。「iPadがあれば何でもできる!」みたいなセリフは、脚本の皐月(彩)さんのアイデアだったかな。
Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
――「ベビわる」でもラバーガールの大水洋介さんに、クセの強いコンビニ店長役を振っていましたが、こういったキャスティングは阪本さんのこだわりですか?
阪元 そうですね。ラバーガールさんもロングコートダディさんも、まず世間のイメージがある方々じゃないですか。まあ、それは諸刃の刃でもあって、世間のイメージが反映されておもしろくなることもあれば、逆にそれが邪魔になっちゃうこともあると思うんですが、ああいうイヤなキャラクターが、ただただ出てきて暴れて去っていくと、今はお客さんの反感を買いかねない。これが韓国映画だったら、100%不快なだけのキャラもよく出てくるんですけど、日本のお客さんって、そういうキャラクターにもかわいげみたいなものを求める傾向があると思うんですよ。だから、お笑いができて少しかわいいイメージのある方に、ああいうイヤなヤツの役をよく振っちゃうんですよね。
【後編に続く】
Ⓒ石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会
1996年生まれ。高校時代から映画を撮りはじめ、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)在学中に制作した「べー。」で残酷学生映画祭2016グランプリを、「ハングマンズ・ノット」で期待の新人監督賞(カナザワ映画祭2017)を受賞。その後、2021年に監督と脚本を務めた「ベイビーわるきゅーれ」が大きな話題を呼び、現在では数多くの作品を発表している。
【取材・文:ガイガン山崎】
■ネムルバカ
●2025年3月20日(木・祝)より新宿ピカデリーほかにて全国公開中
スタッフ:監督…阪元裕吾/原作…石黒正数「ネムルバカ」(徳間書店 COMICリュウ)/脚本=皐月彩、阪元裕吾/音楽…立山秋航/主題歌…「ネムルバカ」(作詞:石黒正数/作曲:朝日/歌:平祐奈 as 鯨井ルカ)/制作プロダクション…Libertas/配給…ポニーキャニオン
キャスト:入巣柚実…久保史緒里(乃木坂46)/鯨井ルカ…平祐奈/田口…綱啓永/伊藤…樋口幸平/仲崎…兎(ロングコートダディ)/ジャガー・モリィ…儀間陽柄(the dadadadys)/DAN…高尾悠希/岩徹…長谷川大/荒比屋…伊能昌幸/粳間…吉沢悠
リンク:映画「ネムルバカ」公式サイト
映画「ネムルバカ」公式X(Twitter)・@nemurubakamovie