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アニメーション制作における“究極のスタイル”とは?――「リンダはチキンがたべたい!」公開記念、キアラ・マルタ、セバスチャン・ローデンバック、片渕須直鼎談

©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA


アヌシー国際アニメーション映画祭2023でクリスタル賞(最高賞)に輝くなど、世界の映画祭で高い評価を受けているアニメーション映画「リンダはチキンがたべたい!」が、いよいよ4月12日より全国で順次公開となります。3月14日には先行上映会+トークショーが開催され、キアラ・マルタさん、セバスチャン・ローデンバックさん両監督と、2人と親交のあるアニメーション監督・片渕須直さんが登壇しました。WebNewtypeでは、登壇前の3人にインタビューを行ないました。

「リンダはチキンがたべたい!」は、フランス郊外に住む母娘を軸にしたコメディ。母ポレットの勘違いで叱られたリンダは、その埋め合わせに亡き父の思い出のチキン料理が食べたいと頼む。ところがストライキで街中のお店は休業中。それでもチキンを手に入れたいポレットとリンダ。2人の行動がポレットの姉、トラック運転手、警察官たちを巻き込んで、大きな騒動になっていきます。

同作は、子供に見せたいと思える作品を作りたいと2人で考えだした企画で、脚本作業や演出も共同で行なったそうです。また映像のスタイルは、ローデンバック監督の前作「大人のためのグリム童話 手をなくした少女」のスタイルを応用した形になっています。2人はこれまでに3つの作品でコラボレーションを行なっていて、作品のスタイルや狙いは毎回異なりますが、2020年に共同監督した実写映画「A comme Azur」については「リンダはチキンがたべたい!」の制作資金の目処がつくまでの期間に制作したもの。そのため「リンダはチキンがたべたい!」のことを念頭に置きながら監督した作品とのことです。


開催されたトークショーのひとコマ。写真左よりセバスチャン・ローデンバック監督、キアラ・マルタ監督、片渕須直監督。インタビューはこのトークショー登壇前に行われました。


あらゆる制約をとりはらったアニメーション制作をめざして

――輪郭線や色使いなど、非常に独創的なスタイルの作品ですが、どういう理由でこのスタイルを選択したのでしょうか。
マルタ 今回、一番大事だったのは、ありとあらゆる制約を取り払って制作する、ということです。例えば、絵に関していえば、キャラクターの輪郭線を閉じていないし、キャラクターは一色だけで塗られています。そういう独特のスタイルで映画をいかにして成立させるか。アニメーションは線を始め様々な制約が多い表現手段ですが、アニメーションでヌーヴェルヴァーグをいかにしてやるのか、狙いはそこにありました。

ローデンバック アニメーションにおいて即興性を取り入れるのは、難しいことですが、今回はまず実写の映画を撮影するような環境で録音することで、それを可能にしました。役者さんが実写映画のように普通に演技をして、その声や音を収録して編集し、音だけの映画を作りました。とが、絵に合わせて声の演技をする制約から自由になりました。

マルタ 録音現場にはカメラは用意しませんでした。ロトスコープ(実写映像をトレスしてアニメ化する手法)にはしたくなかったからです。作画が実写の演技に縛られたら、自由さがなくなってしまう。集団での作画なのでモデルシート(キャラクター設定)は用意しましたが、アニメーターにはそれに従う必要はないと伝えました。アニメーターにお願いした数少ない制約は、“アップの時には顔のディテールを描いてほしいけれど、ロングのときにはそうではなく抽象画のように描いてください”というものです。

ローデンバック こういう作り方ができたのは、プロデューサーが理解ある人で、普通のシステムを押し付けてこなかったことと、かつ予算規模が小さく、7人のアニメーターを中心とした少人数のチームで制作したゆえのことです。

片渕 日本のテレビや映画のアニメーションは、決まったルールのなかで制作するから大量生産できるようになっているんですけど、その分、お2人のお話にあるような自由さから得られる面白さは半減以下になっていると思います。お2人の話を聞いて、改めてモノづくりは自由であるべきだし、「リンダはチキンがたべたい!」は究極の理想のスタイルだなと思いました。そういう自由を獲得するには既成概念を壊すということが重要で、それは僕らにとっても必要なことなんだと思いましたね。

マルタ 今回は、物語の内容がこの作り方を決めたところがありました。だから、次に作る時があるならまた違うスタイルをとると思います。ローデンバック監督とは、探究心があって、いろいろ試したいことがあるところが共通はしていると思います。

ローデンバック 僕も次はピクサーのような作品を監督するかもしれない(笑)。

マルタ&片渕 (笑)。

片渕 この映画は物語が型破りで自由なんですが、登場人物にしっかりとした存在感があることがその自由を許しています。存在感は、声の演技や、作画の技術から生まれているものです。

マルタ  最後の騒動では、大人と子どもが共存できる空間を描きたかった。子供たちは、大人に言われた通りの大人のふりなどせず、子供のままでいいし、大人も子供をバカにせず、信頼とリスペクトをもって暮らすことができるんだ、ということを描きたかったのです。

片渕 例えば日本でも落語という話芸は、結構現実離れしたような物語を展開しても、そこに人間の存在感はちゃんと伝わってくるんですよね。「リンダはチキンがたべたい!」は、自分たちの作っている作品とはまた違うスタイルですが、ありのままの人間の気持ちや、ありのままの関係性といったものを表したいと思っているところは、自分が感じているところと共通していると感じました。

【取材・文:藤津亮太】

☆発売中のニュータイプ5月号でも「リンダはチキンがたべたい!」の記事あり!


©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA


©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA


「リンダはチキンがたべたい!」
●4月12日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

スタッフ:監督・脚本:キアラ・マルタ(「Simple Women」)、セバスチャン・ローデンバック(「大人のためのグリム童話 手をなくした少女」)/提供:アスミック・エース、ミラクルヴォイス、ニューディアー/配給:アスミック・エース/配給協力:ミラクルヴォイス

日本語版キャスト:リンダ:落井実結子 /ポレット:安藤サクラ/ジャン=ミシェル:リリー・フランキー

原題:Linda veut du poulet! /2023 年/フランス=イタリア/76 分/カラー/シネマスコープサイズ/5.1ch/フランス語

©2023 DOLCE VITA FILMS, MIYU PRODUCTIONS, PALOSANTO FILMS, France 3 CINÉMA

公式サイト:chicken-for-linda.asmik-ace.co.jp

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