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CMソングやフェスシーンでの活躍が注目されるシンガーソングライター、mekakushe。彼女にとって初のアニメタイアップとなるTVアニメ「九龍ジェネリックロマンス」では、ED楽曲「恋のレトロニム」に加え、挿入歌「わたしだけのポラリス」「ユワナメロウ」の計3曲を手がけている。
TVアニメ放送もクライマックスにさしかかった今、mekakushe本人に楽曲制作の裏側や作品への思いを深く聞いた。発売中の月刊ニュータイプ2025年7月号では語りきれなかった、彼女のクリエイティビティの源泉に迫る。
mekakushe
――今回、mekakusheさんにとって初のアニメタイアップとなりますが、TVアニメ「九龍ジェネリックロマンス」のED楽曲のお話が来たときのお気持ちはいかがでしたか?
mekakushe アニメのタイアップ曲を歌うことは私の夢だったので、率直に、すごくうれしかったです。しかも「恋は雨上がりのように」をはじめ、原作者の眉月じゅん先生の作品は大好きでよく読んでいたので、「大変な作品のED楽曲を担当することになった」と、驚きと喜びが同時に湧き上がってくる感覚でした。
――「九龍ジェネリックロマンス」を読まれた時の印象はいかがでしたか?
mekakushe まず表紙を見た瞬間、主人公の鯨井令子さんが身に着けている衣装とか、表情、コミックス全体の装丁からして、すごくすてきで「これは好きな作品だ!」と直感しました。最初はラブストーリーかなと思っていたんですけど、気づけばどんどんミステリー要素が入ってきて、一気に作品世界に引き込まれましたね。ちょうど続きがものすごく気になるタイミングで楽曲の制作に入ったので、「この先どうなっちゃうんだろう?」ってドキドキしながら曲を書いていました。
mekakushe「恋のレトロニム」
©眉月じゅん/集英社・「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会
――ED楽曲「恋のレトロニム」ですが、まずタイトルが印象的です。「レトロニム」は新しいものが生まれた時に、古いものに名前を付け直す、といった意味合いですよね。
mekakushe はい。この曲は、ざっくり言うと鯨井令子の片想いソングとして書いたんです。「レトロニム」という言葉が浮かんだのは本当に最後の最後で、最初のタイトルは、歌詞にも入っている「私は私」でした。令子が工藤さんのことが好きという気持ちに気づいたものの、自分そっくりの婚約者がいたことに自信を無くしながらも、「それでも私は私だから彼が好きなんだ」という想いを込めていました。でも、「私は私」というテーマをもっと別の言葉で表現できないかと考えていたときに、ふと「レトロニム」というワードが浮かんだんです。レコーディング直前だったんですけど、急きょそれをタイトルにして、歌詞にも入れこみました。それまでの「私は私」というフレーズはCメロに残しているんですけど、そうすることで、このメッセージがより強く響くようになったかなとも思います。
――アレンジはTVアニメの劇伴を担当されている佐高陵平さんですね。香港テイストが印象的です。
mekakushe メインのリフは私がもともと考えていたものなんです。最初はギターで弾いていたんですが、それだと普通だなって(笑)。もっと作品に寄り添える音色にしたいと話して、佐高さんが今のチャイナ風の弦楽器のような音に差し替えてくださいました。いい塩梅で作品のテイストを取り入れられたと思います。
――ED楽曲でありながら、どこかOPテーマのような、これから何かが始まるワクワク感もありますね。
mekakushe そうなんです! エンディングというとバラードなどをイメージされるかもしれませんが、この曲は「来週も楽しみだな」と思ってもらえるような、始まりを感じさせる曲にしたかったんです。原作を読み進めているときって、次のページをめくる期待感のようなものがあるじゃないですか? それを曲でも表現したいと思って、「しんみり」と言うよりは「ドキドキワクワク」を意識しました。
――今回はED楽曲に加え、TVアニメ第7話で使われた「わたしだけのポラリス」、第10&11話で使用された「ユワナメロウ」と、2曲の挿入歌も手がけられています。これは当初から決まっていたのですか?
mekakushe いえ、確か最初は、ED楽曲のみというお話だったと思います。途中で「数曲増えるかもしれない」と言われたときは「どういうこと?」って思ったんですけど(笑)、挿入歌だとうかがってなるほどと。この2曲については、事前に絵コンテをいただいて、「このシーンで流れます」ということを教えてもらったうえで書いたので、かなり作品重視の楽曲になっています。
――「わたしだけのポラリス」は非常に明るく、幸せに満ちた楽曲ですよね。
mekakushe 私の今までの楽曲のなかでもいちばん明るい曲です。テンポ感も歌詞も、目いっぱい明るく元気に、かわいくをテーマに歌いました。実は制作チームから「暗い言葉はいっさい入れないでほしい」っていうオーダーがあったんですよ。
mekakushe「わたしだけのポラリス」
――第7話で流れましたが、幸せいっぱいのシーンから一気に絶望が襲うギャップが印象的でした。
mekakushe それが狙いだったので、最高に明るい曲に仕上げています。でもそのおかげで、「私ってこんなに無邪気で明るい歌詞が書けるんだ!」と、新しい発見がありました。
――ふだんなら照れくさい感じですか?
mekakushe それもありますし、私は基本的にネガティブなんです(笑)。どんなに幸せだったとしても、ついつい「こんな幸せが長く続くわけがない」って思ってしまうタイプなので、ここまで振り切った歌詞はなかなか書けないんですよね。でも今回は作品の力を借りることで素直に表現できたので、何だかひと皮向けた気分かも(笑)。
――一方の「ユワナメロウ」はまたガラッと雰囲気が変わって、こちらはミステリアスな印象ですね。
mekakushe これはラブロマンスとミステリーという作品の大きな柱のうち、ミステリーの部分を意識して、マイナー調で書きました。TVアニメも終盤に突入してきて、物語の真相に迫っていく緊迫感を表現できたらいいなと思ったんです。この曲が、実は3曲のなかでいちばん今までの私らしいというか、自然体で書けたかもしれません。歌詞の書き換えもなくて、一発OKでしたね。
mekakushe「ユワナメロウ」
――なるほど。まったくカラーの異なる3曲ですが、それぞれで歌い方も違っていますよね?
mekakushe 自分のなかではかなり変えています。「恋のレトロニム」がスタンダードだとしたら、「わたしだけのポラリス」は先ほどお話ししたようにとにかく明るく元気に。「ユワナメロウ」は少し空気を含んだような歌い方で、自分のなかですみ分けをしています。とは言え、劇中の誰かになりきるというよりは、あくまで自分らしく、物語に寄り添うことは意識しました。
――mekakusheさんの楽曲は、どれも歌詞の言葉選びやリズム感が心地よいという印象があります。作詞でこだわっていることはありますか?
mekakushe 私は基本的に「詞先」で、歌詞を全部書いてからメロディーを付けていくんですけど、書き留める際は5・7・5のような定型詩になることが多いんです。それがリズムだったり言葉の響き方に影響しているんだと思います。あとはレコーディングの際にいろいろと試しながら探ることも多いですね。たとえば「ユワナメロウ」のサビの「触れられないフレア」のフレーズは、いろいろなリズムやニュアンスで何度も録り直し、試行錯誤を重ねました。
――確かにここの言い回しはすごく印象に残っています。
mekakushe ありがとうございます! 細かいところですけど、とてもこだわりましたね。リズムや韻の踏み方が印象に残るねと言っていただくことも多いんですど、多分そういうことの積み重ねなのかなと思っています。
――いよいよTVアニメの放送もクライマックスを迎えようとしています。この3曲を通して、ファンにどんな想いを届けたいですか?
mekakushe まず、こんなにすてきな作品に3曲も自分の曲を使っていただけたことが夢のようです。3曲とも全く違うカラーに仕上がったと思うので、どれか1曲でも「この曲好きだな」と思ってもらえたらうれしいです。アニメファンの方々にとっては、今回初めて私のことを知ってくださった方が多いと思いますけど、私自身、皆さんに「見つかりたい!」っていう気持ちでいっぱいです。ようやくアニメタイアップという夢の舞台に立つことができたので、ぜひmekakusheを見つけてやってください!
――ちなみにmekakusheというアーティスト名についてですが、名前の由来はあるんですか?
mekakushe もともとは本名で活動していたんですけど、私が”女性”であることが、作品の受け止められ方に影響を与えているんじゃないかと感じて、ちょっと苦しい時期があったんです。もっと純粋に「音楽だけを届けたい」という思いがあって、それで匿名性を表わす「mekakushi(目隠し)」を思いつきました。ただ、どこまでいっても自分が発信し続ける限りは”女性である”ことからは逃げられないとも感じていて、それで名前の最後の「shi」を「she(彼女)」にしたんです。
――そんなストーリーが秘められていたんですね。では最後に、今後の目標や野望があれば教えてください。
mekakushe ライブも積極的に行なっていきたいですし、いつかはプラネタリウムで、宇宙をテーマにした曲たちでライブをするのが夢だったりします。とにかく今は、作家としてもアーティストとしても、いろいろなことに挑戦していきたいです。準備は万端ですので!(笑)
アーティストやクリエイターから絶大な支持を受けるネクストブレイクシンガーソングライター。自主制作楽曲「ペーパークラフト」が花王ロリエCMに抜擢されたことを皮切りに、anan新世代カルチャー特集やAmazon Musicが次世代アーティストをプッシュする企画「HEAT」に選出されるなど注目を集める。作詞・作曲家として「アイドルマスター ミリオンライブ!」やアニメ「ひみつのアイプリ」などにも楽曲提供を行なうかたわら、HandMade In Japan Fes、SYNCHRONICITYなど多数のフェスにも出演し、精力的に活動中。
【取材・文:岡本大介】
■mekakushe「恋のレトロニム」「わたしだけのポラリス」「ユワナメロウ」
配信中
配信元:akogare records
リンク:mekakushe公式サイト
mekakushe公式X(Twitter)・@_mekakushe_
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