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日本で制作する新たな「スコット・ピルグリム」を――「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」アベル・ゴンゴラ監督インタビュー

©️2023 Universal Content Productions LLC


2023年11月にNetflixにて全8話が全世界一挙配信となったアニメ「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」。本作は実写映画化もされたカナダのコミックを原作に、原作者のブライアン・リー・オマリーによるオリジナルストーリーが描かれています。制作を務めるのは、日本のアニメーション制作会社・サイエンスSARUです。果たして制作陣は、日本スタジオと海外クリエイターの共同プロジェクトをどのように進めたのか? 今回は、そのハブを担った海外出身監督のアベル・ゴンゴラさんのインタビューをお届けします。



アベル・ゴンゴラ監督


――そもそも「スコット・ピルグリム」は、2004年から刊行されていたカナダのコミックです。2010年にはエドガー・ライト監督によって実写映画化(邦題は「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」)もされていますが、今回が初めてのアニメ化となります。アベル監督は、本作にどのような経緯で携わることになったのでしょうか。
アベル 僕が携わるより前に、弊社とNetflixの間で「スコット・ピルグリム」をアニメ化するプロジェクトが動き始めていたんです。もちろん実写版も観ていますし、エドガー・ライト監督の作品も大好きだったので、一ファンとして楽しみだなと感じていました。そうしたら、僕が「スター・ウォーズ:ビジョンズ」の「T0-B1」を作り終わったタイミングで監督のオファーがあったんです。スケジュールとしてもぴったりハマったので、お受けすることになりました。

――本作のストーリーは原作とも、実写映画版とも異なっています。いわば第三の「スコット・ピルグリム」を作ることに等しいように感じますが、この方針は元々決まっていたのですか?
アベル 僕が本作の企画をはじめて聞いた時は、原作をそのままアニメ化するだろうと思っていました。原作の発売からは時間が経っているので、そこをアップデートするアイデアもありました。実写映画版には原作の長いストーリーやたくさんの登場人物を全て再現する尺は勿論ありませんから、アニメシリーズにすれば、完璧に再現できるのは?と思いました。
でも、原作者のブライアンさんや脚本のベンデヴィッドさんはもう一度同じストーリーの映像化はやりたくない様子で、結局はオリジナルのストーリーになっていったんです。
ブライアンさんとベンデヴィッドさんから受けた提案は、ストーリーの冒頭はほぼ原作1巻目通りで、それに全く予想外な新展開があって、ラモーナが主人公になるというものでした。本当にファンを驚かせたかったのでしょうね。
僕としても、元カレたちそれぞれの過去を深掘りするのは面白いと思いました。そして、原作では描かれていなかったキャラクターや場所を、クリエティブに練る伸び代が日本側のチームに生まれました。
ファンを欺くことはないよう、原作コミックを尊重することがとても重要だと思いました。イースターエッグ(おまけ要素)として使えるように、実写映画版からもゲーム版からもアイディアを得ました。結果的に全ての「スコット・ピルグリム」を参考にはしましたが、メインはやはり原作コミックでした。


©️2023 Universal Content Productions LLC


――本編を拝見すると、かなり原作のタッチに近いルックで画が制作されています。この方針も当初からあったのでしょうか。
アベル そうですね、グラフィックでちょっと荒々しいルック、2Dならではの表現を目指しました。最近のアニメは絵がとても綺麗で、どこが3Dでどこが2Dだか分からなくなっているじゃないですか。それはすごいと思うのですが、僕はあえて真逆の方向に走ろうと思いました。キャラクターはどちらかというと原作の絵柄に近いものの、背景や色の方向性は実写映画から大きな影響を受けました。
この物語は、極々普通のキャラクターが、トロントで平凡な人生を送っているところから始まります。そんなストーリーには、リアルで映画のようなルックが欲しいと思いました。あとは、強い個性を持たせることが重要だと考えました。今後益々使われるだろう、完璧で綺麗なルックのAIとCGに対する、ある意味アンチテーゼとも言えます。

――本作の舞台は2010年頃のトロントですが、撮影チームにも、当時の雰囲気を再現したルックにするためにいろんなオーダーをされたのしょうか。
アベル 彼らは本作に欠かせないスタッフだったと思います。現代よりも少し前の世界を描きたいことと、映画のような色彩にしたかったこと、その2つを実現するために、撮影チームには他の作品よりも細かいノイズのようなフィルターを作成してもらいました。最初に上がってきたものを何度もリテイクして……。誰もやらないようなオリジナルのぼかしを追求する作業は大変だったはずなので、撮影チームにはかなり苦労をかけてしまいました。

――本作を構成する要素のひとつに、スコットたちが演奏する音楽があります。劇伴はジョゼフ・トラパネーゼさんとアメリカのロックバンド・Anamanaguchiが担当されていますが、アベル監督はどのようにやり取りされましたか?
アベル ブライアンがどちらとも友人なんですよ。なので、こちらから特段何か言うことはなく、プロデュースチームと楽曲制作を進められていました。ただ、仰る通りバンド演奏は本作の大事な要素なので、Anamanaguchiの方々には演奏シーンを録画していただきました。その映像を参考にしたり、スタジオにベースを置いて経験者に演奏してもらったりしながら、バンドシーンはリアルになるように追求していきました。

――日本語版のアフレコに監督が立ち会われたそうですね。
アベル 彼らはとてもプロフェッショナルで、リハーサル時から本番くらいの作り込みで演じてくださいました。僕は特に何を言うこともなく、彼らが作り込んできたお芝居を楽しませていただきましたね。特にラモーナ役のファイルーズあいさんは、元々実写映画版のファンだったらしいんですよ。なので、本作の物語やラモーナの髪の色について、いろいろおしゃべりしたことを覚えています。彼女のラモーナに対する愛がとても伝わってきました。

――本作はアベル監督にとって、シリーズ作品初監督となったかと思います。制作を振り返って、現在の心境はいかがですか?
アベル 撮影監督や総作画監督、各話絵コンテ・演出など、あらゆるセクションとシリーズを通しての方向性を確認していくことがとても大変でした。海外との共同制作ということもあり、僕が目指したい方向と他のスタッフがやりたい方向が一緒でないこともしばしばあったので、そこをどう擦り合わせていくのか。初めてのシリーズ作品だったこともあり、何もかもが新鮮な経験でしたね。全体像を把握しながら、チームとコミュニケーションを取ることを何よりも大事にしながら、制作期間を走り抜けました。

――その甲斐あって無事配信された「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」ですが、これからご覧になる方や再視聴される方に向けて、より作品が楽しめるようになる注目ポイントをお聞かせください。
アベル まずは作品を純粋に楽しんでいただければと思いますが、もし二周目、三周目の方がいらっしゃるのであれば、劇中に隠されたイースターエッグを探してほしいと思います。全部見つけることは至難の業ですが、ゲームやポップカルチャーのファンならやりがいを感じるポイントかもしれません。本作がオマージュしたいろんな要素から、作品をより楽しんでください!

【文・構成/太田祥暉(TARKUS)】

「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」
●Netflixにて全8話世界独占配信中

【スタッフ&キャスト】
スタッフ:監督…アベル・ゴンゴラ/キャラクターデザイン…半田修平、石山正修、西垣庄子/総作画監督…石山正修/美術監督…小谷隆之/色彩設計…橋本賢、今野成美/撮影監督…伊藤ひかり、関谷能弘/編集…柳圭介/音響監督…木村絵理子/副監督…藤倉拓也/主題歌…Anamanaguchi /音楽…Anamanaguchi 、ジョセフ・トラパニーズ/オープニング・テーマ…ネクライトーキー「bloom」/エグゼクティブプロデューサー・脚本・共同ショーランナー…ブライアン・リー・オマリー&ベンデヴィッド・グラヴィンスキー/エグゼクティブプロデューサー…マーク・プラット、ジャレッド・ルボフ、アダム・シーゲル、マイケル・バコール、エドガー・ライト、ニラ・パーク、チェ・ウニョン/アニメーションプロデューサー…崎田康平/製作…UCP, a division of Universal Studio Group/アニメーション制作…サイエンスSARU

キャスト(英語版声優):マイケル・セラ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/サティヤ・バーバー/キーラー・カルキン/クリス・エヴァンス/アナ・ケンドリック/ブリー・ラーソン/アリソン・ピル/オーブリー・プラザ/ブランドン・ラウス/ジェイソン・シュワルツマン/ジョニー・シモンズ/マーク・ウェバー/メイ・ホイットマン/エレン・ウォン

キャスト(日本語版声優):スコット・ピルグリム…下野紘/ラモーナ・フラワーズ…ファイル―ズあい/ギデオン・グレイヴズ…関智一/マシュー・パテル…斉藤慎二/エンヴィー・アダムズ…花澤香菜/ルーカス・リー…中村悠一/トッド・イングラム…羽多野渉/ロキシー・リヒター…大空直美/ケン・カタヤナギ…武内駿輔/カイル・カタヤナギ…武内駿輔/ナイブス・チャウ…古賀葵/ウォレス・ウェルズ…福西勝也/ヤング・ニール…川崎勇人/キム・パイン…村中知/スティーヴン・スティルス…勝杏里/ジュリー・パワーズ…小林ゆう/ステイシー・ピルグリム…松岡美里/アナウンサー…マーク・大喜多

リンク:「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」

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