2024年3月9日、2023年度に最も活躍した声優を讃える「第十八回声優アワード」の受賞者が発表されました。本稿では、主演声優賞を受賞した市ノ瀬加那さんのオフィシャルインタビューをお届けします。
――第十八回声優アワード主演声優賞の受賞、おめでとうございます。受賞を知ったときのお気持ちを教えてください。
市ノ瀬 すごくうれしい気持ちと驚きが、半々くらいでした。2021年に「第十五回声優アワード」で新人女優賞をいただいたのですが、そのときよりも現実味がない気持ちでした。でも、やはりとてもうれしかったですね。
――2023年は、市ノ瀬さんにとってどんな1年でしたか?
市ノ瀬 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」を通してたくさんの方が私を知ってくださった1年でした。私自身も「機動戦士ガンダム 水星の魔女」づくしの年で、本当に目まぐるしい日々を過ごさせていただき、声優としてもまた一歩進めたような年だと思います。
――イベントなどで、ファンの声援を受けた感想をお聞かせください。
市ノ瀬 皆さんすごく純粋な眼差しで、作品やイベントを心から楽しんでくださっているのが伝わってきました。ファンの皆さんの言葉や表情が本当に励みになりましたし、その力があったからこそ多くの方に作品を観ていただけたと思いますので、感謝の気持ちでいっぱいです。
――「機動戦士ガンダム 水星の魔女」のスレッタ・マーキュリー役を、どのような思いで演じていましたか?
市ノ瀬 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」という作品自体が、他のガンダムシリーズとは違う方向でいろいろなアプローチをしていますが、そのひとつが、シリーズ作品初の女性主人公ということでした。「ガンダムの看板を背負う」という意味で責任重大だなとプレッシャーを感じて、役が決まった瞬間は、胃が痛くなるような緊張に襲われました。
――劇中のスレッタは自然体でのんびりした子という印象がありますが、そのプレッシャーをどのように乗り越えたのでしょうか。
市ノ瀬 適度な緊張はいい方向に作用しますが、私の場合は、この緊張感のまま演じてはいけないと思ったんです。ですから実際に収録が始まる前に、作品を楽しみにしてくださっているファンの方たちを思い浮かべて、どうやったらスレッタを楽しく演じていけるのかという方向へと強引に気持ちを切り替えて。そうしたら、スレッタを演じることを自然に楽しめるようになりました。改めて思い返すと、演じている瞬間は本当に楽しかったです。
――スレッタのどんなところに魅力を感じていますか?
市ノ瀬 根は明るいけれど、人見知りな部分もあるという人間的なところに、自分と似ている部分を感じて、親近感がわくところですね。
――スレッタを演じるときに、特にこだわったことはなんですか?
市ノ瀬 学園で生活しているときと、モビルスーツに乗っているときの違いです。スレッタは水星で人と関わる機会があまりないままに育ち、アスティカシア高等専門学園に編入するのですが、初めてたくさんの同年代の子と過ごすのでいい意味での心の不安定さが多く、人前でうまくしゃべれないのに、モビルスーツに乗ると本来の自分に戻って活き活きとする。その切り替えをしっかり意識して演じました。
――収録で大変だったことはありましたか?
市ノ瀬 Season2の後半で、エアリアルではなくキャリバーンに乗って戦うのですが、キャリバーンという機体は、エアリアルと違って戦闘したときのダメージがダイレクトに身体に影響してしまいます。キャリバーンに乗っているときはスレッタ自身も身を削りながら操縦するので、息を切らせながらセリフをしゃべるシーンになるのですが、それが難しくて、たくさんテイクを重ねてしまいました。家でランニングしながらしゃべる練習をしましたが、どうしてもきれいにしゃべってしまって、うまく崩すことができなかったんです。あと、ひとりで10以上の役を同時に演じる瞬間があったんですが、それぞれニュアンスを変えながらお芝居したので、脳内がフル回転状態でした。初めての体験でしたが、めまぐるしくも楽しかったです。
――声優として、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で得たものは何ですか?
市ノ瀬 アドリブ力です。他の作品では基本台本通りに読んでいたのですが、序盤で監督から「ぜひ、アドリブを入れてください」とおっしゃっていただいたので、アドリブを入れるところを探しながらお芝居しました。それが採用されたり、視聴者の方から「おもしろい」と反応してもらえたりしたのが、本当にうれしかったです。今後も機会があれば、アドリブを取り入れていきたいなと思いました。
――改めて、声優を目指したきっかけをお聞かせください。
市ノ瀬 小さいころからアニメが大好きで、「作品の中に入りたい」と思っていましたが、直接のきっかけは、高校生のときに見学に行った学校で、声優コースの先生に「声優に向いている」と言われたことです。人から認められたことで、すごく前向きな気持ちになりました。
――声優として活動する中で、楽しさを感じるのはどんなときですか?
市ノ瀬 やっぱりお芝居をしている瞬間はすごく楽しいですし、完成した映像を観てファンの皆さんが楽しんでくださっている瞬間を見るのも好きです。究極を言ってしまうと、声優としての仕事すべてが楽しいですね。「機動戦士ガンダム 水星の魔女」の放送中はSNSのトレンドに上がることも多くて、タグ付けされた投稿を読むといろんな視点の意見が書いてあったんです。自分だけでは考えきれなかったことが、いろんな人の言葉で語られているのを見て、作り手だけではなく、視聴者の皆さんを含めてみんなで作品を作っていくんだという幸福感を感じました。
――最後に、今後の目標をお聞かせください。
市ノ瀬 まだ外画の吹き替えをやったことがないので、いずれ挑戦したいと思っています。もうひとつは、すごく性格の悪い敵役を演じること。人が心に抱く感情はきれいなものばかりではないので、己の黒い感情を素直に表現している人が好きなのと、アニメーション作品の敵役はシンプルにかっこいいキャラクターが多いので、いつか演じてみたいです。
【撮影:田上富実子/取材・文:中村美奈子】
■第十八回 声優アワード 受賞者及び受賞作品
主演声優賞 市ノ瀬 加那
主演声優賞 浦 和希
助演声優賞 阿座上 洋平
助演声優賞 石見 舞菜香
助演声優賞 能登 麻美子
新人声優賞 伊駒 ゆりえ
新人声優賞 榊原 優希
新人声優賞 戸谷 菊之介
新人声優賞 原 菜乃華
新人声優賞 羊宮 妃那
歌唱賞 結束バンド
パーソナリティ賞 該当者なし
外国映画・ドラマ賞 高畑 充希
外国映画・ドラマ賞 村井 國夫
ゲーム賞 内田 夕夜
シナジー賞 「THE FIRST SLAM DUNK」
富山敬・高橋和枝賞 岡村 明美
富山敬・高橋和枝賞 佐々木 望
キッズファミリー賞 「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」キャスト一同
インフルエンサー賞 上坂 すみれ
MVS 中村 悠一
功労賞 古川 登志夫
功労賞 山田 栄子
特別功労賞 今回は、特別功労賞に代えて本年度ご逝去された声優を顕彰しました
リンク:「声優アワード」公式サイト
「声優アワード」公式X(Twitter)・@seiyuawards