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4月中旬、池袋のアニメイトシアターにてNetflixで配信中の「グリム組曲」の上映会が実施されました。「グリム組曲」は、「グリム童話」に着想を得た、6つの物語からなるアンソロジー作品。CLAMPがキャラクター原案を務め、横手美智子が脚本を担当、WIT STUDIOが制作を行うオリジナルアニメシリーズです。
写真左よりアニメーションプロデューサーの二宮源太さん、ヤコブ役鈴木達央さん、エグゼクティブプロデューサーの櫻井大樹さん、WIT STUDIO代表取締役社長の和田丈嗣さん
第一話「シンデレラ」、第二話「赤ずきん」を上映したあとに、アニメーションプロデューサーの二宮源太さんが登壇。ステージ上にプロデューサーでありWIT STUDIO代表取締役社長の和田丈嗣さん、エグゼクティブプロデューサーの櫻井大樹さん、そしてヤコブ役を務める声優・鈴木達央さんを呼び込みました。
鈴木さんが演じるヤコブは「グリム組曲」の各エピソードのプロローグに登場する、三兄妹の長男。次男のヴィルヘルム(CV:野島健児)とともに妹のシャルロッテ(CV:福圓美里)へお話を語ります。それが各話のストーリーにつながっていくという構成になっているのです。
エグゼクティブプロデューサーの櫻井さんは、鈴木さんを起用した理由が、この作品の仕掛けにあるということを話してくれました。
「『グリム童話』ってみんながよく知っているものだと思うんです。たとえば『赤ずきん』ならば、赤ずきんとオオカミが出てくるとか……。『グリム組曲』をご覧になる方はきっとそういう想定をされていると思うんです。まずはヤコブたちが出てくるプロローグで、そういう本来の『グリム童話』の前提をつくってもらいたかった。そのためには短い尺でも説得力を出せる方にお願いしようと思って。鈴木さんにお願いしました」
そのことばを聞いた、鈴木さんは「うれしいですね。最近、Netflixさんでお世話になっている作品では人を殴りがちな作品が多かったので(笑)、こういう平和な世界で優しい感じはとても新鮮でした。まあ、妹のシャルロッテはちょっと頭がぶっ飛んじゃっているんですけど(笑)。スタッフとディスカッションを重ねながら収録ができて、とても楽しかったです」と喜びを語ってくれました。
そして、ヤコブ役を演じるうえで鈴木さんがこだわったところは――。
「僕らはこの作品の導入役として出てくるので、導入と本編の差をつくりたいよねという話があったんです。僕ら(ヤコブたち)がつくっているものは本来の『グリム童話』であって、彼らがその童話を届けたい相手は子どもたちなので。優しくつくりたいなと。だからプロローグの3人のシーンは、優しく積み上げていくことを大事にしていきました。セリフ数は決して多くなかったんですけど、プロローグで本編とのギャップを差し込んでおくことで、作品のカラーがはっきりするのかなと意識していました」
本編のストーリーは『グリム童話』でおなじみの一編をモチーフにした、捻り上げたオリジナルなストーリーが展開していきます。SFテイストのものもあれば、サスペンスタッチなものもあり、本来の童話からは想像がつかないストーリーになっているのです。司会の二宮プロデューサーから、実は鈴木さんが本編にも参加していることが明かされました。鈴木さんは本編の収録の模様を語ります。
「最初、出演はプロローグだけかなと思ったら、本編の台本も渡されて。重役とか、保安官とか、いろいろな役柄で参加することになっていたので驚いたんです。そうしたら『この作品の本編は、プロローグに登場したシャルロッテの頭の中の世界なので、シャルロッテのお兄ちゃんたちが、その世界に染まったかたちで登場してしまうんですよ』と説明をしていただいて。これはおもしろい仕掛けだなと思いつつ、お芝居としての妙を混ぜながら、やらせていただきました。
本編は、幅広い年代のみなさんがお芝居でバチバチぶつかり合うようなお話になっていて、ドロドロした人間の本質みたいなものを突いているような展開になっている。やっぱり、そういう話になると、演者のみなさんもギアが入るのがわかるんです。それこそ第一話の『シンデレラ』の収録のときに釘宮(理恵)さんと『この話はめちゃくちゃおもしろいね』とお話したこともありました。各話ごとに演出や描き方が違うので、個人的には『ロボットカーニバル』とか往年のオムニバス作品のような印象があって、とても楽しかったです」
「グリム組曲」というタイトルのとおり、本作では音楽も魅力のひとつ。櫻井プロデューサーは音楽を担当された宮川彬良先生との思い出を教えてくれました。
「宮川先生から、最初に音楽打ち合わせの場にピアノを持ち込んでくれ、と言われたんです。それで打ち合わせをするスタジオにピアノを置いて。それで映像を見ながら、先生に弾いてもらって、打ち合わせを進めていったんですよ。そこで僕らが「(一度、長調で弾いた曲を)次は短調で弾いてもらえませんか?」とお願いすると、先生がその場で弾き直してくださる。そこで僕らがメモを取る、という感じで進めていきました。
レコーディングは本編を見ながらオーケストラが生で演奏するんですよ。それで映像と音楽のタイミングを合わせるんだけど、合わなくてね(笑)。それで何度も何度も弾き直してもらって、1日がかりでレコーディングをしていきました。宮川先生が全部の楽曲を書いて、全曲指揮を振ってくださって。レコーディングに行くのは楽しみでしたね。一日中生演奏を目の前で聴けるわけですから。二宮くんといっしょにレコーディング会場で椅子に座りながら「お金を払いたいね」と言ってました(笑)。まあ、実際にお金をお支払いしているんですけど」
そう櫻井プロデューサーが興奮気味に語ると、二宮プロデューサーは「映像の完パケを(音楽の)収録に間に合わせないと、というプレッシャーがありました(笑)。こんなんじゃ音を付けられないと言われたらどうしようかとずっと考えていました」と現場の大変さを明かしてくれました。この音響面の頑張りにWIT STUDIOも負けられないと奮起したとのこと。
「今回は宮川先生の音楽、オムニバスで横手さんが書かれた脚本、鈴木さんを始めとした素晴らしい声優さん……映像側はそれに負けちゃダメだと思って、作画スタッフもブレーキを外して頑張りました。いま二宮がここにいますけど……アニメーションプロデューサーをするのは初めてでございます(会場拍手)。1話ごとに登場人物も違うし、時代も違うし、ストーリーも違うし、監督も違うし、つくり方も違う。そこをひとつひとつつくっていきました。二宮が粘り強く、つくってくれたなと思っています。みんなチャレンジしました!」と和田プロデューサー。彼は今回、最も活躍したスタッフの名前を挙げました。
「今日、ここに来た方にひとりだけ名前を憶えて欲しいと思っています。WIT STUDIOの社員に大杉(尚広)という男がいまして。彼は今回キャラクターデザインをやっているんですが、彼が『グリム組曲』のキャラクターの統一感を出すために全話を通して、最初から最後まで4年間くらい頑張ってくれました」
その和田さんのことばを受けて、櫻井さんもスタッフへのエールを送りました。
「今回のクレジットをぜひ覚えておいていただきたいです。各話の監督たちが、ここからアニメ業界でいろいろなシリーズを手がけると思います。この作品に関わったクリエイターたちが活躍してくれたら、それはまさしく狙い通りでもあるので……二宮くんもWIT STUDIOをこれから引っ張っていくよね?」
すると二宮プロデューサーからまさかの回答が。
「はい、5年後には社長になります」
そのことばに和田さんも苦笑い。会場も笑顔に包まれます。イベントの最後に鈴木さんからメッセージが贈られました。
「櫻井さんとは以前『オルタード・カーボン』というNetflixで配信されている作品でお世話になっていて、そのときも「自分たちでアニメを作りたいね」と話していたんです。今回、まだコロナ禍の収録でどうしても別録りだったのですが、いろいろな方からケアをしていただいて、僕らのお芝居を裏で支えていただけたと思っています。今回の作品はちょっとおもしろいつくりかたをしていて、作品ごとに監督も違うし、監督ごとにカラーが違うし、見えてくる映像も、聴こえてくる音楽も違う。統一感はあるのに、色が違うという、何とも人間らしいフィルムができているんじゃないかと思っております。この作品を見たら、いまのWIT STUDIOがわかるかもしれない。ちょっと不思議なグリム童話の世界を、ぜひ配信でも楽しんでいただきたいです」
大きな拍手とともに上映イベントは終わりを迎えました。
【取材・文:志田英邦】
「グリム組曲」は現在Netflixで全6話にて配信中です
■Netflixシリーズ「グリム組曲」
●Netflixにて全世界配信中
スタッフ:監督=第一話「シンデレラ」金森陽子、第二話「赤ずきん」赤松康裕、第三話「ヘンゼルとグレーテル」橋口淳一郎、第四話「小人の靴屋」鎌倉由実、第五話「ブレーメンの音楽隊」竹内雅人、第六話「ハーメルンの笛吹き」仲澤慎太郎、「プロローグ」「エピローグ」久保雄太郎、米谷聡美/脚本=横手美智子/キャラクター原案=CLAMP/キャラクターデザイン=大杉尚広/音楽=宮川彬良/アニメーション制作=WIT STUDIO/制作協力=Production I.G
キャスト:シャルロッテ=福圓美里/ヤコブ=鈴木達央/ヴィルヘルム=野島健児 ほか
リンク:Netflixシリーズ「グリム組曲」