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「僕のヒーローアカデミア」福圓美里(トガヒミコ役)インタビュー「“トガフィルター”が必要なのが難しくて面白い」

2021年3月から5期が放送されているTVアニメ「僕のヒーローアカデミア」。8月21日からは悪役である敵<ヴィラン>の活躍が描かれる新章「ヴィランアカデミア編」がスタートしました。そこで今回は敵<ヴィラン>のひとりであるトガヒミコ役の福圓美里さんにインタビュー。2017年9月末の2期クライマックスから4年近く演じてきたトガヒミコへの思い、そして「ヴィランアカデミア編」について語ってもらいました。

――トガヒミコ役はオーディションではなく指名だったそうですが、どういった理由で指名されたかご存知ですか?

福圓 具体的には伺ってないのですが、音響監督の三間(雅文)さんは、トガ初登場のアフレコの時、私が劇団を主宰している時の、少し常軌を逸した感じでやってほしいと仰っていました。

――福圓さんは正統派ヒロイン役もそうですが、そういうギリギリな役のイメージもあります。

福圓 確かにギリギリな役をよくやります。そういうイメージが強いんでしょうか(笑)。ただ私も変わったキャラクターは好きだし、アフレコ現場で「誰がトガ役になるんだろうと思っていたけど、福圓さんはハマり役だね」と言ってもらえた時は、「それってどうなの(笑)?」と思いながらも嬉しかったです。

――トガを演じるのが福圓さんだと発表された際に「トガちゃんを演らせていただけるだなんて! 光栄すぎて鳥肌です」とコメントされていました。「ヒロアカ」に出演するならトガ役が第一希望でしたか?

福圓 もちろんです。だって面白いキャラクターなので、滅茶苦茶やりたくないですか?

――たとえばヒーロー側のお茶子や八百万よりも?

福圓 お茶子ちゃん達も見ていてかわいいし、そちらも羨ましいとは思いますけど、私は「ヒロアカ」ではトガちゃんが一番やりたいキャラクターでした。これまで変な人を演じることは多かったけど悪役は少なかったので、それもあってありがたかったです。

――それほどトガを気に入られている福圓さんにお聞きしたいのですが、彼女は原作の第6回人気投票では17位でした。ただ敵側では死柄木弔に続く2位です。この人気の理由をどう考えますか?

福圓 まず敵<ヴィラン>連合唯一の女の子というのが大きいですよね。彼らって強面が揃っているじゃないですか。べつにわざと人々を驚かそうとしているわけではなく、それぞれに事情があるからですけど。そんな中にいるセーラー服の女子高生だから、より一層読者のみなさんの心を打つんだろうなと。しかも“個性”が血を吸って変身という猟奇性もあって。女子高生と血という組み合わせは物語を感じますよね。

――「セーラー服と機関銃」を始め、セーラー服と日本刀や重火器みたいな、ある種定番となった“意外な組み合わせ”の延長線にトガもいるんでしょうね。

福圓 そうかもしれませんね。その危ない感じがみなさんに魅力的に映っているのかもしれません。

――ここからお芝居の話を伺いたいのですが、その前に……変身能力の持ち主のため、福圓さんが演じられていないシーンもあるんですよね。現見ケミィとか。

福圓 そうなんですよ! 声優って面白いですよね。トガちゃんが能力を使って活躍する大事な場面で私はアフレコにいないという(笑)。

――そのトガヒミコという人物を、福圓さんはどう捉えていますか?

福圓 2期終盤の初登場時は情報が少なくて、セーラー服姿で血が好きというアイコン的なものと、テンション高く自己紹介する女の子という情報くらいしかわからなかったんです。原作で先は読めるものの、それでも情報が少なくて当初は探り探りでした。たとえば仲間が死んだら悲しいのか、敵<ヴィラン>連合のことをどう思っているかすらわからなくて。

――当時だと、原作でもお茶子や出久と初めて会ったくらいですもんね。

福圓 はい。ただその中でトガちゃんはすごく強烈に「好き」と「嫌い」を言うので、それを汲み取っていきました。「出久君やお茶子ちゃんは好き。でもこれは嫌い。だからこういう子なんだろうな」と少ない情報からパズルを嵌めるように推測しながら彼女について理解を深めていったんです。特に5期「ヴィランアカデミア編」は彼女のアイデンティティがこれまでで一番わかるような話だったので、その前後で印象が大きく変わりました。

――とある番組で、福圓さんは「トガヒミコは音響監督のディレクションも含めて構築していった」と仰っていました。具体的にどんな指示があったのでしょうか?

福圓 人から見える部分……トガちゃんの表層的なテンションは普通にしないでほしいと言われました。超常的なテンションというか。だから初登場時の弔君に会いにいくシーンもあまり相手に対して話しかけてない感じで、自己完結しているんです。本音を喋る時は意外とテンションが低い。

――ただ原作を読んでいてトガが内に籠もってる印象はないんですよね。

福圓 他人と共感し合う必要が彼女にはないのかもしれない。お茶子ちゃんと初めて会ったシーンも、「好きな人がいますよね」「恋バナ楽しいね」とは言ってるけど、それに同調してほしいわけでなく、自分の中で盛り上がっているだけで。明るいけどコミュニケーションはうまくない。あと三間さんからは「“サイコパス風”にしないでほしい」とも言われました。ステレオタイプではなく、「この人は本当にやばい」と感じられるようリアルにしてほしいと。

――話を聞くだけで、演じるのが難しそうだなと感じます。

福圓 彼女が自覚していることと覆い隠した本音が違うのですごく難しいし、そこが面白いキャラクターでもあります。そもそも覆い隠してすらいないのかもしれない。言ってることが全てなのかもしれない。ずっとトガちゃんのこと考えていられます。そんな人間的な魅力のあるキャラクターを敵側にも描いてくださるのはすごく嬉しいです。

――敵<ヴィラン>連合の面々とも長い付き合いになっていますが、福圓さん自身は彼らへの愛着はありますか?

福圓 あります。ずるいですよね、「このビジュアルでそんな生い立ちを持ってたのか……」みたいな人の連発じゃないですか、敵<ヴィラン>って。みんなには騙されたと言いたい(笑)。「分倍河原君がマスクを付けてた理由はそうだったんだ」とか「弔君の目の下のカサカサはそういうことだったんだ」とか。トガちゃんとは全然関係ない、お母さんみたいな視点ですけど(笑)。みんな愛しくてしょうがないです。

――愛着はかなり強そうですね。

福圓 特に最近はアフレコでヒーロー側のみんなとほとんど会わないので、より敵<ヴィラン>連合のことしか考えてない人になっちゃいました。

――特にトガとトゥワイスはいいコンビです。

福圓 まさかのコンビですよね。折り合ってないようで折り合ってるという。

――トゥワイスがぶっ飛び過ぎていて、本来はぶっ飛んでるはずのトガがまれにツッコんでいるのが面白いです。そもそも敵<ヴィラン>連合ってツッコミ役がいませんし。

福圓 言われてみれば。でもトガちゃんはあの中では精神年齢的に大人じゃないですか。彼女は人任せにしないんです。自分が負った傷やトラウマを、自分で行動して自分で折り合いを付けているから。そういう意味では大人だなと。

――なるほど。そんな敵<ヴィラン>連合のキャストばかりが揃うイベントが11月21日に開催されます。

福圓 楽しみです、でもどんな空気になるんでしょうね(笑)。とりあえず、「とあるキャラは敵<ヴィラン>扱いしていいのか微妙で、出演者の選別が難しかった」という話が面白かったです。

――悪役のキャストしかいないアニメイベントもかなり珍しいです。

福圓 普段の「ヒロアカ」イベントだと、我々みたいな敵<ヴィラン>側のキャストは数が少ないんです。しかも集合写真を撮る時とかにみんなで「プルス・ウルトラ!」と掛け声を言いますけどそれもすごく微妙で……「私たちも言うんですか」ってなる(笑)。でも今回はヒーロー側のみなさんがいないので、堂々と敵<ヴィラン>側のノリでできます。

――5期後半では「ヴィランアカデミア編」として敵<ヴィラン>連合側の話が続きます。この収録を振り返っての印象を教えてください?

福圓 今回は個々の人間味に溢れた話が続き、普段キャストのみんながしていないような芝居もところどころあってたまらなくよかったので見逃さないでほしいです。特に弔君の話は絶対に観てほしいです。

――自身の芝居を振り返ってみるとどうでしょう?

福圓 とても難しいセリフがひとつありました。戦う相手のキュリオスに「あなたは不幸だったでしょ」みたいなことを言われて、それに対してトガちゃんが「私は不幸なんかじゃない」と言い返すんです。彼女は自分のことを全然不幸だと思っていない、でももしかしたらそう思い込もうとしてるのかもしれない。思い込みが強まったらそれはもう真実で「思い込もうとしている」という表現は蛇足になるその辺りの塩梅が難しかったです。

――難しいですね。コンプレックスの爆発ではないにせよ、少し強い意思を感じさせる必要はあるでしょうし。

福圓 キュオリスが言ってることはトガちゃんにとって痛い内容だけど、彼女の心は全然ぶれてなくて、ただ信念のみを語っているというテンションで言いました。そういう強い部分を持っているんだなというのが見えた話でもありました。

――彼女の心情を読み取るのは大変そうです。

福圓 台本を読むときに“トガフィルター”を挟む必要があります。彼女の心情と、読者として素直に受け取る印象はちょっと違うんです。先ほどのシーンだとキュリオスが言ってることも間違っていないんです。現に私読んでる時に「トガちゃんかわいそう」って思いましたし。でもその思考を頭から排除し、「トガちゃんはこう言われたらどう返すか」というのを丁寧に読み取らないといけません。そんなフィルターが必要なかなり特殊なキャラクターです。

――「ヴィランアカデミア編」での芝居を楽しみにしております。次に原作の話ですが、現在連載は最終章に入っています。

福圓 話が進むごとにトガちゃんを演じやすくなっているので、個人的にはもっと続いてほしいです。敵<ヴィラン>連合が主役のスピンオフとかやってほしいですし。あ、映画が観たいので映画もお願いします(笑)!

――トガは最終的にどういう結末を迎えてほしいですか?

福圓 彼女は自分なりの幸せを持っています。それを認めて欲しいと思っています。だから「血を吸わなくてよくなった」とか「更正させられた」みたいな世間一般から見た幸せでなく、トガちゃんなりの幸せの中で決着が付いてほしいです。たとえ命が絶えても。

――他人に否定されたくないトガにとっては最高の言葉かもしれませんね。

福圓 でも弔君は違いますよ! 弔君はグズグズに弱いから誰かが毛布で包んでほしいです(笑)。

――最後の質問です。福圓さんはTwitterで2020年10月に「40歳までにやりたいこと」として「トガヒミコのコスプレ」を挙げていました。これは実現しそうですか?

福圓 (笑)。しません! いやー、でももしかしたら家でひとりでこっそり楽しむ日は来るかも……?

【取材・文:はるのおと】

■TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期
放送:読売テレビ・日本テレビ系全国29局ネット 毎週土曜夕方17時30分〜
配信:Hulu、Amazonプライムビデオ 毎週土曜18:00〜 ほか

スタッフ:原作…堀越耕平(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)/総監督…長崎健司/監督…向井雅浩/シリーズ構成・脚本…黒田洋介/キャラクターデザイン…馬越嘉彦、小田嶋瞳/音楽…林ゆうき/アニメーション制作…ボンズ

キャスト:死柄木弔…内山昂輝/荼毘…下野紘/トガヒミコ…福圓美里/トゥワイス…遠藤大智/スピナー…岩崎了/Mr.コンプレス…最上嗣生/リ・デストロ…平田広明/スケプティック…杉田智和/トランペット…間島淳司/キュリオス…本田貴子/下典…山下誠一郎/緑谷出久…山下大輝/爆豪勝己…岡本信彦/麗日お茶子…佐倉綾音/飯田天哉…石川界人/轟焦凍…梶裕貴/切島鋭児郎…増田俊樹/蛙吹梅雨…悠木碧/八百万百…井上麻里奈/常闇踏陰…細谷佳正/相澤消太…諏訪部順一/オールマイト…三宅健太

リンク:TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」公式サイト
    公式Twitter・@heroaca_anime

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