その他

震災で打撃を受けた輪島温泉郷にて新温泉むすめ制作決定! そのキーマンが語る輪島の現在とこれから

2024年1月1日に起きた能登半島地震で観光客がほぼいなくなった石川県の輪島で、新たな希望の光となるべく新しい温泉むすめ(※)を誕生させるプロジェクトが始動! WebNewtypeではその関係者の声を全6回(予定)にわたってお送りします。
初回となる今回は、当地で旅館とホテルの経営に長年携わり、輪島における温泉むすめ顕現のきっかけとなった谷口浩之さんの、そこに至るまでの経緯と現在の思いをお届けします。

※日本全国の温泉をモチーフにしたキャラクターと、声を担当する声優たちが、全国の温泉地を盛り上げるプロジェクト

観光客はほぼ皆無…震災後の輪島の状況は悲惨だった

――まず、震災前は輪島の観光がどんな様子だったか教えてください。
谷口 漆器の輪島塗や棚田の千枚田が有名で、輪島朝市も日本三大朝市のひとつとしてにぎわっていました。和倉温泉に泊まったついでに立ち寄る方もいましたし、金沢から輪島までは直線距離で100kmほどあり日帰りで往復するのは大変なので、輪島に宿泊する方も多かったです。

――震災後の現在の状況はいかがですか?
谷口 2024年元日に起きた震災後、観光客はほぼ皆無です。支援に来られる方やボランティアの皆さんがちらほらいるくらいで。とにかく輪島は被害がかなりひどく、観光に来ていただいても楽しめる場所がありません。以前は旅館も20軒ほどありましたが、今は宿泊できる場所さえ限られています。

――復興の兆しは感じられますか?
谷口 飲食店さんが続々と仮設店舗でオープンしていて、先日もお寿司屋さんが1軒開きました。今後もどんどんそういう話が増えるでしょう。ただ、観光に来ていただいたお客様が楽しんで帰れるかというと……まだ少し厳しいかなと思います。


谷口さんが経営していた輪島温泉 八汐の現在のフロントの様子。解体に向けて片付け中とのこと。「うちはホテルもあるのでまずそちらを先に復旧させ、そこが軌道に乗ってから旅館の今後は考えようかなと」


輪島温泉 八汐から一望できる袖ヶ浜海岸。以前は浜辺の面積は半分ほどで、テトラポットもほとんど埋まってたが、地震によって地盤が隆起し「景色が一変した」そうです


「宿フェス」をきっかけに「温泉むすめ」にアプローチ

――「温泉むすめ」プロジェクトを始めるきっかけはきっかけは何だったのでしょう?
谷口 地震発生後、全国にいる旅館仲間と「どういう復活の仕方がいいか」という話をするなかで、「『温泉むすめ』というコンテンツがすごく人気なので、その力を借りられたらいいんじゃない?」とアドバイスをいただいたんです。立ち上げの初期から何となく僕の耳にも入ってはいましたが、「そんなに人気なのか」と認識を新たにしました。

――実行に移そうと思ったきっかけは?
谷口 2025年2月にお台場で開催された「宿フェス」という日本全国の旅館関係者が集うイベント内で行なわれていた「温泉むすめ」のステージに、各地の法被を着た熱気のあるファンが長蛇の列をつくっていたんです。その人気を実感して驚きつつ、同じく旅館を経営している若旦那の友達と「『温泉むすめ』すごいね」「ファンが熱心で応援してくれるし、復興支援につながるから輪島温泉でも絶対やりなよ」なんて話をしていたら、たまたまその話を耳に挟んだ一般の方が「自分も『温泉むすめ』のファンで、能登半島で温泉むすめが生まれるなら絶対に行きますから」とおっしゃってくれて。その後、同じように何人もの方から「応援したいからやってくれ」と声をかけられて、本格的にやってみようと決心しました。


平日開催にも関わらず500名近くが温泉むすめのイベントに集まった「宿フェス」の様子。いかに「温泉むすめ」がファンに愛されているかがわかる1枚だ


――そこから「温泉むすめ」プロジェクトを運営するエンバウンドにどうアプローチしたのでしょうか?
谷口 すでに温泉むすめがいる岐阜の若旦那の友達に、「温泉むすめってどうやってキャラクターができるか知ってる?」と尋ねたんです。そうしたら「社長のこと知ってるから、ひと言言っとくわ」と連絡を取ってくれて。その後すぐエンバウンドの橋本(竜)社長から連絡があって、何度かやり取りをしたんですが、僕が東京に行くタイミングで初めて対面でお話しした際にはもう、エンバウンドさんから「震災復興のお手伝いをしたい」との申し出をいただき、輪島温泉郷の温泉むすめをつくることが決まりました。「宿フェス」が2月で今は5月ですが、3か月でここまでトントン拍子に進むとは思いませんでしたね。

名物などをキャラクタープロフィールに反映


輪島温泉に誕生する温泉むすめ・輪島かさねのキャラクター設定。温泉むすめにはプロフィールが細かく設定されています


――キャラクター制作において、谷口さんから提案されたことはありますか?
谷口 エンバウンドさんが事前に輪島のことをよく調べてくれたようで、かゆいところに手が届く、完成度の高いプロフィールを最初からつくってくれました。私が提案したのは「好きなもの」の部分くらいです。
たとえば、朝市をやっていた通りの近くに「藤田総本店」という精肉店があるんですが、そこの“かかし”という揚げ物は、われわれが小学生のころ下校中にコロッケとかといっしょに食べていたんです。それを観光バスのガイドさんなんかが紹介しているうちに有名になって、今ではテレビでも紹介されるような輪島の名物になりました。


取材中に昼食として提供されたかかし。うずらの卵、赤ウインナー、フランクフルトを串に刺してかかし状にした揚げもので、輪島のソウルフード


それと輪島と福井の一部では、冬に水羊羹を食べる文化があります。夏のイメージが強いのでそれを知って驚かれる方も多いですが、観光客が少し減る冬にも水羊羹を食べにきていただきたいという思いがあり、かかしといっしょに「好きなものに加えてください」と提案させていただきました。

――誕生日の設定についても相談されたそうですね。
谷口 当初提案されたのは「10月5日」でした。輪島温泉郷にはpH(水素イオン濃度)が10.5と高い〝日本有数の高質天然アルカリ性泉質〟の温泉があることが由来です。ほかにもいくつか候補を挙げましたが、既存の温泉むすめとのかぶりなどもあって、最終的に10月5日となりました。将来的には彼女の誕生日に輪島で何かイベントができたらいいなと思っています。

「温泉むすめ」の力も借りて輪島の源泉を復活させたい

――準備を進めてみての率直な感想をお聞かせください。
谷口 まず、純粋に楽しいですね。すべてお任せで、プロにいいものをつくっていただいて。設定を見ただけでも「輪島がこんなふうになるんだ」と喜んでいたくらいで(笑)。現段階ではまだキャラクターのビジュアルは見ていませんが、それでも、これまでと全然違う層にアプローチができる気がしています。

――と言いますと?
谷口 輪島はマンガ家・永井豪先生の出身地で、先生の作品が好きな方はたびたび輪島を訪れておられました。「温泉むすめ」は、また少し異なるマンガ・アニメファンの方々に知ってもらえるきっかけになりそうです。

――今後の展開についてはどう考えていますか?
谷口 輪島温泉郷のキャラクターを使って、いろんな旅館の売店でそれぞれの個性を生かしたグッズを配置し、ファンの方に商店街などを巡っていただきたいというのが理想です。でも先ほど申し上げたとおり、旅館の復興もなかなかできていないし、商店街もまだ厳しい状況です。だから街歩きを楽しんでいただくといった観光という面では少し厳しいでしょう。地震からしばらくは能登半島の様子がテレビのニュース番組で扱われていましたが、最近は、放送さえもされなくなってきています。でも「温泉むすめ」のキャラクターが誕生することで、直接的な話ではないけど「そういえば能登で地震があったよな」といったふうに思い出してもらえるのはすごくいいことでしょうね。

――最終的な目標は?
谷口 2024年1月1日以来止まっている輪島温泉2号源泉の復活がひとつの目標です。輪島にある宿泊施設のほとんどがその源泉を使っていたし、地震が起こる前はすぐ隣に足湯もあって、そこが地域コミュニティの場としても機能していたんです。行政も考えてくれてはいるんですけど、復旧のめどは立っていません。温泉むすめの力をお借りしてその存在を広くPRし、早く復旧させて輪島温泉郷としてお客様を迎えられるようにしたいです。


輪島の足湯スポット・湯楽里(ゆらり)に隣接する源泉。周囲には足湯に加え手湯やペット専用のお風呂、飲泉コーナーなどもあります


輪島温泉 八汐とホテルメルカート輪島で常務を務める、谷口浩之さん


【取材・文:はるのおと】

リンク:温泉むすめ公式サイト
    温泉むすめプロジェクト公式X(Twitter)・@onsen_musume_jp

この記事をシェアする!

MAGAZINES

雑誌
ニュータイプ 2025年7月号
月刊ニュータイプ
2025年7月号
2025年06月10日 発売
詳細はこちら

TWITTER

ニュータイプ編集部/WebNewtype
  • HOME /
  • レポート /
  • その他 /
  • 震災で打撃を受けた輪島温泉郷にて新温泉むすめ制作決定! そのキーマンが語る輪島の現在とこれから /