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【前編】「小劇場」だからこそ生まれるシナジーを。舞台「THE MONEY」寿つかさ×七海ひろき対談

(左)寿つかさ、七海ひろき(右)


声優、俳優、アーティストとして活躍する七海ひろきさんが、小劇場での公演をプロデュースすべく立ち上げた「QQカンパニー」。その旗揚げ作品となる、舞台「THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-」は、七海さんも在籍した宝塚歌劇団・宙組の組長として慕われながら、数多の作品で笑いと涙を司る名バイプレイヤーとして活躍した寿つかささんを主演に、芝居を愛する5人の仲間たちが繰り広げるミステリーシットコム(シチュエーション・コメディ)です。新たなる挑戦にかける七海さんの思いとは? 今年6月に劇団を卒業したばかりの寿さんは、それをどのように受け止めたのか……? 対談前編では、個性豊かな登場人物たちに彩られた物語に臨む思いを伺いました。


本作のプロデューサーを務める七海ひろき


――最初に、七海さんが小劇場公演をプロデュースするに至った経緯からお聞かせください。
七海 以前から、「芝居とストーリーだけで楽しんでもらえるような作品を、マイクを使わずに届けられる小劇場でやってみたい」という思いがありました。そして、いざやろうと決意しても、何をどうやってつくっていけばいいんだろうと悩んでいたときに、私が出演させてもらったドラマ「合コンに行ったら女がいなかった話」の脚本を書かれていた保木本真也さんが、もともとシチュエーション・コメディを手掛けていたと伺い、その作品を見て「まさに、こういうものをやってみたいんです!」と相談したのが今作のはじまりです。

――なぜ、コメディ作品を求められたのですか?
七海 コメディ作品に出演した経験も少なく、そんなに人を笑わせられるタイプでもないのですが、役者が必死に役として生きることでおもしろさが生まれるようなシチュエーション・コメディだったら、ご覧いただいた方に楽しんでもらえると思ったんです。当初は、既存の作品をやらせてもらえればと考えていましたが、ありがたいことに保木本さんが「オリジナルで書きます」と提案してくれました。

――今年6月に宝塚歌劇団を卒業したばかりの寿さんを主演に、七海さんが在籍されていた宙組OGの皆さんが出演されることでも話題を呼んでいます。
七海 お芝居が好きでシチュエーション・コメディに合うキャスティングを私なりに考えました。いっしょにお芝居をしたいという点も重視して。また、これまで大きな舞台で演じてきた人が小劇場でどうなっていくのか、というのにも興味がありました。そして、一番最初に浮かんだのがすっしぃさん(寿)でした。私は下級生の頃から、すっしぃさんが本当に一つ一つの役を大切に演じている姿を見てきて、ずっと「すっしぃさんのお芝居をもっと見たいな」と思っていたんです。今回のキャストは、一人ひとりに直接オファーしたのですが、すっしぃさんに一番最初に連絡をしました。


本作の主演を務める寿つかさ


寿 かいちゃん(七海)からお話を聞いたときは、本当にビックリしました。私は2008年から宙組組長を務めており、まさか人生で「主演」という立場をもらうなんて夢にも思わなかったんです。正直、自信がもてませんでした。それに、卒業後は「しばらくいろんなことを感じながら、やりたいことを見つけていこう」と、わりとのんびり考えていたところもあり、なかなかすぐには答えが出せなかったんです。
七海 「今回は難しくても、またいつかごいっしょできたら……」と言いつつも、心の中では「どうか、どうかお願いします!」と願っていました(笑)。なので、引き受けてもらったときは、本当にうれしかったです。
寿 私自身もストレートプレイやシチュエーション・コメディにあこがれていたというのが大きいのですが、かいちゃんの新しい挑戦にかける熱や、こちらの状況も理解してくれるやさしさにも動かされましたね。そんな「北風と太陽」のような(笑)プロデューサーの懐にすっぽり入って、私も挑戦しようと決意しました。
七海 私も公演を見に行って、お客様が「やっぱり、すっしぃさんはすごいな~」と話しながら帰るのをよく耳にしていました。本当に、すっしぃさんにしかできないお芝居がありますよね。
寿 ありがとう。私は男役としては声が高かったこともあり、芝居にも自信がもてず、先生方や共演者の方たちに導かれるまま必死にやってきたのですが、そうした姿が役としてのおもしろさにもつながるのか、作品のスパイス的な役どころをいただいてきたのが大きかったのだと思います。そういう意味では「寿つかさを主演に!?」という意表を突くキャスティングにも、かいちゃんの敏腕プロデューサーぶりを感じます。
七海 そんなことはないです(笑)。星組に組替えすることになる前、宙組時代最後に共演した「TOP HAT」で、すっしぃさんが寝ている私の顔にポイッとお肉を乗っける場面があったのですが、初日の大爆笑が忘れられません。あれは、すっしぃさんだからこそ生まれた空気でした。
寿 かいちゃんのフリがあってこそ。でも、私も毎公演楽しかったシーンなのでうれしいです。


(左)寿つかさ、七海ひろき(右)


――今作の台本を読んで、ご自身の役柄をどのように受け止められましたか?
七海 実は本作の台本は、あてがきになっています。キービジュアル撮影時に、保木本さんがみんなと談話して感じたことをそれぞれの役に活かしてくれているんです。
寿 私は「失踪した夫を探している主婦」のミツキを演じるのですが、自分の口癖のようなものがセリフに入っていて驚きました。保木本さんとは初めてお会いするので、多少なりとも自分をよく見せようと緊張していたと思うのですが……無意識のうちに出ていたのでしょうか? ミツキの行動も「自分がこういう場面に遭遇したらこうなるだろうな」と通じる部分が、たしかにありましたね。
七海 ミツキがみんなに振り回されて右往左往しているところが、いつも一人ひとりの話を聞いて親身に何とかしようとしているすっしぃさんの姿と重なって、保木本さんはすごいなと思いました。すっしぃさんのチャーミングなところが垣間見えるし、きっと、みなさんもミツキのことが好きになっちゃうと思います。
寿 そのことばで頑張れます。
七海 アオイは、ミツキに5000万円の山分けをもちかける「怪しい謎の女」ですが、登場人物が増えてくるなかで思うようにならず四苦八苦します。
寿 かいちゃんのアオイも、たまらないおもしろさがあります。在団中、私が慌てているときに、横で冷静に助言してくれていたことを思い出しました。
七海 本当ですか(笑)!? 私は、これまで「ボケかツッコミか」と聞かれたときに「ツッコミではないので、どちらかというならボケでしょうか」と答えていたのですが、保木本さんに「七海さんは、ボケでもツッコミでもないですね」と言われ、自分自身に新しい発見がありました。
寿 人の個性って自分ではなかなかわからなくて、おもしろいですよね。私は劇団を卒業して以来、ただ電車に乗るだけでも、お芝居に出てくるキャラクター以上におもしろい人たちと出会えることに驚いているんです。特にここ数年は、コロナ禍で、人と会ったり、にぎやかな場所へ行くことを控えていたこともありましたからね。もちろん映像から学ぶこともありますが、舞台が日常を表現するものであるなら、やはりお手本は日常にあるのだと痛感しました。正直、在団中に出会って、自分のお芝居に反映したかったです。本当に、外に出てみたら……すごかったんです(笑)。
七海 いったいどんな出会いがあったのか、気になります(笑)。でも、外に出てみたらすごかった体験はすごくよくわかります。私も同じことを退団したときに思いました。でも、逆に言えば、自分が傍からそう見えている可能性もあるんですよね。
寿 そうそう。みんな、ただ真剣に生きてるだけなんですよ。


――あてがきの要素があるということで、他の登場人物たちへの期待も高まります。
七海 緒月遠麻さん演じる「洋館の主人」マリは、一言発するだけで「マリさんだなあ」と感じる説得力がありました。本当におもしろくて。
寿 私も本読み(台本を声に出して読むけいこ)のときから、笑わせてもらいました。非常にキタさん(緒月)らしいというか、卒業して9年女優として生きてきて、さらに磨きのかかった個性がありました。
七海 伶美うららさんは、退団後も何度かごいっしょしていて毎回違う役作りで驚かされていました。今回演じる「刑事」のサエも彼女にしか出せない魅力があると思います。
寿 伶美さんの武器が大いに活かされる役です。
七海 澄風なぎさんは、出演している作品を見て「すごくお芝居が好きなんだろうな、これからいろんな役をやっていくんだろうな」と注目していたので、今回いっしょにお芝居をできることがとても楽しみです。「フード配達員」のウオは……とにかくかわいい!
寿 なぎちゃん自身は非常にまじめで品のある子なので、逆に、やんちゃな感じの役柄を演じるというところがおもしろいなと思いました。そんなふうに役者を知っているからこそのおもしろさもありながら、私たちのことを知らない方がご覧になって、どう感じてくださるのかというところも楽しみです。
七海 近い距離で全景が見やすいのも小劇場の魅力なので、本当に一人ひとりに注目していただけたらいいなと思います。


【取材・文:キツカワトモ/写真:田上富実子】


舞台「THE MONEY –薪巻満奇のソウサク–」

★8月27日(日)東京千穐楽、9月3日(日)大阪千穐楽は配信チケット販売中
「Rakuten TV」にて配信予定
チケット詳細はこちら

【東京公演】
公演中~2023年8月27日(日)
会場:CBGKシブゲキ!!
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 ザ・プライム6階

【大阪公演】
2023年8月30日(水)~9月3日(日)
会場:心斎橋PARCO14F SPACE14
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目8-3 14F

プロデュース:七海ひろき
脚本・演出:保木本真也
企画:QQカンパニー
出演:寿つかさ、緒月遠麻、伶美うらら、澄風なぎ、七海ひろき

リンク:舞台「THE MONEY」公式WEBSITE

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