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現在、好評放送中のTVアニメ「盾の勇者の成り上がり」。その放送を記念して、スタッフ&キャストによるリレー連載をお届けします。
第9回は、各話脚本を担当している江嵜大兄さんと田沢大典さんにお話をうかがいました。後編では、1クール目の後半を振り返りつつ、いよいよ4月からスタートする第2クールの見どころを語っていただきます。
――第5話から第8話は田沢さんが脚本を担当されています。ここから物語の空気感が変わりましたよね
田沢 第4話までのテンション感が好きな方だとぬるく感じるのではないか、別作品のように見られるのではないかと少し不安でした(笑)。ただ、このゆるさ、ぬるさこそが大事だと思っていて。日常生活の描写を膨らませることで、尚文たちがこの世界に現実として生きていることを描きたかったんです。そして、その世界で生きているからこそ、同じ世界で生きる人々を守りたいと思うようになる。その意味では、先の話数にも繋がっていく大切なエピソードになりました。
江嵜 第5話から世界観が一気に広がりましたよね。それまではメルロマルクの狭い範囲しかわかりませんでしたが、行商をすることで各地の様子がわかるようになって。この国ってこうなっているんだという新しい発見がたくさんありました。
田沢 いいところも悪いところも含めて、国を全部描こうという監督の意図があったんです。尚文たちを掘り下げると同時に、メルロマルクという国を表現しようと。
――第5話以降は社会にコミットしていく様子が描かれていますよね。
田沢 そこで経済という概念が入るのが面白いですね。金銭の授受を軸に社会と繋がっていくのって、いいなぁと思いました。
江嵜 尚文が人助けに必ず対価を求めるのも面白いですし、尚文らしさが出ていますよね。
田沢 慈善事業ではないからこそ、尚文の行動が真摯に見えるんです。対価をもらったからにはきっちりやる男なので。
――脚本を書く上で大変だったことはありますか?
田沢 よく覚えているのが、第7話の温泉回ですね。制作現場に入って間もない頃だったので、初稿で筆が走ってしまい、いまよりずっとゆるい内容にしてしまって。たとえば、ラフタリアが妄想を大爆発させてナオフミ様が耳元で優しく囁く、みたいなことを書いたんです(笑)。さすがに監督と小柳(啓伍)さんに、「田沢さん、こういうのではなく、もうちょっと盾らしさに寄せていただけると」と苦笑されてしまいました。
――それはそれで見てみたいですね(笑)。
田沢 とはいえ、そのときに「ラフタリアはそんなに大人ではない」というやり取りができたのは大きかったですね。やっぱりまだまだ子どもですし、尚文に対してもキスを想像するだけで止まっちゃうような子なんだと再確認できました。
――ラフタリアは見た目こそ急成長しましたが、精神的には子どもですからね。
田沢 そうなんです。江嵜さんが担当された第2~4話では尚文とラフタリアの絆が深まっていく様子が描かれましたが、第5話以降はラフタリア自身に広がりを持たせたかったので、子どもらしさというのを大切にしました。だからこそ一途な女の子なんですよというのが伝わったらいいなと。
江嵜 私が担当した第2~4話では、ラフタリアに生きる意味を与え剣を与えたのは尚文だけど、ラフタリアもまたその剣で尚文を守ろうとする、という関係性を描きたいと考えていました。どちらかが欠けてもこの世界では生き残れない……そんな絆を見せられたらいいなと。
――第5話以降は、ラフタリアとフィーロとの家族的な繋がりも強くなっていきました。
田沢 呪いの盾を発動する話数が大きな山場になるので、尚文がプレゼントをもらったり、アクセサリーを作ろうとしたりするという描写を中心に、三人の家族感をしっかり積み上げておきたかったんです。家族としての関係性が深まっていないとフィーロが食われたときの尚文の怒りがとってつけたような感じになってしまいますから。
江嵜 家族感は皆さん大事にされていましたよね。
田沢 そうですね。ラフタリアとフィーロを失いたくないというのが、尚文の後半のモチベーションにも繋がっていくので、大事に描くようにしました。
――ところで、お二人から見たフィーロの魅力についても聞かせていただけますか?
田沢 フィーロはわかりやすいところがいいですよね。強く、かわいく、賢くない。
――賢くない、ですか(笑)。
田沢 鳥の本能がたまにポロッと出るところがいいんです。
江嵜 わかります。急に動物的なところが出てきますよね。一番驚いたのは同族を見て「おいしそう」と言ったところ。原作にもありますが、すごい台詞だなと。悪意がまったくないからこそ、ちょっと怖いというか。
田沢 盗賊に対して「ごはん!」と言ってしまったり、いきなり「つがい」という言葉が出てきたりしますからね。
江嵜 元康とのコメディ的な絡みも面白いです。今後、パターン化していくので、ちょっとした気晴らしとして見ていただけたら嬉しいですね。
――メルティが登場した第9、10話は江嵜さんが脚本を担当しています。
江嵜 メルティの登場シーンはこだわりたかったところですね。フィロリアルに囲まれ、羽根の舞う中、視線を上げるという描写はシナリオでも書いていて。印象的な映像にしていただけて嬉しかったですね。あとはメルティとマインの対比も描きたいと考えていました。マインが好き勝手し放題なのに対して、メルティは一国の運命を背負おうとしています。体は誰よりも小さいけれど、誰よりも聡明で芯の強い女の子であることを意識しました。第9、10話は尚文たちの物語であると同時に、メルティの王女としての強さと覚悟を描く話数でもあったんです。
田沢 メルティとフィーロが仲良くなっていくところもよかったです。
江嵜 なんだかんだ言ってもメルティはまだ子どもなので、フィーロと遊んでいるシーンはほっこり描きたかったんです。映像だとさらにかわいらしく見えてよかったですね。
田沢 それもあって、第12話はより子どもっぽさを強調するようにしたんです。国を憂える王女、フィーロと仲良しな女の子という部分だけだと、尚文と馴染むところがなくなってしまうので、怒りを爆発させるシーンをコミカルに描いて尚文との距離感を縮められたらいいなと。それは視聴者の方にとっても同様で、完璧すぎるキャラクターだと取っつきにくいですから。子どもっぽさを強調することで、より魅力的に見せられたらいいなと考えていました。
――第9、10話を描く上で大変だったことはありましたか?
江嵜 特に第10話は「何を語るか」というところで、だいぶ試行錯誤しました。波の準備だけでは1話もたないので、いろんな要素を入れては削りという作業を繰り返して、キャラクター同士の関係性を深め、伏線をちりばめていくという形で第11話に繋げるようにしました。
田沢 たとえば、現実世界への帰還を考える尚文とそれを聞いてもどかしい気持ちになるラフタリアのシーンは、あとから追加されたアイデアですよね。
江嵜 そうですね。ほかにも三勇者の思惑であったり、教皇の存在であったり。後半に繋がる要素をうまく入れることができて、結果的にすごく重要な話数になりました。
――田沢さんが担当された第11、12話は、波の戦いが中心となりましたね。
田沢 戦闘がメインの話数でしたが、キャラクターの心情を描くことを忘れないようにしました。たとえば、尚文が呪いの盾を使うシーン。自分の力としてある程度使いこなせるようになっていますが、それも尚文とラフタリアが信頼関係を積み重ねてきたからこそなんです。二人の強い絆が見えるシーンになったと思います。
あとは第11話でラフタリアが三勇者に怒るシーンは、瀬戸(麻沙美)さんのファインプレーが光りました。台詞を書いた時点で難しい芝居になるだろうと思っていましたが、瀬戸さんご自身も「(ラフタリアの気持ちが)ここまで上がりますか?」と思ったみたいで。アフレコ現場で、ここまで上がることで勇者たちの覚悟が決まるんですという話し合いをして、素晴らしいシーンに仕上げてくださいました。
江嵜 第11、12話はアイアンメイデンがカッコよかったです。扉を閉じるときに、尚文が拳を握りますよね? あのシーンが大好きで。
田沢 どういうアクションにしようかを話し合ったときに、拳を握るのはどうだろうというアイデアが出たんです。忘れがちですが、尚文って実は少し中二病が入っているので、そういう部分がふと出てしまうのがいいのではないか、と(笑)。
江嵜 ぽろっと中二病感が出るときがありますよね。
――そして、謎めいたキャラクター・グラスが登場しました。
田沢 尚文のライバルになる圧倒的な強キャラという記号性もありますが、それだけだと面白さがないので、脚本会議では「彼女らしさはどこにあるのか?」を突き詰めていきました。ひとつ大事なポイントだと思ったのが、「武人として戦いに喜びを求めている」というところですね。強い相手には敬意を表して、尚文にはちゃんと名前を聞くんです。短い登場時間でしたが、彼女なりのスタンスは見せられたかな、と。
江嵜 強キャラ相手に尚文たちがどう立ち向かうのだろうと思ったのですが、まさかの「逃げる」で。時間稼ぎをするというのが、「盾の勇者」らしくていいなと思いました。
田沢 しかも「逃げ切れてよかった」ではなく、「このままだと次は死ぬぞ……」という緊張感がちゃんとあって、そこも「盾の勇者」っぽいなと感じました。
――いよいよ第2クールに突入します。第13話は江嵜さんが担当されているということで、ぜひ見どころを聞かせていただけますか?
江嵜 尚文たちが国から追われることになり、三勇者と騎士団からの逃亡劇が始まります。絶体絶命のピンチに陥るので、それをどう切り抜けるのかドキドキしながら見守っていただけたら嬉しいですね。キャラクターでいうと、一緒に行動することになるメルティと尚文の関係性の変化が大きな見どころになります。あとは何より、マインの悪女感ですね。さらに磨きがかかりますよ!(笑)
【取材・文:岩倉大輔】