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【後編】あの頃から、変わるもの、変わらないもの。舞台「THE MONEY」寿つかさ×七海ひろき対談

(左)寿つかさ、七海ひろき(右)


声優、俳優、アーティストとして活躍する七海ひろきさんが、ひとりのプレイヤーとしてのみならずプロデューサーとして携わる、ミステリーシットコム(シチュエーション・コメディ)「THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-」は、主演の寿つかささんをはじめ、華やかな舞台で活躍してきた5人の元タカラジェンヌたちが挑む小劇場公演とあって発表から大きな話題を呼んでいます。七海さんと寿さんが振り返る、宝塚時代。そして、お2人が変わることなく〝探し続けているもの〟とは……? 公演への期待がいっそう高まる、対談後編をお届けします。


(左)寿つかさ、七海ひろき(右)


――みなさんがそろってビジュアル撮影をされたそうですが、印象に残ったことはありますか?
七海 急ピッチで進んだので、最初はキービジュアルもイラストにしようと考えていたのですが「せっかく奇跡のように集まったメンバーだし……」と打診してみたら、これまた奇跡的に全員で撮影できることができて……うれしかったです。同時に、「私だからできるプロデュースってなんだろう」と考えていて。一番最初に顔を合わせる撮影時に、何かおもしろい仕掛けをつくりたく、「THE MONEY」というタイトルを伝えて、そこから連想する衣装を各自用意してもらったんです。この日は、脚本演出の保木本さんとの顔合わせもあったので、みんなの個性を知ってもらうのにいい機会かなとも思っていました。情報共有は一切禁止で用意したのですが、不思議と各自もってきた衣装に統一感があって「やっぱり、同じ釜の飯を食った私たちだなあ」とニヤニヤしてしまいました。すっしぃさん(寿)は、素敵なタイ付きのシャツを着ていて、とてもかっこよかったです。
寿 フォーマルなタキシードっぽくもあるけど、実際はベストでカジュアルというヌケ感を意識してみました。「THE MONEY」ということでゴールドをイメージして、ブラウスには鋲のような金色のビスがついています。日本人の役で、お金もお札でしたけどね(笑)。
七海 私は、そんなおしゃれな理由が語れないのですが、切り替えのあるシャツに少し雰囲気のあるジャケットを選びました。すっしいさんは在団中から本当におしゃれで、組子の自慢だったんです。パーティに行くと「うちの組長がおしゃれでかっこいい」と(笑)。
寿 そうやって、もち上げてくれるんです(笑)。たしかにファッションには興味があり、これまではTPOを心がけてきましたが、本当は少し奇抜なファッションも好きなので、年齢を重ねるたびにいろいろなものに挑戦していきたいなと思っています。90歳になっても、短パンにカラータイツとか。
七海 絶対、かっこいいです!
寿 それも、人生においてすばらしい先輩方を見てきた影響ですね。
七海 撮影の日のことで言うと、スタッフさんがわざわざスタジオの1階と2階に鏡を用意してくれていたにも関わらず、5人で団子になって1つの鏡を使っていたのはおもしろかったです。
寿 スタッフさんに指摘されるまで、それがおかしいとも思わなかったんです。ついつい、いっしょだったころの習性が出てしまいました。
七海 宝塚の早変わり室状態でしたね。実は、私はそのことに気づいていたのですが、みんなといっしょにいたい気持ちが勝っちゃったんです(笑)。


(左)寿つかさ、七海ひろき(右)


――そんな在団中のことも自然と思い出されるようなメンバーの再集結ということで、当時を振り返ってのお話も伺えればと思います。七海さんを下級生の頃から知る寿さんから見て「プロデューサー・七海ひろき」は納得ですか? それとも意外でしょうか?
寿 納得ですね。下級生の頃はスキルがなかったり、何から手をつけていいのかわからないものですが、かいちゃん(七海)はひとつずつていねいに取り組んでいき、やるべきことを飛ばさないんです。大勢口から役名がついたときも、新人公演主演のときも、初主演のときも、スターさんとしての道を歩いていっているときも、ずっとそう。挑戦する対象はどんどん広がっていきましたが、芯にあるものは変わりませんでしたね。もしそれが外側だけのものなら、もろく崩れてしまっていたはずです。おけいこ場では人より時間がかかるところもありますが、本番の舞台で演じるかいちゃんには、毎回、いい意味で裏切られてきました。そうしてていねいにつくり上げた役がスポンと降りてきて、そこに生きているかのようなんです。小石を積みながら、積みながら、ときに大きな石をボンと一つ置いて。そういう大胆さとていねいなディテールが、今のかいちゃんをつくっているのだと思います。
七海 ありがとうございます。むしろ、飛ばしたくても飛ばせないんです(笑)。今だから思うのですが、研1や研2のときなんて、よく見捨てずにいろんなことを教えてくださったなと思います。できる子は何でもすぐパッとできるんですよ。そのときできることを少しずつやるしかなかった私のことを、すっしぃさんがそんなふうに見ていてくれたのだと思うとうれしいです。
寿 私こそ、いつもかいちゃんに頼って助けてもらっていましたよ。
七海 それは、大運動会のときくらいです(笑)。
寿 大事な行事ですからね(笑)。
七海 強いて言うなら、きっと「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」のときの印象だと思います。とにかく原作が大好きだったので、そのときばかりはテキパキしていたんです。
寿 そうそう(笑)。みんなを引っ張ってくれていました。でも、もっと折々で芸事においても相談に乗ってもらっていましたよ。自分の役の解釈に自信が持てないときは、よくかいちゃんに聞いて、明確なことばをもらっていました。
七海 たしかに、いっしょに相談しながらつくることがすごくうれしかったという思い出はあります。あと、今、急に思い出したのですが、私が奥二重でまつげがつけられなくて困っていた時もいっしょに対策を考えてくれましたよね。
寿 私も奥二重で大変だったので、できるだけのことは伝授したかったんです。宝塚のメイクって、パーツの配置がいい方が映えるんですね。かいちゃんは非常にパーツがいいので、そこをもうちょっと活かせるはずだと思っていました。
七海 どうにか自信をもたせようと、そういうことを根気強く言ってくれて。


(左)寿つかさ、七海ひろき(右)


――そうした年月のなかで、お2人にとって「芝居」とはどのようなものだったのでしょうか?
寿 私はもともと体を動かして表現することが好きで、お芝居に対しては苦手意識をもっていました。でも、苦手だったからこそ、別の自分になって生きられたときの喜びも大きく、それが結果的に34年間劇団に在籍したことにも繋がっているのかなと思います。
七海 その喜びの原点となった瞬間のことは覚えていらっしゃいますか?
寿 「この恋は雲の涯まで」の新人公演です。本当に手も足も出ないところから、集中して、役として生きられた瞬間があり、評価していただけたことで、ひとつ、壁を打ち破れたんです。決して、調子に乗れるレベルではなかったのですが、そもそもこの世界に「これで完璧」というものもありませんからね。終わりがありません。
七海 私は、すっしぃさんとは逆に、物心がついた頃から芝居が好きで、歌や体を動かすダンスが苦手でした。ただ、だからといって芝居ができると思ったこともなく、毎公演「今できるベスト」をめざしては反省を繰り返し、気づけば千秋楽という年月だったなと思います。そんな私の芝居を好きだと言ってくれる方たちのことばが、本当にありがたかったです。
寿 そんなかいちゃんのルーツになった出来事もある?
七海 それこそ、バウホール劇場で行われた「Le Petit Jardin」で初めて名前のある役を演じたとき、すっしぃさんに「自分のセリフのことばかり考えず、もっと他の人がしゃべっているときの動きを大事にした方がいいよ」とアドバイスしてもらったことです。今回の作品はワンシチュエーションで繰り広げられることもあって、身を引き締めなければと思います。すっしぃさんもおっしゃっていましたが、私にとっても芝居とは終わりのないものです。
寿 これからも探し続けていくものですよね。私も、こうしてまた挑戦できることがうれしいです。

――ストーリーにちなんで、おふたりが「探しているもの」について伺おうとしていたのですが、先にお答えが出てしまったようです。
寿 まさに「芝居とは」ですね。34年やってきて、この期におよんでまだ言うかというところですが(笑)
七海 あらためて、今回の話を引き受けてもらえてよかったと思いました。そしてもし、私が、お芝居以外で何か答えるのなら……新しいお財布を探しています(笑)。
寿 もしかして「MONEY」だけに? お後がよろしいようで(笑)。

――最後に、公演を楽しみにされているみなさまへメッセージをお願いします!
寿 在団中、出演した最後の作品「カジノ・ロワイヤル」で「ダンディに品よく、ユーモア忘れずに生きていくと自ずと道は開ける」というセリフをいただいたのですが、それは、そうして宝塚人生を生きてきた私へのプレゼントであり、また、私自身へのエールのことばと受け止め、これからも大切にしていこうと思っていました。そこにきたのが、あこがれていたシチュエーション・コメディの機会です。楽しみながら、ゆかいですてきな時間を過ごしたいと思っています。ご覧になられる方も参加いただける作品となっておりますので、思い切り巻き込まれて楽しんでいただけたらと思います。
七海 当たり前のことですが、1回、1回を大切に頑張ります。新たな挑戦になるので、たくさんの方に協力してもらいながらカンパニー全員で楽しく元気に駆け抜けたいです。すっしぃさんからもありましたが、お客様の反応も舞台の重要な演出になります。劇場にお越しいただく方には、いっしょに舞台をつくる感覚で笑ったり驚いたりしてほしいです。配信では、全景だけでなく細かい表情を追える物語視点も用意しました。きっと劇場とはまた違うおもしろさがあると思うので、そちらも併せてお楽しみください!

【取材・文:キツカワトモ/写真:田上富実子】


舞台「THE MONEY –薪巻満奇のソウサク–」

★9月3日(日)大阪千穐楽は配信チケット販売中
「Rakuten TV」にて配信予定
チケット詳細はこちら

【大阪公演】
2023年8月30日(水)~9月3日(日)
会場:心斎橋PARCO14F SPACE14
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目8-3 14F

プロデュース:七海ひろき
脚本・演出:保木本真也
企画:QQカンパニー
出演:寿つかさ、緒月遠麻、伶美うらら、澄風なぎ、七海ひろき

リンク:舞台「THE MONEY」公式WEBSITE

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