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〈実写とアニメ〉で2つの世界を描くファンタジーアドベンチャー「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」はいかにして制作されたのか? アニメーション監督・大塚隆史インタビュー


2023年12月20日からディズニープラスにて『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』が配信中です。

〈実写とアニメで2つの世界を描く〉を掲げる本作。我々が暮らす“現実世界”とウーパナンタと呼ばれる“異世界”が並行して描かれ、“現実世界”には実写映像、“異世界”にはアニメ映像が用いられます。果たして本作はいかにして制作されたのでしょうか? アニメーション監督を担当する大塚隆史さんに話を聞きました。



「本作の起源は萩原(健太郎)監督から持ち込まれた『我々が住む“現実世界”とドラゴン乗りが住む“異世界”とを行き来する物語』というアイディアにあったそうです。このアイディアをもとに企画を詰めていった際、実写とアニメを融合させようというアイディアが生まれた。そのアニメパートを担当する監督としてお声がけいただいたのが本作に参加するきっかけです。お話をいただいた時点で既にシナリオや“異世界”に相当するウーパナンタの世界設定も詳細に決まり、出水ぽすか先生のコンセプトアートも完成していた。その中で僕に課せられたミッションは萩原監督が必要とする映像をいかに作るかでした。なので今作では独自に判断することはは極力避け、都度判断を仰ぎつつ制作を進めていきましたね。また、各映像順番を入れ替えても成立するような仕上げにもこだわった。非常に学ぶことが多い現場だったと感じています。」

大塚監督はそう語ると、参加が決まった時のことを振り返ります。

「オファーをいただいた時にまず思ったのは『面白そうだ』ということでした。これまで多くのアニメ作品に関わってきましたから、大方のアニメ作品の制作過程はすぐに思い描けます。でも、今作ではそれができなかった。そこにまず興味を惹かれましたね。ただ、本作のアニメ監督に自分が適任なのかという不安も同時に感じていました。僕はシナリオに準拠し、必要な情報を整理しながらの映像に落とし込む制作スタイルを得意とします。映像の迫力を重視し、それに合わせてシナリオ改変もいとわない制作スタイルを望んでいるのであれば、僕は適任じゃない。まずは打ち合わせを設けていただき、望んでいるアニメの方向性のすり合わせをしていきました。」


© 2023 Disney


すり合わせの結果、今作が求めるものにこたえられると考えた大塚監督。アニメ監督としての最初の仕事は、設定の中の“空白”を埋める作業だったと言います。

「僕が参加を決めた時点でウーパナンタの設定はかなり具体的になっていました。島が空に浮かんでいる理由からそこにある島の数に至るまで、それは非常に綿密なものでしたね。ただ、アニメ制作を考えた時に“空白”になっている箇所はいくつかあった。まずはこの“空白”を埋める作業から着手することになりました。
“空白”の中には萩原監督や実写スタッフへのヒアリングで答えが出るものもあれば、綿密な打ち合わせが必要なものもあった。中には僕らからアイデアを提示したものもありました。これらの作業をひとつずつ完遂していき、アニメが作れるだけの情報をテーブル上にそろえ、アニメ制作に取りかかりました。」

必要な情報がそろった後、アニメチームと実写チームが同時進行で制作を進めていくことになります。その過程で大きな役割を果たしたのは出水ぽすかさんによるコンセプトアートだったと大塚監督は語ります。

「全く異なる制作過程を持つ実写とアニメ。両者を別のチームが進めていくため、情報の行き違いや作風のズレは避けらませんでした。このズレを最小限にとどめたのが出水先生の描いたコンセプトアートです。実写・アニメ両制作チームがコンセプトアートを映像化することを目指して制作を進め、ズレが生じた場合はこのコンセプトアートに立ち返ってすり合わせをする。この作業のおかげで両者にいさかいが生じることもなく、“現実世界”と“異世界”に統一感も失われることもありませんでした。これは非常にクレバーな制作方法だったと感じています。」


© 2023 Disney


本作のアニメパートでは俳優として活躍する奥平大兼さんと新田真剣佑さんがアフレコに挑戦。脇を固めるキャストには豪華声優陣が名を連ね、共にウーパナンタで暮らす人々を演じます。

「声優と俳優、その演技には質感の差があり、両者の演技を共存させるとそこには違和感が生じるリスクが生じます。これを避けるため、アニメパートの全キャストを俳優が担当するというアイディアもあったと聞いています。しかし、今作ではあえて声優と俳優の演技を共存させるという選択をしました。そこには声優の演技なしに日本のアニメーションは成立しないと言う想いがあったようです。この制作体制の中、奥平さんと新田さんは非常にいい演技を見せてくれたと思っています。2人は自身の中に演じるキャラクターの芯をしっかり作り、“現実世界”と“異世界”の両方をうまく演じてくれました。」

最後に本作のアニメーションにおけるこだわりを大塚監督に質問するとこう答えてくれました。

「初期の打ち合わせの時点から『本作のアニメは手描きにこだわりたい』というお話をいただいていました。なのでCGは極力用いず、手描きならではの面白さが出る絵作りにはこだわりました。僕自身手描きのアニメーションが好きなので、これも制作における一つの楽しさでしたね。」

果たして大塚監督が考える手書きアニメの面白さとはどこにあるのでしょうか? その話を伺うと、監督は2枚の原画を見せてくれました。


© 2023 Disney


「例えばここにある2枚の原画は、共に本作で使用したアクタを描いたものです。構図も近く、表情も比較的似ている。でも決して同じ顔ではない、ちょっとした線の入り方の差でニュアンスに違いが生まれています。この“バラツキ”こそが手描きアニメの面白さだと僕は考えています。
CGでは良くも悪くもこういった“バラツキ”は生じません。現在世界的にアニメ制作がCGへと移行している。その中で日本のアニメに手描き絵が根強く残り続けるのは、日本人にこのニュアンスの差を楽しむ感受性があるからだと思うんですよ。
今作では手描きならではの面白さをいかに表現するかも意識して制作を進めました。中には手描きを全面に打ち出した鉛筆描きでのアニメも使用しています。そこも注目してもらえると嬉しく思います。」

ディズニープラスが手掛けるファンタジー・アドベンチャー『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』。配信は2023年12月20日から。

「日本で“実写とアニメで2つの世界を描く”を目指した作品が生まれることはすごく珍しい。その中で僕らがどんな挑戦をしているのかに注目してほしいです。物語も壮大で引き込まれるものに仕上がっていますので、是非とも年末年始を利用して観てもらえたらと思います。」


© 2023 Disney


© 2023 Disney


© 2023 Disney


【取材・文:一野大悟】

「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」
●ディズニープラス「スター」にて全8話独占配信中

スタッフ:監督…萩原健太郎/アニメーション監督…大塚隆史/脚本…藤本匡太、大江崇允、川原杏奈/原案…solo、日月舎/キャラクター原案・コンセプトアート…出水ぽすか/プロデューサー…山本晃久、伊藤整、涌田秀幸/制作プロダクション…C&I エンタテインメント/アニメーション制作…Production I.G

キャスト:中島セナ、奥平大兼、エマニエル由人、SUMIRE
     津田健次郎、武内駿輔、嶋村侑、三宅健太、福山潤、土屋神葉、潘めぐみ、宮寺智子、大塚芳忠
     田中麗奈、三浦誠己、成海璃子/新田真剣佑(友情出演)、森田剛

リンク:Disney+(ディズニープラス)

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