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少女たちの咆哮はどこへ向かうのか——劇場版総集編 ガールズバンドクライ 【前編】 青春狂走曲 鑑賞レビュー

©東映アニメーション


’24年4月から6月にかけて放送された東映アニメーション製作のフル3DCGによるオリジナルTVアニメ「ガールズバンドクライ」。イラストルック・フルコマによる斬新な映像表現、ロックの反骨精神を心震わせるセリフで巧みにエンターテインメントへと昇華した骨太なストーリー、繊細さと激しさを併せ持った印象的な楽曲の数々で多くのファンを魅了した作品の、全13話の物語を劇場2部作に再構成した総集編が10月・11月と2か月連続で公開される。その前編にあたる「劇場版総集編 ガールズバンドクライ【前編】青春狂騒曲」が、現在全国映画館にて、絶賛公開中だ。


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感想はシンプルだ。劇場の音響で聴く「ガールズバンドクライ」のサウンドはいいものである。このひと言に尽きる。OP・EDにライブシーン。作品の華となる箇所はもちろんだが、ハッとさせられたのは練習風景だ。スタジオに入ったメンバーがそこで鳴る音の新鮮さに驚くシーンが2か所ある。その中でもとりわけ後半、のちにトゲナシトゲアリとなる5人が初めてスタジオで揃い、音を合わせる瞬間の響きが鮮烈だった。あんな音が鳴ってしまったら、それを体感してしまったら、もう運命は動き出してしまっている。そんな説得力をTVシリーズのとき以上に強く感じさせるバンドのアンサンブル。泣けた。


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映像も、もともと今作は画面の手前と奥にキャラクターを重ならないように配する、いわゆる「縦の構図」であったり、キャラクターをフルサイズで画面内に収めるロングショットであったりが効果的に使用されている。さらに、会話の受け答えなどで、当然キャラクターがリアクションをとって然るべきところには、相応の動きが伴う。アップやミドルショットに限らず、ロングショットで画面に小さく登場するキャラクターであっても。レイアウトにキャラクターの芝居の細やかさが相まって、総集編ながらも十分に大スクリーンでの鑑賞に堪えうる。


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あとはもう、言うまでもないことだろう(TVシリーズの総集編ということで、以下のブロックではストーリーの流れを映画のラストまでネタバレありで触れる。今回の劇場上映をきっかけに、ゼロから本作のインパクトを味わいたいと考えている人、並びにどのような構成になっているのか初見の楽しみを重視する作品のファンは、このブロックは読み飛ばしていただければ幸甚だ)。「青春狂騒曲」は物語的にはTVシリーズの第7話までの内容で構成されている。17歳で高校を中退し、熊本から単身上京してきた井芹仁菜。ワケアリな彼女と、所属していたバンドをメジャーデビュー直前に抜け、今は単身で路上ライブに立つ同じくワケアリなギタリスト・河原木桃香の、神奈川県川崎市を舞台にした運命的な出会い。そんなふたりに、ドラマーの安和すばるが加わり、紆余曲折を経てボーカル・ギター・ドラムのトリオ編成のユニット「新川崎(仮)」が結成される。そのライブを見たベースのルパとキーボードの海老塚智のコンビ「beni-shouga」が合流し、5人編成で本格的なバンドとしての活動を始めるかと思いきや、桃香が諏訪のライブハウスでのイベント出演を最後に、バンドを辞めると宣言。しかし、そんな桃香に宣戦布告をするかのように、仁菜は通っている予備校を辞めるとライブ中のMCで宣言し、人生を桃香とのバンドに、音楽に賭ける覚悟を示す。そんなTVシリーズの展開を、ストレートに追いかけていく。劇中でのキャラクターたちの在り方そのもののように、奇をてらっていない構成。ただし、冒頭に新規シーンとして、桃香、すばる、ルパと智の、時系列をもっとも遡ったシーンの点描が置かれている点は大きい。そこからTVシリーズ第1話冒頭の新幹線の仁菜に繋ぐという、細かい変更点が効いている。出会う前のそれぞれの姿が直接的に描かれることで、彼女たちがもともと抱えていた孤独ややるせなさが、より深く伝わってくるのだ。泣けた(2回目)。どんな思いで駅前で演奏していたんだ桃香。どんな気持ちで桃香の誘いに乗ったんだ、すばる。どういう気持ちで吉野家でバイトしていたんだ、ルパと智。せつない……。映画から入る人にとっては「5人の物語である」ことを最初からわかりやすく印象付ける丁寧な説明にあたる導入であり、TVシリーズ履修済みの人にとっては、キャラの理解度が深まる魅力的なシークエンスだ。


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ちなみに、新規カットは他にも存在し、さらに完全に新規ではないが、既存のカットにとあるキャラクターが足されたものが存在する。これによって、そのキャラクターの存在感がグッと高まっているので、TVシリーズを履修済みの人は、ぜひ注意して、映画館のスクリーンを見つめてほしい。

これまで本作を未見の人にとっての入門編としても十分な、しっかりとした内容であり、もともと作品のファンだった人にとっても、新たな要素を加えつつの素晴らしい追体験を可能にしてくれる総集編前編だ。今から後編が待ち遠しい。


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先だって9月23日に開催された「トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”」にて、リアルバンドの「トゲナシトゲアリ」初のZeppツアー「トゲナシトゲアリ Zepp Tour 2026 “拍動の未来”」の情報が解禁された。合わせて、予てより開発が告知されていたゲームのタイトルが「ガールズバンドクライ First Riff(ガルリフ)」であることも明らかになり、公式X & ティザーサイトもオープン。トゲナシトゲアリの看板ラジオ番組「トゲナシトゲアリのトゲラジ~川崎から世界へ~」の放送も10月7日からInterFMで始まり、そして、ファン待望の完全新作劇場版の製作が発表。これからもますます広がり続ける「ガルクラ」とトゲナシトゲアリの世界から、まだまだ目が離せそうにない。しっかりと小指を立てていきたい。

【取材・文:前田久】


■「劇場版総集編 ガールズバンドクライ 【前編】 青春狂走曲」
全国劇場にて公開中
スタッフ:監督…酒井和男/原作…東映アニメーション/脚本…花田十輝/企画…東映アニメーション/製作…東映アニメーション/キャラクターデザイン…手島nari/CGディレクター…鄭載薫、中沢大樹/音楽プロデューサー…玉井健二/劇伴音楽…田中ユウスケ
キャスト:井芹仁菜…理名/河原木桃香…夕莉/安和すばる…美怜/海老塚智…凪都/ルパ…朱李

リンク:
劇場版総集編「ガールズバンドクライ」公式サイト
アニメ『ガールズバンドクライ』公式X(Twitter)・@girlsbandcry

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