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「デカダンス」の壮大な世界を彩る魅力的な音楽は、どのようにして生まれたのか――。
本作の音楽を担当するのは、「アンナチュラル」や「MIU404」といったTVドラマや数々の映画、ドキュメンタリーの音楽を手がけてきた得田真裕さん。本作の魅力を掘り下げるリレー連載第14回では、得田さんに音楽制作の裏側を伺いました。
――本作の第一印象を教えていただけますか。
得田 最初は“デカダンス”という言葉にあまりピンとこなかったんですが、ビジュアルイメージを見せていただいて、こんなに壮大な世界観の作品に関わらせていただけるのかとドキドキワクワクしました。特に衝撃的だったのが、その設定ですね。人間がアバターを使ってゲーム世界に入るという設定はよくありますが、サイボーグたちがアバター(素体)を使って人間たちの暮らす世界にログインするという、なかなかない逆転の発想に驚かされました。
――音楽の方向性を決める際、立川譲監督や音響監督の郷文裕貴さんとはどのような話し合いをされたのでしょうか。
得田 「デカダンス」はサイボーグ世界と人間たちの世界という二つの世界があるので、音楽も二つのテーマがほしいというオーダーがありました。さらに、物語の根本にはカブラギとナツメという二人のドラマがあるので、ドラマに寄せた音楽もほしいと。サイボーグ世界、人間の世界、ドラマという三つのテーマが音楽制作の大きな柱になりました。
――テーマが三つというのは多い印象ですが、得田さんのキャリアの中ではどうですか。
得田 ここまでテーマがはっきり分かれた作品は初めてかもしれないですね(笑)。最初の打ち合わせは、それぞれの繋がりをどうするか少し考え込んでしまいました。
――では、人間であるタンカーの世界の音楽はどのような方向性にしようと考えられたのでしょうか。
得田 タンカーたちの世界はティザービジュアルのような荒野のイメージがあったのと、生身の人間が住んでいるという設定があったので、まずは監督たちと人間の“生”が感じられるような音を探っていきました。
――タンカーたちが描かれる場面は、どこか民族音楽を想起させるような音楽が多いですよね。
得田 民族音楽、民族楽器も監督との打ち合わせで出てきたキーワードです。より原始的な音という意味で、サイボーグ世界との隔たりを明確にできるのではないかという話をしました。
――具体的にはどのような民族楽器を使用されたのでしょうか。
得田 珍しいものだと、イーリアン・パイプス(バグパイプの一種)やティン・ホイッスル(縦笛の一種)ですね。ほかにも、名前がよくわからない謎の民族楽器をいっぱい使っています(笑)。わかりやすいのが、「Tankers' dwelling」という曲でしょうか。
――「Tankers' dwelling」はとても生き生きした曲ですね。タンカー世界のいろいろな場面で使われているほか、第3話のナツメの修行がうまく行き始めたシーンでも印象的に使用されています。
得田 この曲は管楽器だけではなく打楽器も含めて、いろいろな民族楽器を使用しました。
――では、サイボーグ世界の音楽はどういったイメージで作られていったのでしょうか。
得田 未来感を出しつつもデジタルデジタルしすぎない音というオーダーがありました。デジタル音って、どうしてもピコピコした音になりがちです。専門的な言葉でいうと「アタックが強い音」といって、クラブミュージックをはじめとするデジタル音楽に多い音なのですが、そうではなく、もっと柔らかい音で表現したいという要望がありました。
確かに、サイボーグといえど見た目がポップでかわいらしいので、そこにデジタルの尖った音が乗るのはちょっと違うと思いましたし、柔らかい音で人との繋がりを表現したいという話も打ち合わせの中で出てきたので、なるほどと納得しました。
――「人との繋がり」というのは、サイボーグたちにも個性があり人間らしいところがあるということでしょうか。
得田 そうですね。監督は人間もサイボーグも心情はそれほど変わらないということを大事にされていたので、その想いに応えたいという意気込みで作っていきました。
――それにしても、「柔らかいデジタルの音」というのは難しそうです。
得田 僕も最初はあまり想像がつきませんでした(笑)。デジタル音というと、どうしてもシンセサイザーのピコピコした音が思い浮かびますし、未来感を出しつつも柔らかい音となるとこれは新しい挑戦だなと。
――それはどのように解決されたのでしょうか?
得田 シンセサイザーには音の発生から音が消えるまでにADSR(アタック、ディケイ、サスティン、リリース)という流れがあるんです。アタックというのは音が出てから立ち上がるまでの時間なんですが、立ち上がりを遅くすると音がふわっとして角が取れるんですね。そういった普段はあまりしないやり方を取り入れて新しい音色を作っていきました。あとはポルタメント(なめらかに音を移行すること)させることで浮遊感を出したり、聴いた方に柔らかなイメージが伝わるようなフレーズを作るようにしたりしました。
――ところで、最初に作られたのはどの曲になるのでしょうか?
得田 メインテーマの「DECA-DENCE's Spear」と先ほども挙げた「Tankers' dwelling」のような人間世界の曲ですね。
――「DECA-DENCE's Spear」は第1話のカブラギの戦闘シーンや第5話のスターゲート戦で使用された曲ですね。
得田 そうです。デカダンスが変形してパンチを繰り出すシークエンスにかかるようなイメージで作曲しました。これを最初に作って世界観を固めたいなと。
――「DECA-DENCE's Spear」の楽曲制作ではどんなことを大事にされたのでしょうか。
得田 この曲はもともと人間たちの世界で流れる想定でした。ただ、「デカダンス」は人間だけが戦うのではなく、サイボーグと人間が一緒に戦う作品です。だったら両方の要素を取り入れようと、人間味のある生楽器のオーケストラをメインにして、その裏にデジタル音をスパイスとして忍ばせ、人間とサイボーグが渾然一体となって戦う姿を表現しました。途中、コーラスが入っているのは「人の力」が感じられる要素を入れたいと思ったからです。
――先ほどおっしゃっていた、カブラギとナツメのドラマにも通じるような感じですね。
得田 そうですね。
――監督や音響監督からのリクエストで、何か印象的だったものはありますか?
得田 矯正施設の音楽でしょうか。デモ提出したときに「これだとちょっと怖いかもしれません」と言われ、怖くない音を選び直したり、音を減らしたりしたんです。そのときは実際どんな画になるのかわからなかったんですが、矯正施設が出てきた第6話は、状況はシリアスなのに見せ方はコミカルだったので、映像を見て改めて監督の演出意図に唸りました。
――楽曲制作をされていて、特に難しいと感じた曲はどれでしょうか。
得田 先ほどお話ししたサイボーグ世界のデジタルな音楽と、あとは感情に寄り添った心情曲ですね。心情曲はサイボーグ世界でも人間の世界でも両立しないといけないので、両方の画にちゃんと合うか不安なところもあり、音選びはかなり慎重になりました。監督と話し合った結果、人間もサイボーグも心情はそれほど変わらないということで、人の根源という意味でピアノのような身近な楽器や生楽器を中心にすることにしたんです。人間世界の音楽と重なる部分は多いんですが、まずはそういった楽器を選ぶところからスタートしました。
――逆にアイデアがすぐに浮かんだ曲というのは?
得田 人間世界の音楽やバトル曲などはやってみたいこともありましたし、ワクワクしたものを作りたいという意気込みもあったので、特に楽しく作ることができました。もともと自分がゲーマーなのも大きいと思います。RPGによくあるようなファンタジー世界の音楽を聴いて育ってきたので、そういう音楽を作れるのが嬉しくて(笑)。アメリカの音楽でもイギリスの音楽でもない、自分が経験して蓄積してきたさまざまな民族音楽の要素をごった煮にした音楽が作れる。実写のドラマやドキュメンタリーではできないことの一つなので、それはやっぱり楽しいです。
――では、これまでの物語の感想も聞かせていただけますでしょうか。
得田 毎回ドキドキしながら視聴しています。当たり前ですが、最初にいただいた文字資料と実際の映像は全然違っていて、想像を超える展開に驚かされっぱなしです。イチ視聴者の目線で、毎週、次の放送を待ち遠しく思っています。
――特に好きなキャラクターはいますか?
得田 クレナイさんですね。見た目も素敵ですし、ナツメをそっと支える姉御肌なところがカッコいいなと思います。
――ありがとうございます。そして、10月28日に「デカダンス」のオリジナルサウンドトラックがリリースされます。こちらの聴きどころを教えていただけますでしょうか。
得田 本編をご覧になってから聴いてくださる方が多いと思いますが、こんなにいろいろな世界観が混じり合ったサウンドトラックは珍しいと思うので、改めてサイボーグ世界と人間世界の違いを味わっていただけると嬉しいです。
【取材・文:岩倉大輔】