スタッフ

細田守監督作品をいろどった楽曲の新たな側面を発見する「スタジオ地図 Music Journey」第二弾発売記念、高木正勝インタビュー

高木正勝さん


細田守監督作「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」「未来のミライ」の音楽を担当し、瑞々しい作品世界を奏でた高木正勝さん。その3作品の劇中を彩った旋律をもとに、5人の女性ヴォーカリストが新たに詞を描きおろし歌う、宝物を集めた小箱のようなソングブック「スタジオ地図 Music Journey Vol. 2 − 高木 正勝 うたの時間」がリリースされました。5月の大阪、横浜のライブ直前の高木さんにアルバム制作にまつわる想いをうかがいました。



もしかしたら「うた」になるはずだったあの曲たちを

──細田監督作品の映画音楽を「うた」にしてまとめられた今アルバム。「13年越しの夢」だったとのことですが、その想いはどんなものだったのでしょう?
高木 「おおかみこどもの雨と雪」ではじめて細田監督作品に参加しましたが、たくさんの人に観られる夏のアニメーション映画ということで、どうやって作ったらいいのか分からないスタートでした。それまでジブリ映画で久石(譲)さんがやられてきたことを思い浮かべて、あれを自分が? みたいなことを考えたりもして。
絵コンテを読みながら曲を作っていったのですが、特に「おおかみこども」の頃は細田さんの中でもどんな映画になるのか余白がたくさんあって、まずは自由に、みたいな漠然としたものだったので、読書感想文を提出する気持ちでとりかかりました。僕たちは、スケッチ(デモ)と呼んでいましたが、場面を思い浮かべながらピアノを弾いていると、なぜか歌いたくなって、それぞれの曲に何かしら歌やハミングをのせていましたね。

──当時から「うた」の原石はあったのですね。
高木 何曲も細田さんに提出するので、採用されなかったものは、いつか自分でちゃんと歌にしようかな、とか、そんなことも頭によぎったりするくらい、サウンドトラックというより歌の曲を作っている感覚でした。でも、提出してみたら、どんどん採用してくださって、ものによっては僕の声が入ったままの音源を使ってくださって(映画冒頭のトラック「産声」や「陽だまりの守唄」)。デモがそのまま使われるというのは珍しいと思うのですが、嬉しかったですね。他の曲は、場面に合わせてオーケストラを使ってどんどん豊かにする方向で進んでいきました。とてもいい映画音楽になったと満足していたのですが、いざ完成してみると、あれ、あの曲は「うた」になるはずだったのにな……? という寂しさも生まれて。

──予感のまま飛びたっていってしまったというか。
高木 そうなんです。それは「バケモノの子」や「未来のミライ」のときにも感じていました。でも、そんなふうに歌になる可能性を感じるような音楽だったから、いろんな人にサウンドトラックを好きになってもらえたのかも、と考えて心を落ちつけたりしながら。ただ、ちょっと決定的になったのが「未来のミライ」で作った「Marginalia Song」というトラックでして。今回のアルバムでは、角銅真実さんに歌っていただいて「朝には星を辿って」という曲になりましたが、デモのときから完全に歌ものだったんです。ピアノを弾きながら気持ちよく歌って、自分でもすごく気に入っていたスケッチだったんですね。ただ、サウンドトラックとして採用されたのは長い曲のお尻につけた他の音を出すならこんな感じっていう遊びの部分だけで……。そのままお蔵入りになるのはあまりにも心残りで、そこで、ちゃんとレコーディングして形にしたいという想いをあらためて強く抱いたという感じでした。



細田監督作品が、くるっとひとつに結ばれたような感覚

──そこから、女性ヴォーカリストを迎えて、彼女たちに詞を書き下ろしてもらって、というコンセプトへはどのようにたどり着いたのでしょう?
高木
 いつか歌にしたいなと思っていたので、もちろん自分で歌詞を書き出してみようとしたことが何度もありました。でも、いざ書こうとすると止まってしまう。どうしても映画のイメージに引っ張られて、そこから離れた言葉を自分でつけるのは難しかったんですね。誰に歌ってもらおうかというのも、あれこれ考えていたのですがコロナ禍に入ってから一度ストップして。それから再開したタイミングで、ソニーミュージックの小山(哲史)さんからクレモンティーヌさんはどうだろうって案をもらって。歌詞も含めてお願いしたところから具体的に動きだしました。
そのクレモンティーヌさんとのレコーディングがすごくよい感じで進んだので、このやり方でいけるんじゃないかということになり。そこでようやく、今のフォーマットが固まりました。歌詞と歌と、編曲もお願いできるようだったらお願いしよう、と。僕は一応ピアノで参加することになるけど、それすらあやふやでいいので、一旦全部おまかせして、鳴らしたい楽器を鳴らして、やりたいことをやっていただけたらいいなって。このメロディーを使って、歌いたいと思う形にして、歌ってください、というなんだか無茶なオーダーですけど、素晴らしいみなさんに参加していただけました。

──映画音楽として連なっていたトラックが、個々の「うた」として豊かにふくらんで広がったアルバムですね。でも、その一方で、細田監督作品群としての大きなうねりも感じられて、あらためて映画の本質に触れられたような感覚にもなりました。
高木 そうなんですよね。僕は完成してからずっと聴いてるんですけど、なんだかこっちがサントラだったんじゃないかみたいに聞こえてきます。細田さんの作品は、映画の印象が一作ごとに違いますし、予想してなかった方向に変わったなと感じた人もいると思うんです。でも、こうしてあらためて触れると、あれ、もしかして細田さんはずっと同じことを描いていたのかもしれない、と気づく。どんどん違う世界に進んでいった気がしていた細田さんの作品が、不思議なことにくるっとひとつに結ばれたような、そんな感触がありました。

──アニメ、実写問わず、高木さんの映像への音のつけ方は、まるで光や風そのもののように流れてきて、場面に対して説明的ではないところが素敵だと感じるのですが、そのトラックにあらためて言葉をつけて「うた」として結実させたことは、 高木さんにとってはどんなクリエイティブになりましたか?
高木 サウンドトラックを作るとき、一番気をつけているのが二重表現にならないようにということなんです。映画って音楽も含めてひとつの作品ですけれど、でも、映像だけ見てもセリフだけ聞いていてもすごく面白くて、いろんな意味にとれるんですよ。なので、映像に描かれていることとまったく同じことを音楽でもやってしまうと、逃げ場がないというか……。

──意味が固定されすぎてしまう。
高木 はい。それを求める監督さんもいらっしゃいますし、それにきちんと応じられる作曲家もいらっしゃるんですけど、僕の場合はなんとかそこをズラしたい気持ちがある。もうひとつ脚本を書いていくイメージというか、少し別のレイヤーで描いていきたいんですね。
例えば「おおかみこども」だと、大学生の花がオオカミ男と出会うところからはじまる物語なのですが、僕はそこに〝お母さん〟の視線を感じたんです。たくさんの〝お母さん〟が花をずっと見守っていて、新しい命が生まれてくるのもずっと見守っていて……と。 そういう神話みたいな目線を空や風に託すような気持ちで作っていったのが「おおかみこども」のサウンドトラックだったのです。
「バケモノの子」も渋谷の真ん中で繰り広げられるバトルものという側面がありますけど、喧嘩とか討ち合いというよりは祭の神輿のぶつかり合いにように感じられて。 だから、あくまで神事の延長と捉えて、お祭りの曲なんだという作り方をしました。もちろんこれらは僕の勝手な解釈で、いちいち細田さんは説明してくれないですし、 聞いてもぜんぜん教えてくれないんですけど(笑)。
そんなふうに作っているので、自分で詞をつけるとなると、どうしてもその自分の見つけた視点に沿った言葉になってしまうんです。なので今回、みなさんに歌詞を書いていただけて、すごく嬉しかったんですね。
一応、説明しすぎない程度には自分がどんなことを考えて作ったかということもお伝えしたんですけど、例えば寺尾沙穂さんに歌っていただいた「たねめみ」は、映画ではジャガイモを収穫するシーンの曲ですが、作ってるときにはなぜか銀河鉄道みたいな汽車が走っているのを母と子が見ているイメージがあったんですね。それを寺尾さんに話したら、ピンときてくださって。寺尾さんの中でイメージが混ざりあって、今話したような景色も浮かぶし、さらに個人の背景も感じられる彼女にしか書けない「うた」になりました。
また、「朝には星を辿って」では、最初に角銅さんと、小さな男の子が星空の下を旅をしているイメージなんだけどという話をしていたのですが、 詞では命が生まれる前の景色を綴ってくれて。最後歌が終わるときに生まれてくるという、すごい歌詞なのですが、ああ、「未来のミライ」もそういう物語だよな、とあらためて気づかされました。
みなさんそれぞれ、当時の僕と同じ作業をしてくれたというか、自分の解釈で映画や楽曲に潜って自分の話として描きだしてくれた。僕からは細かい注文はしてないのに、僕が一番望んでいた「うた」になって帰ってきた、そんなすてきな制作になりました。

──5月17日の大阪、5月31日の横浜でのライブのあとはフランスでの特別公演に向かわれるとのこと。世界中の映画、音楽ファンのみなさんへ細田監督作品の世界観や高木さんの音楽をあらためてお届けできる機会が続きますね。
高木 海外の人も含めて、細田さんの作品のことを話すときって、みなさんなんだか自分事みたいに話す感じがするんですね。自分にはこういう経験があって、だから自分はこういう見方をした、というように。物語をそのまま受け取るだけじゃなく、映画で感じたことと個人的な経験を結びつけて語る人が多い気がしていて。
そういう意味では、今回のアルバムも最後までその視点で作り切れたなと感じています。一番最初に映画のこのシーンを見たときに、あのときの僕はこんなこと思ったな、とか記憶が呼び起こされるというか。そういうところを丁寧にたぐり寄せられた感覚がありました。作った本人としては、ちょっとデモテープを披露してるみたいな気分でもあって、アニメで言ったらコンテというか、作ってる最中に思ったことが全部詰まってるみたいな。それでいてヴォーカリストのみなさんの「うた」によってもっと深めていただけて、本当に素敵なアルバムになりました。


©2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会


【取材・文:ワダヒトミ、写真:奥西淳二】

スタジオ地図 Music Journey Vol. 2
高木 正勝 うたの時間
CD発売中、LP10月1日発売
CD:SICL-30070/3,300円(税込)※ BSCD2の高品質CDでのリリース。
LP:SIJP-1162/4,950円(税込)
参加アーティスト:クレモンティーヌ、アン・サリー、寺尾紗穂、角銅真実、Hana Hope
公式サイト:https://www.sonymusic.co.jp/artist/takagimasakatsu/info/572176


【収録曲】
01 きときと with Hana Hope
02 Tanana with クレモンティーヌ
03 たねめみ with 寺尾紗穂
04 ほしぼしのはら with アン・サリー
05 朝には星を辿って with 角銅真実
06 まだ生まれてもいない大地から with 寺尾紗穂
07 少年と獣 with クレモンティーヌ
08 風は飛んだ with アン・サリー
09 おかあさんの唄 with Hana Hope
10 Rainy Steps with 寺尾紗穂
11 コスモス with クレモンティーヌ
12 雨上がりの家 with アン・サリー
13 祝祭 with 角銅真実

スタジオ地図 Music Journey in Paris
スタジオ地図の音楽プロジェクトとして、高木正勝がフランスで特別公演を2公演開催。

▼開催予定
①2025/06/12(木)20:00開演
会場 : Centre Culturel Charlie Chaplin(フランス・ヴォー=アン=ヴラン/リヨン近郊)
公式サイト : https://www.centrecharliechaplin.com/
住所 : Place de la Nation, 69120 Vaulx-en-Velin FRANCE

②2025/06/14(土)15:00開演
会場 : パリ日本文化会館 Maison de la culture du Japon à Paris(フランス・パリ)
公式サイト : https://www.mcjp.fr/
住所 : 101 bis, quai Jacques Chirac, 75015 Paris FRANCE
公演リンク :
日本語
https://www.mcjp.fr/ja/la-mcjp/actualites/studio-chizu-ja
フランス語
https://www.mcjp.fr/fr/la-mcjp/actualites/studio-chizu

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