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「エヴァ」から感じ取ったもの、それは「いざない」――「終結の槍/終結のはじまり」発売記念・林原めぐみインタビュー


声優のみならず、歌手や作詞家などマルチに活躍中の林原めぐみさんのニューシングル「終結の槍/終結のはじまり」が発売中だ。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の映像を初搭載した「ぱちんこ シン・エヴァンゲリオン」のテーマソングであり、「エヴァンゲリオン」遊技機楽曲としておなじみの「シュウケツ」シリーズの最後を飾る楽曲となる。歌のみでなく歌詞も担当した林原さん本人を迎えて、楽曲に込めた想いを語ってもらいました。

すべての始まりである「残酷な天使のテーゼ」を分解して再構築

――2009年の「集結の園へ」から始まった「シュウケツ」シリーズですが、今回は「終結」と漢字表記が変わり、ついに終わりを迎えました。
林原 まあ、毎回これが最後だろうと思いながら作っているんですけどね(笑)。何しろ去年リリースしたのが「集結の果てに」で、さすがに「果て」までいったらもう終わるしかないということで、「終結」と名付けた次第です。

――林原さんにとって「シュウケツ」シリーズとはどのような位置付けでしたか?
林原 シリーズになったこと自体、本当に偶然なんですね。最初に「集結の園へ」の話をいただいたときは、「エヴァ」の作品群に「林原めぐみ名義」で曲を出すことに抵抗があって。それは(高橋)洋子ちゃんの領域であって、私ではなかろうと。でも、遊技機へは、洋子ちゃんの歌も搭載されるからと頼まれて、「私にできることがあるなら」と思い直して担当させていただくことになったんですね。で、その次の「集結の運命」は鷺巣詩郎さんが作曲してくださったんですが、その際に「オフィシャルスピーカーとしてできることがあるはず」という言葉を下さったんです。「エヴァ」の作品に深く関わった人間だからこそできる表現があるというのは、それまでの私にはなかった発想で、そこで向き合い方が変わった気がします。「集結の運命」からは「エヴァ」を体感したからこそのアイデアや世界観を盛り込みつつ、コアな「エヴァ」ファンにも楽しんでもらえるようにと取り組みました。

――まず「終結の槍」ですが、歌詞中に「残酷な天使のテーゼ」のワードが散りばめられていて、オマージュでありアンサーのような楽曲ですよね。
林原 そうですね。すでに作品は完結していて、言いたいことはすべて本編で描かれているわけですから、今さら私が伝えたいことなんて正直ないんです(笑)。ただ「そもそも始まりはなんだっけ?」と振り返ると、それはもちろん「残酷な天使のテーゼ」なんですよね。物語が完結した今だからこそ、終わりからの目線で始まりの歌への感謝を捧げたいと思い、一度文章に入っているワードをバラバラにして、「神話」や「ゆりかご」など印象的なワードを取り込みました。

――歌詞カードを見ると、引用されたワードが色分けされているのでひと目で確認できますが、かなりの数ですね。
林原 「残酷な天使のテーゼ」ってカラオケの定番曲ですけど、皆さん意外と歌詞の意味は考えずにノリで歌われている方も多いと思うんですよね。なので、「終結の槍」を通じて今一度この楽曲がもつ神話感を追体験していただけたらいいなと思って、拾い集めました。

――じょじょにキーが上がっていく曲調も含め、「エヴァ」シリーズで起こったいろいろな出来事が思い出される感覚があります。
林原 そう感じていただけるとうれしいです。じつは、歌詞の散りばめ以外にも仕掛けがあるんですよ。曲のなかにコーラスが入っているんですけど、そこはヘブライ語で「残酷な天使」と「テーゼ」と歌ってもらっているんです。

――そうだったんですね。まったく気づきませんでした。
林原 諸説あるみたいですけど、そもそも聖書はヘブライ語で書かれたものらしいということで、当時の言葉を探して入れ込みました。考察好きな皆さんのために、しばらくは秘密にしておこうと思って、もし発表する前に気づいた方がいたら、素直にすごいなと思いますね。

全キャラを入れ込んだ「終結のはじまり」

――次に「終結のはじまり」についてですが、こちらは冒頭の「迎えに行くよ」というマリのセリフから始まり、さまざまなキャラクターの想いが寄り集まった楽曲ですね。
林原 「終結の槍」では「エヴァ」を外側から眺めたので、「終結のはじまり」はギリギリまでキャラクターたちに近づこうと思い、全キャラクターを歌詞に入れ込もうと決めて取り掛かりました。以前、「集結の運命」では「明日(あす)から旅立ち」や「怪しくかおる」、「舵を失ったまま」など、歌詞の中にキャラクター名を忍ばせるということをやったんですけど、今回は違う形で「エヴァ」を思い出せるような歌詞にしたかったんです。

――それにしても、全キャラを入れようというのは壮大な試みですね。
林原 もちろん文字数的な制約がありますから、個々をすべてピックアップすることはできないんです。ただ、ちょうど歌詞を作っていたころにテレビ番組で『VOYAGER~日付のない墓標~』(「シン・エヴァンゲリオン劇場版」劇中歌)を歌う機会があって。この曲を最初に収録したときは、劇中のどこで流れるのかも分からず、なんとなくユイさんのことを思い浮かべながら歌っていたんですね。でもテレビで歌うに際してもう一度自分のなかに取り込んでいたら、これはユイさんだけじゃなくてキャラクター全員のことを歌っているんじゃないかと思うようになったんです。

――たしかにサビの「私があなたと知り合えたことを 私があなたを愛してたことを 死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから」などはいろいろなキャラにも当てはまります。
林原 そうそう。ミサトから加持へ、シンジからミサトへ、冬月からゲンドウへなど、ヴィレのみんなも含めて全員の顔が浮かんできて。「終結のはじまり」もそれと同じく、これまで「エヴァ」を支えてきたすべてのキャラクターと、それを見届けてきたファンの気持ちを表現することで、私の中での「完結」としました。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、ひとつの物語が終わるとともにそれぞれの人生が始まっていくという作品でもあることから、「終結のはじまり」というタイトルにしました。

――どちらの曲もハイキーで激しい歌唱スタイルですが、レコーディングはいかがでしたか?
林原 毎回、アスリートになった気持ちで望んでいます。収録日が近づくにつれ「もうダメ! 無理!」って思うんですけど、そのたびにちゃんと歌えている自分を想像してメンタルを整えて(笑)。

――「できる」と信じることが大切なんですね。
林原 私の場合はそうです。「この曲を歌う人」という役作りのようなもので、やっていることは声優の仕事に近いかも。そもそも私自身はあまり音楽は聴かない人で、たまに聴いたとしてもオカリナ奏者の宗次郎さんとか、穏やかな音楽ばかりで(笑)。私個人から聞き手にメッセージを届けるというよりは、作品の世界観をお届けするために、歌う人を演じているという感覚が強いですね。

レイの語りかけに本人も思わずキュン!?

――ちなみに、ご自身の曲が収録されたパチンコ台を実際にプレイすることはありますか?
林原 稼働したら、必ず一度は打ちに行くようにしています。とは言え、台の進化っぷりには驚かされますね。昨年登場した「Pゴジラ対エヴァンゲリオン ~G細胞覚醒~」なんて、釘なんてどこにも見えないですし、筐体からゴジラの尻尾がドーンと突き出していたり(笑)。操作方法もどんどん変わるので、周りをキョロキョロしつつ、見よう見まねでやってました。

――大当たりしたことは?
林原 まあ、ありませんね(笑)。自分の曲が流れないうちに予算が尽きてしぶしぶ帰ることもしょっちゅうです。それでも、新台用に新規で収録したセリフもたくさんあるので、それを聞けるとうれしいものなんですよ。

――店内はかなり騒々しいと思いますが、レイの細い声もちゃんと聞こえるんですか?
林原 それが聞こえるんですよ。それもあって、まるで自分だけに語りかけてくれているようなレイちゃんの声を聞くと「いやん♪」ってキュンとしちゃうんです(笑)。しかも今回の筐体には上部に大きなレイちゃんがドーンとあしらわれていて、めっちゃ映えそうなんです。今からプレイするのが楽しみです。

――ジャケット写真は「エヴァ」の印象的なシーンのモデルでもある宇部新川駅で撮影されたそうですね。ジャケット写真に映っている林原さんは、黒レイですか?
林原 そうなんです。本編ラストの駅ホームのシーンでは、レイちゃんらしき人物はいても、通称・黒レイちゃんはいなかったですよね。でもせっかく生まれた命ですから、彼女にもエヴァのいない世界の景色を見せてあげたかったんです。コスプレとかではなく、彼女の魂をそこに連れてきているイメージです。わざわざ私がそんなことをしなくても、この世界のどこかに黒レイちゃんはいるのかもしれませんけど。

――では最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。
林原 最終的に私が「エヴァ」から感じ取ったものの一つは、「いざない」なんです。ご飯も食べられなくなって、アスカに馬乗りになられても無気力のように見えた、世界一ダメダメだった碇君ことシンジ君ですけど、今日がダメでも、明日がダメでも、明後日がダメでも、最後には父親を超えて世界を変えてしまった。どんなときにもつねに希望はあるんだな、見えないけれど背中合わせな場所にあるのかもしれない…。そんな要素を抽出して曲にしたのが今回の2曲だとも思います。すべてが終わった今だからこそ、改めて「エヴァ」を振り返りつつ聞いていただけるとうれしいです。



【取材・文:岡本大介】

林原めぐみ「終結の槍/終結のはじまり」
●「ぱちんこ シン・エヴァンゲリオン」テーマソング マキシシングル
KICM-2147/1430円(税込)/発売中
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICM-2147/

リンク:MEGUMI HOUSE

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