舞台

劇団☆新感線は年に1回帰る場所――劇団☆新感線『天號星』古田新太インタビュー


いよいよ9月14日から開幕となる劇団☆新感線の新作舞台、いのうえ歌舞伎「天號星」。現在発売中のニュータイプ10月号でも特集記事を掲載。本誌では殺陣についてじっくりと語ってもらった古田新太さん、彼にとって劇団☆新感線とは? そして今回の舞台とは? 



――『天號星』は元禄の江戸を舞台にした時代劇で、今回演じる藤壺屋半兵衛は、悪い輩に引導を渡す・引導屋の元締めと、『必殺』シリーズを彷彿とさせるキャラクターです。

古田 時代劇についていうと、オイラ自身はもともと時代劇マニアなんですよ。なにしろ宴会芸の持ちネタが「若山富三郎と近衛十四郎の納刀の違い」ですからね。ちなみに近衛十四郎は、鞘のほうをもっていって納刀する、若山富三郎はそのまま投げ入れる、というヤツで(笑)、そういうのを宴会でやっては先輩たちに喜ばれていました。そして、新感線は『必殺』をいっぱいオマージュしてきました(笑)。ただオイラは刀要員だったんで、『必殺』にはそこまで関わってはいないんですが。

――その半兵衛が、開幕早々、殺し屋の宵闇銀次(早乙女太一)と中身が入れ替わってしまいます。

古田 半兵衛というキャラクターについては、脚本を読んで、まず、どうしようかなぁって思いました。最初はコワモテな感じで登場しますが、実は気が弱いということがすぐわかっちゃうキャラクターで。つかみどころがないといえばないんですよ。しかも途中から太一と中身が入れ替わってしまう。入れ替わった後は、はねっ返りで一匹狼の銀次だから、ある程度強いキャラクターを作ってしまえばいいかなと。むしろ大変なのは太一のほうですよ。あの年齢で久保史緒里さんとかのお父つぁんをやることになるわけですよ。そりゃ、オイラの年齢だったらすぐできますけど、父親の父性を太一がどうだすのか、そこは楽しみですね。

――座付き作家である中島かずきさんの脚本をいろいろ演じてきたと思いますが、どんなところに特徴を感じますか。

古田 中島さんは、実際にアニメの脚本も書いてますけど、その前から中島さんの脚本は基本的にアニメでした。それは演出のいのうえ(ひでのり)さんも同じなんですよ。いのうえさんもアニメなんです。そもそもアニメみたいな演劇がしたいというのが新感線だったし。だからオイラと同世代の高田聖子とか橋本じゅんは、アニメのパロディみたいなこと散々やらされましたよ。だって『トムとジェリー』のトムが、一番上品でうまい喜劇役者だっていう価値観ですからね(笑)。

――トムですか。それは大変ですね(笑)。

古田 物事がうまくいった時にカメラ目線になって、そのまま壁にぶつかる……そういうスラップスティックの芝居はトムが一番うまいんだ、と。木の枝に落ちたら、勢いでそのまま足がグーンと伸びちゃうとかね(笑)。そんなの生身の人間にできるわけがない。でもそこを目指せっていうんですよ(笑)。

――古田さんとしてもそれを求められるのは楽しかったんですか?

古田 そうなんですよ。オイラは舞台芸術学科ミュージカルコースでしたから、歌えといわれても戦えっていわれても、練習してきたからできたんですよ。新感線以外の場で重宝がられてね。ほかの演出家さんも含めて「こんなのできないよね?」っていわれた時に「できます!」っていうのが喜びだったんです。……そういえば蜷川幸雄さんの芝居に出演した時に、「客席から登場して舞台上の行列に並んでくれ」といわれたことがあって。最初は客席から舞台に登るための階段を用意する予定だったんだけど、オイラは「階段いりません」っていったんですよ。それでどうしたかというと、客席側からそのまま舞台の上にゴロンと横になって、そのままゴロゴロ転がって行列に並んでみせたんです。蜷川さんには「そんなヤツはいないだろう」と言われたんだけど(笑)、結局本番では「アレをやって」となったんです。だから「そんなヤツいないよ」っていわれるようなことをやるのが好きなんです。

――古田さんにとって新感線というのは、どういう場所なんでしょうか。

古田 新感線に入りましたけど、もともとは大学4年になったら辞めるつもりだったんですよ。入ったころは新感線がつかこうへいさんのお芝居をやっていた時代です。ただ新感線のやる、つかさんのお芝居って、テーマ性みたいなものがかなりないがしろになってて(笑)、ヘヴィメタル流したりしながら、つかさんの派手な部分だけ拾ってやっている感じだったんです。だからチャラチャラした団体だなと思ってました。そのころは卒業したら東京に出て、東京乾電池か東京ヴォードヴィルショーに入りたいと思ってて。

――それがそうはならなかった。

古田 大学3年か4年になると、新感線は、よりヘヴィメタル色、コント色が濃くなってました。そのころ、いのうえさんから「ミュージカルコースの後輩で、歌って踊れるかわいい子はいないか」って聞かれたんです。それで橋本さとし、右近健一、高田聖子、羽野晶紀も新感線に引き込んだんです。一応オーディションがあったんだけど、4人には「オーディションあるけどあれは出来レースだから受けてくれ」って頼み込んで。それで歌って踊れるメンバーが加わったことで、さらにそういうカラーが濃くなりました。その時ようやく「あれ、これ、オイラが一番やりたかったおもしろ下品ミュージカルコントができる劇団にもっとも近いんじゃない?」と気づいたんです。まあその後は、だんだんこればっかりじゃなと思って、いろんな演出家さんとも仕事をするようになっていくんですが。

――すると今、新感線に出演する時にはどんなことを感じますか?

古田 年に1回は新感線に出てないと、ストレスがたまるなぁって思います。歌ったり、踊ったり、パァッとしたお芝居がやっぱり好きだなと。年齢を重ねてきて、そういうことをできるのも、あと何年あるかわからないし、ということも含めて。

――「年1回、帰る場所」となると、なんだか実家みたいなものですね。

古田 完全にそうですね(笑)。本当に里帰りみたいなもので。でも里帰りしたらしたで、いろいろあるんですよ。父親が中島(かずき)さんで、母親がいのうえ(ひでのり)さんでね。父親も母親もしっかりしてくれていればいいんだけど(笑)、まあそこは実家に帰るのは楽しいだけじゃなくて、長兄の責任みたいなものも出てくるので。

――長兄という感覚があるんですね。

古田 ありますね。高田聖子がお姉ちゃんでね。だから自分が出てない新感線の芝居を見る時はちょっと心配というか「お兄ちゃんが実家に帰れれば、なにがあってもなんとか収めるけど、帰らなくて大丈夫かな」みたいな感覚はあります。

――東京公演は9月14日から始まります。

古田 やはり早乙女兄弟と山本千尋さんのアクションは、別料金払っても損がないレベルなので、まずはそこです。早乙女兄弟の体技が素晴らしいのはいうまでもないですよね。あの2人はクールとファニーな感じで方向性は違うんだけど、どっちも「ちょっとバカ」が似合うんですよ。「ちょっとバカ」ができるのは、新感線にとっては結構大事な要素なので。「そこでずっこけ」っていわれてちゃんとずっこけられるというのは、とても信頼されるポイントなんです。俳優って、いってしまうと信頼の仕事なんで、いわれたことができる早乙女兄弟はとてもチャーミングだと思いますね。そしてアクション以外のところは、オイラとか高田聖子とか、劇団☆新感線が誇るそのほか大勢ががっつり埋めて盛り上げていきますので、是非楽しみにしていただければ。


【取材・文】藤津亮太
【写真】大川晋児

〝殺陣〟への思いをたっぷりと語ってもらった、ニュータイプ10月号の記事も併せてお読みください!



2023年劇団☆新感線43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎『天號(てんごう)星(せい)』
作    中島かずき
演出    いのうえひでのり

出演    古田新太 早乙女太一 早乙女友貴
   久保史緒里 高田聖子 粟根まこと 山本千尋 / 池田成志

   右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋
   山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ
   村木 仁 川原正嗣 武田浩二

   藤家 剛 川島弘之 菊地雄人 あきつ来野良 藤田修平 紀國谷亮輔 寺田遥平 伊藤天馬
   米花剛史 武市悠資 山崎朱菜 本田桜子 古見時夢

企画・製作 ヴィレッヂ 劇団☆新感線

【東京公演】 THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ
公演日程    2023年9月14日(木)~10月21日(土)
会場     THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)

【大阪公演】
公演日程    2023年11月1日(水)~20日(月)
会場    COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

あらすじ
時は元禄、江戸に口入れ屋の藤壺屋主人・半兵衛(古田新太)がいた。彼は裏で悪党を始末する〝引導屋〟の元締めとして知られていたが、実のところは顔の怖さを買われただけの、気弱で温厚、虫も殺せぬ人物だった。あるとき、金さえ積めば誰彼かまわず斬り殺すはぐれ殺し屋の宵闇銀次(早乙女太一)が彼の前に現われる。藤壺屋に相対する黒刃組に依頼され、半兵衛を待ち伏せして斬ろうとする銀次。だがその瞬間、天號星の災いか、二人を激しい落雷が襲い……。

リンク:『天號星』公式サイト

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