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小野友樹が谷口監督から受け取った一通の手紙――映画「BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-」監督・谷口悟朗×キサラギ役・小野友樹対談


2024年1月5日より上映開始となる映画「BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-」、そのジャパンプレミアが2023年12月4日に執り行なわれました。

谷口悟朗さん原案によって制作されたメディアミックス作品「エスタブライフ」シリーズ。その劇場作品として制作された本作は、TVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」のその後の世界を舞台に、改造人間となった吸血鬼・キサラギの血みどろの逃走劇が描かれます。監督をつとめるのは本シリーズの原案を担当した谷口悟朗さん。主人公であるキサラギを小野友樹さんが演じます。


写真左より小野友樹さん、谷口悟朗監督


ジャパンプレミアでは谷口悟朗監督と小野友樹さんがプレミアトークを披露。本作がコロナ禍での制作であり、WEB上で作業を進める必要があったことを語る谷口監督。「完成できてよかったと思います」とのコメントからは制作過程への苦労が見受けられました。
今作の見どころについて聞かれた小野友樹さんは「僕がピンポイントで推したいのはワイヤーアクション」と回答。谷口監督はこのワイヤーアクションに対して、自身が“有線”が好きであることを語ると「線が繋がっているとそこに何らかの色気が発生する」と続けました。

今回は本ジャパンプレミア終了後におこなった谷口悟朗監督と小野友樹さんによる対談をお届けします。


TVシリーズで活躍した彼女たちも登場!
©2024 BLOODY ESCAPE製作委員会


――本作ではTVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」の主人公・エクアたちも登場します。
谷口 同じ作品世界を共有しつつ、エクアたちが登場しない話にすることも考えたんですよ。ただ、「エスタブライフ」シリーズの一作である以上、彼女たちと無縁な物語にはできなかった。それで逃がし屋である彼女たちにも登場してもらうことにしました。

――TVアニメに登場した新宿クラスタも作中の舞台となります。
谷口 エクアたちが登場するからには、TVアニメ内で登場した世界を活用したいと考えました。ただ、TVアニメにおける新宿以外のクラスタはどこも癖が強く手をつけづらい。ペンギンが統治していたり、パンツを履くことが禁止されたりしますからね。それらと比べると新宿クラスタは比較的手が加えやすい。それで新宿クラスタを登場させることが決まりました。

――今作における新宿のあり方も非常に印象的でした。
谷口 意識したのはバブル期の新宿歌舞伎町なんですよ。昼間は荒廃した場所でありながら、夜になるとネオンが輝き荒廃した部分を隠されてしまう。ここに小野友樹演じるヴァンパイアを置いたらエンターテインメントが生まれるんじゃないかと考えました。

――小野さんは今回の新宿クラスタを見てどう感じましたか?
小野 僕自身、新宿という場所にはすごく馴染みを感じるんですよ。ただ、今作の舞台である新宿クラスタは、僕と馴染み深い新宿とは違っていた。生活感のある、その日暮らしをしている人が多くいる場所なのだと感じました。なので、先ほど監督がおっしゃった“バブル期の新宿歌舞伎町”という言葉はしっくりきました。

――その新宿クラスタを舞台に、タイトル通り“ブラッディ”な抗争が勃発します。
谷口 エクアたちを登場させることを決めた時、意識して血生臭い作品にしなければと思ったんです。そうしないと私自身がTVアニメの空気感に引っ張られる危険性がありましたから。なので、真っ先に血生臭いモチーフであるヴァンパイアやヤクザを登場させることを決めました。もしもヴァンパイアやヤクザが没になったらサメが登場する話にしたんじゃないかな(笑)。

――かなり血生臭い感じがしますね。
谷口 本当ですよね(笑)。改めてこの企画を通してくれた製作委員会、特にフジテレビには感謝しかありません。彼らからしたら劇場公開後に本作をテレビ放映したいと思うんですよ。でもこういった血生臭い作品は地上波に乗せづらい。それでもゴーサインを出してくれたのは本当にありがたかったです。

――血生臭いモチーフを意識的に入れたのには何か理由があるのでしょうか?
谷口 世間に溢れるアニメのジャンル、表現に偏りを感じるというのが大きいですね。全体に洗練されてきている。良いことなんですけどね。でも、それは映像から何かが抜けることにもなりかねない。日本のアニメってもっと多様性があってもいい、下世話で乱暴なものも扱えることを提示したいと思ったんです。


小野友樹さん演じる主人公・キサラギ
©2024 BLOODY ESCAPE製作委員会


――本作の主人公・キサラギはどのように生まれたのでしょうか?
谷口 以前から温めていたアイディアとして、自分を手術しながら戦うヴァンパイアというモチーフを考えていたんですよ。それを今回の世界観の中に落とし込んで生まれたのが彼です。

――小野さんはキサラギをどういうキャラクターだと捉えましたか?
小野 すごく素直で人間臭いキャラクターだと思いましたね。ただ、環境が彼を素直には生かしてはくれない。その結果多くのものを背負うことになり、運命に翻弄されたのがキサラギだと思っています。

――ご自身と通じる部分はありましたか?
小野 僕も運命に翻弄された結果今の場所にいる、そこはキサラギとも通じる気がしました。もともと僕自身、高校生までサッカー選手を志していたのですよ。ただ、高校3年の時に右足を骨折してその道を断念せざるをえなくなってしまった。そこから声優の道に転じ、自身を改造しながら声優という仕事をスタートしましたからね。

――自身の改造ですか?
小野 もちろんキサラギほど過酷な改造ではないですよ(笑)。でも、もともとは話すのもそんなに得意ではなく、フリートークをする場面では黙ってしまうこともあった。そこから必死に自分を改造して喋る技術を習得していった感じなんですよ。
谷口 すると今の小野友樹は本来の小野友樹じゃないと!
小野 どうなんですかね。改造した結果できた小野友樹ではあるんですけど、今となってはこれも本来の僕のような気もしちゃいます(笑)。

――谷口監督は今のエピソードを知った上で小野さんにオファーしたということは?
谷口 全然ないですよ、私は声優さんのバックボーンでキャストを決めたりしないですから(笑)。今回キサラギに小野友樹さんをキャスティングした理由はふたつ。ひとつは彼の声には愛があるということ。もうひとつは自分を殺して役になり切ることができること。それだけです。

――自分を殺せるですか。
谷口 声優さんってデビュー直後は事務所がアイドル的な売り出し方をしたがるんですよね。その結果、キャラクターよりも自分らしさが前面に出た演技をすることがよくある。ベテランならまだしも、若手でそうなるのは未熟だということです。そこは小野友樹さんならできるだろうと思いお願いさせていただいた。

――小野さんは今作のアフレコで印象に残っているエピソードはありますか?
小野 今作の収録にあたり谷口監督からお手紙をいただいたんですよ。それがとにかく印象的でしたね。そこには「今まで培ってきた芝居の技術は一度忘れてもらいたい」「キサラギというキャラクターを演じるにあたり“飢え”を大切に」というふたつのメッセージが書かれていた。なので今回、“飢え”を感じるために二日間断食を経て収録に臨みました!
谷口 そういう物理的な“飢え”を期待して言っていたわけじゃないんですけどね(笑)。
小野 もちろんそれはわかっていましたよ! でも、この東京で飢えを感じる方法が他に思いつけなかったもので……(苦笑)。

――断食の成果はあったのでしょうか?
小野 監督から「肩の力が抜けたいい演技だった」と言っていただけたんですよ。それはひとつ断食による効果だったかと思います。あと自分の演技を聞き返して感じたのは、声を発っする位置が普段とは違っているということ。それがキサラギらしさにもつながっているようにも思い、予想以上に断食の効果はあったと感じています。

――谷口監督が手紙を書かれた理由もお聞きしたいです。
谷口 収録に入る前にある程度ディレクションを入れておきたかったからですね。収録当日はキャストの皆さんが集まった時点で収録に向けて動き出してしまう。ここで思いもよらない方向に収録が進むと軌道修正をするのは大変なので、先に手紙を書かせていただいた。逆に何の情報も与えず収録始められる監督ってすごいと思いますよ。私は臆病なんでそんなことできない。


もうひとりの主人公・ルナルゥ
©2024 BLOODY ESCAPE製作委員会


――もうひとりの主人公・ルナルゥについてもお聞きしたいです。どう言ったキャラクターとして描こうと考えましたか?
谷口 自立した、もしくは自立を目指そうとする女性にしようと考えていました。一部のアニメに登場する女性キャラクターは、視聴者や作り手に都合のいい型に当てはめられてしまいがち。その型から脱した、自立した考えを持つキャラクターにしようと考えていました。

――小野さんは彼女をどう捉えているのでしょうか?
小野 辛い選択肢しか選べない、生きづらい環境にいるキャラクターだと感じましたね。そこから脱したいと思いつつも、ひとりでは打開策が見出せない。そんな彼女がキサラギと出会い、自分の環境から逃げるのが本作だと感じています。

――そんなルナルゥを上田麗奈さんが演じます。
谷口 彼女はすごく真面目で、演じるキャラクターと非常に真摯に向き合うんですよ。その姿勢を見て「ONE PIECE FILM RED」ではミニベポ役をお願いした。その時の演技も素晴らしかったため、今回もオーディションにお声かけしました。結果彼女がルナルゥに選ばれた感じです。
小野 今作では上田さんと共に収録することが多かったんですよ。その中で彼女はこれまでと違ったアプローチで演技をしているのを間近で見ていた。その努力の成果が演技に出ていると思うので注目してほしいですね。

――最後に本作の注目ポイントをお伺いしたいです。
谷口 ここまでお話ししていないところでいくと、ひとつアクションシーンには注目してほしいです。大画面で見てこそ魅力が伝わるものだと思っているので、是非とも劇場に足を運んでほしいですね。
小野 あと、僕が注目してほしいのはキサラギを取り巻く人たちの人間関係。本当に個性豊かなキャラクターが登場し、彼らとキサラギとの間に多様な形の友情を築かれます。非常に見応えあるドラマになっているので注目してください。
谷口 本作は友情の話でもありますからね。いろんなキャラクターがキサラギと友情を築き、その結果彼を奪い合っていく。そこを意識していただけると味わいが増すと思います。

【取材・文:一野大悟】

■映画「BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-」
●2024年1月5日(金)より新宿バルト9ほかにて全国公開

スタッフ:原案・脚本・監督…谷口悟朗/共同脚本…永井真吾/キャラクター原案…コザキユースケ、しまどりる/CGディレクター…小山田諭/音楽…中川幸太郎/企画・プロデュース…スロウカーブ/アニメーション制作…ポリゴン・ピクチュアズ/配給…ギャガ/主題歌…アツキタケトモ「匿名奇謀」(Polydor Records)

キャスト:キサラギ…小野友樹/ルナルゥ…上田麗奈/クルス…斉藤壮馬/ジャミ…内田雄馬/ララック…ゆきのさつき/ノノック…倉田雅世/ザンザ…福山潤/ゼッシュ…置鮎龍太郎/ヤオハチ…中谷一博/エクア…大橋彩香/フェレス…高橋李依/マルテース…長縄まりあ/アルガ…速水奨/ウルラ…三木眞一郎/エム…日高里菜/転法輪…山寺宏一

イントロダクション:
改造人間VS吸血鬼VSヤクザ
谷口悟朗による史上最狂の映画が誕生──

『コードギアス』シリーズや『ONE PIECE FILM RED』の谷口悟朗が原案・脚本・監督を務める最狂バイオレンスアクション映画。改造人間となった男の逃走劇、それを追うヤクザ、そして異形の者たち。
谷口悟朗によって魔改造された「東京」を舞台に、壮絶で血みどろな三つ巴の戦いが幕を開ける!!

人体実験によって改造人間となったキサラギは、ある組織に追われていた。
その組織とは、分断された「東京」の制覇を目論む不死身の吸血鬼集団「不滅騎士団」。
さらに、殺された親分の敵討ちを誓うヤクザたちも追っ手に加わり、全てを巻き込んだ大抗争へと発展していく。
「元から生きる理由は無いが、コイツらに殺される理由もない──」
改造されあらゆる武器を仕込まれた身体と自らの特殊な“血”を駆使して、キサラギの地獄の逃走劇が始まる!!!


リンク:映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』公式サイト

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