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新生・丁がこじ開けた“復讐”という名の新境地。新曲「閃より雷や、更りや高き」で描く、狼の孤独と覚醒

力強い歌声と、クラシックに根差した独創的な音楽世界で、アニメファンを中心に熱烈な支持を集めるシンガーソングライター・丁(てい)さん。「ツルネ ―つながりの一射―」「Unnamed Memory」など、壮大で繊細な物語に寄り添ってきた丁さんが、約1年半ぶりとなるデジタルシングル「閃より雷や、更りや高き(ひらよりらいや、さらりやたかき)」をリリース! 今回タイアップするのは、TVアニメ「信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!」(以下「『無限ガチャ』)。これまでのイメージを鮮やかに裏切る「復讐譚」をテーマに、どんな音を紡ぎ出したのでしょうか。銀髪から黒髪へと姿を変えた丁さんの内に秘めたる覚悟、そして楽曲制作の知られざる舞台裏に、深く迫ります。



「引き出しを作る、というより棚を作るぐらいの覚悟でした」


丁「閃より雷や、更りや高き」ジャケット


――約1年半ぶりのデジタルシングルリリースとなります。タイアップのお話が来たときのお気持ちからお聞かせください。
 前回のタイアップが終わるころには次のお話をいただいていたので、「よし、次か」と、割と淡々とした感情で受け止めていました。ただ、自分にお話をいただけること、自分を使っていただけるということには、いまだにそわそわした気持ちがあって、お話をいただいたからには全力でやらなければと、改めて身が引き締まる思いでした。なので、舞いあがって「わー!」ってなるというよりは、静かにスイッチが入る感覚でした。

――TVアニメ『無限ガチャ』は、これまでの丁さんのもつ、美しく繊細な世界とは少し毛色の違う作品で、驚いたファンも多いかと思います。
 何よりもまず、タイトルの長さに目を奪われましたよね(笑)。しかも「復讐」とか「『ざまぁ!』します」という言葉があって、これは今までとは全く違うジャンルになるぞ、と。タイトルを読んだ時点で、これまでつくってきた曲たちよりも“強い”ものを出なければならない、という覚悟を決めた気がします。

――原作を読まれて、どのようなインスピレーションを受けましたか?
 やはり「復讐」というキーワードがすごく大きくて、強くて、黒い……心臓のあたりにぐっと固まっているような感情の塊を感じて。主人公のライトが仲間を引き連れて復讐していく姿が、私のなかではなぜか「狼の群れ」に変換されたんです。群れを率いて狩りにいくというイメージがどんどん膨らんでいって、それが結果的に今回の楽曲やアートワークに反映されていきました。

――ライトの「復讐心」は、普通に生きているとなかなかイメージしにくいと思います。丁さんはこういう感情はどこまでご自身のなかにありましたか?
 正直に言うと、最初は自分のなかに「復讐」という引き出しはほとんどなかったんですよね。なので、「どんな感じだろう?」って手探りで探すところから始まりました。これまでは作品に温かく寄り添い、包み込むようなイメージで曲を制作してきたんですけど、今回はそうじゃなかったです。新たに引き出しを作るというよりも、新しい棚を作るくらいの感覚でした(笑)。

――なるほど。でも楽曲では見事に「復讐」されていましたよね。ただ、その激しさのなかに、丁さんならではの美しさが確かに残っているとも感じます。
 ありがとうございます。そこはやはり、人間であるに残しておきたい部分というか。「きれいな部分も実はあるよ」というのを、どこかに残したいんだろうなと自分でも思います。



180度変わったサウンド。復讐の濃度が濃くなった理由

――楽曲制作にあたり、アニメサイドからのオーダーはあったのでしょうか?
 実は、最初のオーダーは今のアレンジとは全く違うものだったんです。リファレンスとしていただいたのは「アイリッシュなタップダンスの音が入った楽曲」だったので、最初は民族楽器をがっつり入れた編曲で提出したんです。

――それは驚きです。今の重厚なサウンドとはかなり印象が違いますね。
 そうなんです。最初のバージョンは、もっとポジティブ寄りで、仲間とわいわいするような、少し柔らかい印象でした。ただ、どうしても自分が納得できなくて、プロデューサーに「今回はダークな方が絶対に作品に合うと思います」みたいな感じで、すごく長いメールを送っちゃって(笑)。多分、楽曲制作では生まれて初めてわがままを言った気がします。

――ポップな絵柄の作品ではありますが、本質は復讐劇にあると。
 私のなかでダークな部分がどんどん膨らんでいってしまって(笑)。結果的に、どんどん復讐の濃度が濃くなっていきました。自分のなかから湧き出るインスピレーションが、その方向に導いていったんだと思います。

――サウンドの世界観で、特に意識されたことはありますか?
 狼が狩りをするイメージがあったので、迫害から逃れる自由の象徴として、疾走感を重視しました。MVでも狼が走っているんですが、まさにそういうイメージですね。私の音楽のルーツはクラシックにあるので、そういう和声進行に起因する独特の世界観が色濃く出たなと、つくり終えてから感じました。

“89秒の壁”を超えるための仕掛けと、造語に込めた祈り



――アニメ主題歌というとキャッチーなサビが求められがちですが、この曲は全体を通して徐々に熱を帯びていく構成が印象的です。
 そこはあまり意識していなかった部分で、今言われて「あ、そうだったのか」と(笑)。自分のなかでは、あれがわかりやすいサビのつもりだったりするんです。ただ、今回は特にサウンドで世界観を出すことを重視したので、結果的に何回も聴くうちによさが染みてくる「スルメ曲」になったのかもしれません。それはひとつのチャレンジでしたし、ファンの方がどう受け取ってくれるか楽しみです。

――歌詞面では、タイトルにもなっている「閃より雷や、更りや高き」というフレーズが印象的です。
 これは「ひらよりらいや、さらりやたかき」と読むのですが、造語なんです。漢字で見ると意味も分からないし読みづらいですが、ひらがなにした時の語感を大切にしています。私は音に漢字を当てはめて造語を作るのが好きで、意味はわからなくても情景が浮かぶような、象形文字を見ているかのような言葉を意識しています。

――楽曲のなかで、特にこだわった部分はどこでしょうか?
 Cメロです。アニメの89秒が終わった瞬間に、あの地底から響くような、雷の轟音のようなサウンドが始まるように構成しました。ここはこれまでの私にはなかった表現で、自分でもすごく気に入っています。まさに地獄に落ちたかのようなパートですが、MVの監督があのイメージを完璧に映像で体現してくださいました。

――最後の美しいコーラスも印象的でした。救いのようでもあり、不吉な予兆のようでもあり……。
 まさに、その両方の意味を込めているんです。個人的に、復讐という感情は巡り巡って自分に返ってくるものだと思うんです。だから、あのコーラスには「どうかこの復讐の連鎖が鎮まりますように」という鎮魂の祈りを込めつつも、MVでは「戦って殺した相手は、結局自分自身だった」という強烈なメッセージもあって。そこは少し考えさせる演出になっているなと思います。

新生・丁の覚醒、そしてライブへ――「大きな光になっていく」

――丁さんのビジュアルについてですが、銀髪から黒髪へと一新されました。これはどのような意図があったのでしょうか?
 実は、これは丁として活動を始めるときからあった裏設定なんです。「ハープに触れている時は銀髪、ハープから離れたら黒髪になる」というような。髪の色って、自分のなかでのスイッチングの象徴で、「銀髪の私はこうだ!」みたいな変身のきっかけなんだと思います。

――デビューから約2年が経ちますが、ご自身の歩みをどう感じていますか?
 正直なところ、あまり実感はないんです。ずっとガムシャラに走りつづけていて、周りは一切見えていないというか(笑)。ときどき「そっか、自分はメジャーデビューさせていただいてたんだ」って我に返るくらいで。今はミニハープの弾き語りと、シンガーソングライターとしての両方の名義で活動していますが、それぞれを強化していくことで、より個の力を強くしていきたいと思っています。

――4作連続でのアニメタイアップとなりました。丁さん自身もかなりのアニメ好きだとうかがいましたが。
 かなり見てます(笑)。アニメ本編はもちろん、劇伴も好きですし、もちろん主題歌も色々聴きます。漫画も好きで、たくさん集めていますね。

――個人的に特に好きなジャンルや作品はありますか?
 そうですね。最近見ておもしろかったのは「光が死んだ夏」です。主題歌もすごく印象的でした。あと「鬼灯の冷徹」は何度も見ていますね。ほかにも、ファンタジーや探偵もの、あとは「BLEACH」や「黒執事」、それに「xxxHOLiC」のような怪異ものも大好きです。ダークで少し不思議な作品世界にひかれるのかもしれません。今回の『無限ガチャ』でバトルものの扉を開いたので、いつか怪異系の楽曲も手がけてみたいですね。

――今後の目標を教えてください。
 今はとにかくライブを頑張りたいです。今まではアコースティックが中心でしたが、これからは「新生・丁」として、バンドサウンドで、音源の音をしっかりと届けられるライブパフォーマンスができるアーティストになりたい。それが一番の目標です。

――では最後に、ファンの方へメッセージをお願いします。
 今回の新曲で、「新生・丁」として新しく生まれ変わった姿をお見せできると思っています。ビジュアルの変化に驚かれているかもしれませんが、丁が描く新しい世界を、ぜひのぞきにきてほしいです。今までは、足元を照らすような小さな光だったものが、これからどんどん大きくなっていく雰囲気を感じているので、ぜひその始まりをこの曲で感じてもらえたらうれしいです。

【取材・文:岡本大介】

丁「閃より雷や、更りや高き」
配信中
各配信サイトリンク:https://lnk.to/LZC-3224

リンク:
オフィシャルサイト https://teihinoto.com/
オフィシャルX(Twitter)・@TeiHinoto https://x.com/TeiHinoto

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