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10月から放送開始のTVアニメ「旗揚!けものみち」。よくある異世界ファンタジーと思いきや、現役レスラーが異世界へ勇者として召喚される、という衝撃の展開に度肝を抜かれた読者も多いはずだ。本作では実際のプロレス技が忠実に再現されているばかりか、どこぞのプロレスラーにそっくりなキャラクターも登場するなど、プロレス愛にあふれている。そこで本作をより楽しむために、プロレス実況で有名な村田晴郎氏に解説を依頼。第1話の衝撃のプロレスシーンを「実況」してもらった!
冒頭からDDTプロレスリング(*1)のロゴが入ったリングで始まる、ケモナーマスクとMAOの試合にテンションが上がります。
会場は大阪城ホールか、神戸ワールド記念ホールでしょうか。外観と会場内の様子がよく似ています。プロレスものの定番である東京ドームとか後楽園ホールじゃないところに、この作品の本気度が伺えます。
MAOはDDTプロレスリングの「MAO選手」(*2)にそっくりです。劇中のMAOもアラフィフのプロレス団体社長を軽トラで躊躇なくハネそうです(*3)。
ちなみに今回は喋りませんでしたが、MAOの声の担当は「∀ガンダム」ハリー・オード役などで有名な稲田徹さん!
稲田さんといえば、若かりし頃プロレスラーになることを目指していた噂があるとかないとか。今でもプロレス&格闘技がお好きで観戦にも行かれるそう。血気盛んな若者から渋い大人までその美声で演じ分ける実力派の稲田さんが、MAOにどんな命を吹き込むのか? 今後に期待といったところ。
そういえばDDTプロレスリングは、自社で「DDT UNIVERSE」という試合動画配信サイトを持っています。「旗揚!けものみち」が縁となって稲田さんにDDT UNIVERSEのCMナレーションやってほしいなぁ。稲田さんに「DDTユニバース」って言ってほしいなぁ。「ユニバース!」だけでもいいから(笑)(*4)。
さて、異世界に飛ばされたケモナーマスクは「けもの退治」をお願いしたお姫様にキレて、いきなり「ジャーマン・スープレックス」というプロレス技を繰り出します。
ぶん投げたあと、お姫様の両肩がマット(ここではお城の床)に付いた状態でホールドして3カウントを取っているので、正確には「ジャーマン・スープレックスホールド」という技になります。
「スープレックス」というのは投げ技そのものの名称で、そのままフォールを取る(*5)ために相手の動きを固めると、名称の最後に「ホールド」と付くわけです。
このスープレックス技に「ジャーマン(ドイツ)」の冠が付いた理由は諸説あるようですが、有力なのが「プロレスの神様」と呼ばれた伝説的なプロレスラーのカール・ゴッチ(*6)にまつわる説です。
彼が日本でこの技を初公開し「なんだあの恐ろしい技は!?」とマスコミが騒然とする中、ある記者が「カール・ゴッチはドイツ出身(らしい)、ならばあの技は“ジャーマン・スープレックス”だ!!」と名付けたと言われています。おおらかな時代ですなぁ。
ジャーマン・スープレックスは相手の背後を取り、両腕で相手の胴体をクラッチ(*7)し、そこから一気に後方へ反り投げる技です。
投げている途中でクラッチを離さず、そのまま真後ろに綺麗な放物線を描きつつ、ブリッジして相手を後頭部からリングに叩きつけます。100kg近くある人間を、腕の力・下半身の力・引っ張り上げる背中の力・ブリッジで固める首の力と、全身の筋肉すべてを使って投げるのです。技が決まった時の形から「人間橋」とも呼ばれ、数あるプロレス技の中でも「芸術品」とも称される大技のひとつです。
ジャーマン・スープレックスは現代でも必殺技として、数多くのプロレスラーが使用しています。この技から進化発展して、数々の派生技も生み出されています。
ドラゴン・スープレックス
フィッシャーマンズ・スープレックス
クロスアーム・スープレックス
ノーザンライト・スープレックス
ブリザード・スープレックス
などなど……技名だけで想像力をかき立てられますよね。かっこいいでしょ?
スープレックス技はまだまだたくさんあります。「スープレックス」と名前に付かないスープレックス技だってあるんです。
新必殺技にオリジナルの名前が付くかっこよさ、これはマンガやアニメではおなじみですが、プロレスでもそうです。ロマンなんです。
さて、ケモナーマスクは鍛え上げられたプロレスラーですら一発で3カウントフォールを奪われるほどの荒業を、素人のお姫様に、しかもお城の床上で食らわせました。あの、床の素材、石でしょ? ありえない(笑)。
しかもアニメをよく見ると、ブリッジが「爪先立ち式」ですよ。これは投げて叩きつけた後に、グイっと爪先を立てることによって相手の首を圧迫する効果があります。つまりダメ押しのようなもの。お前は鬼か、ケモナーマスク。
ただ、実はこれ、技を放ったケモナーマスクも危ないんですね。マットがなく硬い場所でのスープレックスは、投げ方を工夫しなくてはなりません。思いっきり投げたあとにブリッジをしたら、投げた本人も頭を床に強打します。ブリッジどころじゃなく、めちゃくちゃ痛いわけですよ。下手すると投げた方も昏倒します。
現実世界でも路上のアスファルトでジャーマン・スープレックスをカジュアルに仕掛けるプロレスラーがいるにはいるんですが(*8)、まぁそのプロレスラーは希少種みたいな存在なので。要はこの技、リング上以外ではやっちゃダメです。
しかし、あれやって涼しい顔してるケモナーマスクはどんな鍛え方をしているのか。首の鍛え方は半端ではないだろう。頭頂部は……マスクの下に緩衝材的な何かが入っているのかな(笑)?
今回は皆さまに「ジャーマン・スープレックス」についてご説明しました。
さぁ次回は、どんなプロレス技が飛び出すのでしょうか?
最後に、これをご覧の皆さまは、絶対真似をしないように。技を仕掛けた側も掛けられた側も、共に不幸な結末が待っています。ケモナーマスクのようになりたければ身体を鍛えてプロレスラーになりましょう。「Please Don’t try this at home」約束ですよ。
<注釈>
(*1)DDTプロレスリング
1997年に高木三四郎選手らが中心となって旗揚されたプロレス団体。インディペンデント団体(小規模プロレス団体)だったが、プロレスと極端なエンターテインメント要素を絶妙に融合させたスタイルで既存のプロレス団体と違う価値観を生み出し、人気プロレス団体へと成長。11月3日に両国国技館でビッグマッチを開催予定。
(*2)MAO選手
DDTプロレスリング所属。「中学生がプロレス技をやってみた」という動画配信をしていた元YouTuber。18歳でデビューし現在22歳。空中技を得意とする、若くて華やかな選手だが、真の恐ろしさは何をしでかすかわからない破天荒さにある。
(*3)軽トラでハネる
DDTプロレスリングでは、リング以外の場所でプロレスをする「路上プロレス」がしばしば催される。その路上プロレスにてMAO選手は軽トラックを運転し、対戦相手の高木三四郎選手(現DDTプロレスリング代表取締役社長)をハネ飛ばした。
(*4)ユニバース!
「∀ガンダム」でハリー・オード大尉が発した名セリフ。日常生活でも積極的に使っていきたい。
(*5)フォール
相手の両肩をマットにつけ押さえ込む行為。その状態でレフェリーが3カウントを数えると、押さえ込んだ方は勝利となる。
(*6)カール・ゴッチ
1950年~1982年に活躍した、通称“プロレスの神様”。レスリング出身で様々な技術を後世に伝承し、日本人プロレスラーにも彼の直弟子は多い。2007年7月28日、82歳で死去。
(*7)クラッチ
日本語では「つかむ」「握る」。つかまれた相手が捕縛から逃れられない時に、「強烈なクラッチですね」などと実況する。
(*8)アスファルトでジャーマン・スープレックスをカジュアルに仕掛けるプロレスラー
元DDTプロレスリング所属、現新日本プロレス所属の飯伏幸太選手。路上プロレスのスペシャリスト。