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TVアニメ「永久のユウグレ」監督・シリーズ構成 津田尚克 インタビュー――「生活しているときに思い出してもらえる作品に」

©Project FT/永久のユウグレ製作委員会・MBS


終わりゆく世界で人々は生きていく理由を探していく。オリジナルアニメ「永久のユウグレ」がいよいよクライマックスを迎えようとしています。姫神アキラは200年後の未来の世界で本当の愛を見つけられるのでしょうか。本作を手がける、津田尚克監督(シリーズ構成も兼任)にこの200年後の未来世界について語っていただきました。

200年後の変わりゆく未来を描くために

――発売中の月刊ニュータイプ1月号ではオリジナルアニメのテーマやクリエイティブについてお話をしていただいていますが、WebNewtypeでは作品の世界観についてうかがっていきたいと思います。まず、そもそも「永久のユウグレ」の初期タイトルは「終末結婚〜ディストピアマリッジ〜」だったそうですね。舞台は終末世界を想定されていたんですか?
津田 そうなんです。「結婚」が題材なので、作品の舞台を現実にすると生々しくなって、見ている人がつらくなってしまうかもしれない。そこで未来の地球に舞台を置き換えたんです。僕は、ディストピアやポストアポカリプスの舞台装置が好きで、AIにも関心があって。そこでAI戦争が起きた200年後の未来を世界観に設定したのですが、そこはちょっと個人的な趣味が出すぎてしまったかなという思いがありますね。


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――200年後の未来は、OWELという組織が管理している世界になっています。
津田 いろいろなポストアポカリプス世界を考えたのですが、終末世界ものは復興していない世界を描く作品が多いんですよね。でも、終末世界であろうと人間がいる以上はきっと復興しようと考えるだろうなと。日本も第二次世界大戦から80年でこれだけ大きな都市をつくるようになったわけで。200年あったら、きっとそれなりに都市もできていくだろうと考えて、今の世界観ができ上がっていきました。


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――「朝をこころに、一、二と数えよ」「星の海に魂の帆をかけた女」「アンドロイドは電気鳩の夢に浸かるか」「終末の果てで愛を叫んだきかい」。各話のサブタイトルはSF小説のタイトルをもじったものですよね。あれは監督が決めていらっしゃるんですか?
津田 そうですね。この作品のSF面に興味をおもちになって見てくださる方もいると思うのですが、この作品はあくまでラブストーリーなんですよ。あくまでアキラたちのラブストーリーに焦点を合わせていて、SF的なところは正面から描いていないんです。本当のSFならば世界を管理しているOWELと向かい合うような展開にしてもいいと思うのですが、そうなると後4~5話必要になるので、今回はその部分を描いていないんです。


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――ラブストーリーが主軸にあるというと、200年後の未来の世界観は寓話的な意味合いが強いのでしょうか?
津田 いや、寓話的なところは実はあまりなくて。僕は1+1は2であってほしいし、(論理的に)納得できないと前に進めないタイプなので、世界観はそれなりにつくり込んでいます。それもあって第10話のような過去のAI戦争を説明するエピソードを入れることにしました。

――200年前に王真樹トワサの対話AIが、人間に戦争を起こすというエピソードですね。
津田 AIが人間を凌駕する時代がもうすぐくるといわれていますが、凌駕した瞬間は何も起きないんですよ。人間が便利になるだけ。でも、AIがパーソナリティ(人格)をもって何かに固執した瞬間に、人間の思惑とは違う動きを始めるんだろうなと。ただ、AIがパーソナリティをもつという意味ではもうすでに始まっているような気が実はしています。Geminiに人格を設定できたり、ChatGPTと会話をしていると集合無意識の先に自我が芽生えるかもなと感じるときがある。今回はそれをAI「テラ」と称して、トワサが育てたパーソナルAIが発展した形に設定しました。


©Project FT/永久のユウグレ製作委員会・MBS


――語られていない世界観の設定などもあるということですか?
津田 そうですね。お話の整合性を取るために必要な裏設定はいろいろありますね。たとえば本作で美術を担当してくださった草薙さんは、オリジナル作品をつくり慣れているので、オリジナルの美術の考え方を最初からおもちなんですよ。今回はかなりそこに頼って考えていきました。

――草薙さんはアニメやゲームの背景を専門とされている美術会社。たくさんのオリジナルアニメにかかわっていらっしゃいますね。
津田 そうなんです。「こういう方向性をめざしたいんだ」とお伝えすると、草薙の社長の須江(信人)さんから「こういうやり方とこういうやり方がありますよ」と提案してくださるんです。そこから設定を詰めていくことができました。たとえば、200年後の未来の建物はユニット住宅ということ。これは「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(須江は技術デザインを担当)のときにやっていた手法だそうです。AI戦争で荒廃した土地をOWELが復活させるならば、まずユニット住宅を人類に提供するだろうなと。それを基礎にして、人間たちが200年かけて自分たちの文化を根づかせてきた。そのことでおもしろい風景ができたのではないかと考えていきました。


©Project FT/永久のユウグレ製作委員会・MBS


――劇中でアキラたちは200年後の未来を北海道から東京へと向かいます。その旅のなかで未来のいろいろな街や都市を見ていくことになりますね。
津田 最初に、OWELの本部から離れれば離れるほど文明レベルが下がっていくということを決めていたんです。僕はYouTubeで地政学の番組を見るのが好きで、そのなかで明治時代の日本では西洋文明が末端まで届かなかったという話があったんです。文明開化の時代に、東京と田舎では生活レベルが数十年程の差があったそうなんですね。インフラが整わないかぎりは文化が広がらない。むりやり文化を広げるには侵略しなきゃいけないという話なんです。でも、OWELの「電子技術を禁止して、平和的に文明を広げる」というやり方だと相当な時間が必要なわけです。そういう200年後の未来の文化レベルの違いをアキラが北海道から東京まで旅をすることで描けたらということを表現したいと思ったんです。

――それでロードムービーのように、いくつもの多彩な都市をめぐる展開になったんですね。
津田 アニメとしての嘘をついているのは、廃墟が多いことですね。おそらく戦争から200年が経った世界には、廃墟があんなに残っていないはずなんです。未来感を抱いてもらうために、嘘を混ぜた画づくりにしています。あと、OWELの組織の階級や、人類をどのように管理しているか、といった情報は本編でははっきりと描いていません。アキラの意識は現代から200年後の世界にきているので、200年後の社会システムや政治形態はすぐにわからない。作品としては過去の謎に目を向けるようにして、そちらが気にならないように描いています。


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――先ほどラブストーリーというお話がありましたが、この未来世界でのラブストーリーをどのように楽しんでほしいと思っていますか?
津田 見終わった後に「おもしろかった」と思ってもらえればそれで充分ありがたいです。でも、そこに何かが残るといいなという気持ちもあるんです。生活しているときに「これって『永久のユウグレ』で描いていたやつだな」と思い出してもらえる作品になっていたらうれしいです。


©Project FT/永久のユウグレ製作委員会・MBS


【取材・文:志田英邦】

■TVアニメ「永久のユウグレ」
●MBS/TBS系28局「スーパーアニメイズム TURBO」枠…毎週木曜 24時26分~放送中

キャスト:姫神アキラ=梅田修一朗 ユウグレ=石川由依 王真樹トワサ=茅野愛衣 アモル=富田美憂 ヨイヤミ=沢城みゆき ハクボ=楠木ともり オボロ=森川智之 ヨクラータ=阿座上洋平 ほか

スタッフ:原作=Project FT 監督・シリーズ構成=津田尚克 キャラクター原案=タヤマ碧 キャラクターデザイン=齊藤佳子 サブキャラクターデザイン=GONTA 美術デザイン=宮岡真弓、多田周平 メインアニメーター=鍋田香代子 総作画監督=齊藤佳子、長田好弘、さとう沙名栄 色彩設計=佐々木梓 美術監督=浅井唯奈、田辺浩子 2Dworks=向井吉秀 3D監督=市川元成 撮影監督=児玉純也 編集=髙橋歩 音楽=得田真裕 音響監督=吉田光平 録音=安齋歩 音響効果=小山恭正 音響制作=dugout アニメーション制作=P.A.WORKS

リンク:TVアニメ「永久のユウグレ」公式サイト
    TVアニメ「永久のユウグレ」公式X(Twitter)・@towanoyuugure

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