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2024年1月1日に起きた能登半島地震で観光客が激減した石川県の輪島で、新たな希望の光となるべく、「温泉むすめ」(※)の新たなプロジェクトが始動! WebNewtypeではその関係者の声を全7回にわたってお送りします。
最終回となる今回は、初回にも登場した、当地で旅館とホテルの経営に長年携わる谷口浩之さんにインタビュー。輪島における温泉むすめ顕現のきっかけとなり、2025年10月に開催された輪島かさねお披露目イベントを手がけた彼に、今回の取り組みを振り返ってもらいました。
※日本全国の温泉をモチーフにしたキャラクターと、声を担当する声優たちが、全国の温泉地を盛り上げるプロジェクト
――イベント終了から数週間経ちました。地元の方々からどんな感想や反響がありましたか?
谷口 想定以上に大きな反響がありました。輪島かさねの好物である揚げ物の「かかし」を販売する藤田総本店さんは、イベント終了後に行列ができ、店内がパンパンになっていたそうです。また飲食店でのステッカープレゼントキャンペーンは、参加店から「ステッカーが足りないからすぐに追加で欲しい」という声がすぐにあがってきました。ほかにもありがたいことに、出張輪島朝市の朝市おばちゃんの皆さんからも、輪島かさねちゃんパネルのおかげでお客さんも来てくれるし「いいことしてくれてありがとう」という声もいただいております。
――少なくともかかわった方には好評だったと。
谷口 はい。イベントの翌日には北國新聞や北陸中日新聞といった石川県の地元新聞でも取り上げられました。そして、びっくりしたことに輪島市の全戸に配布される行政の広報誌「広報わじま」の表紙にも採用されたので、イベントに直接かかわらなかった、あるいは知らなかった方々にも「温泉むすめ」と「輪島かさね」ちゃんは広く認識されたはずです。
――お披露目イベントとしては大成功だったんですね。
谷口 そもそも能登半島地震以降、自信をもって誘客できる状況になかったなか、能登・輪島の観光復活に向け、地震前に多く来ていただいていた「観光客」とは違う層――「推し活」や「オタク文化」に近しい方々――にアプローチをして、新たに輪島ファンになってもらえるきっかけをつくろうという思いがありました。それで地震があっても観光復興できるという機運を醸成させたかったんです。今回のお披露目イベントで多くのぽかさんが来てくれたことは、市民の方々には「あれはいったい何なんだ」という刺激になったし、ありがたいことに、あいさつに駆けつけてくださった坂口市長にも皆さんの熱気を体感していただけました。実は私が参加しているフットサルチームのおじさん達からも、イベント後は「今の輪島にはああいう盛り上がりが必要だ」と言ってくれたし、ほかにもいろんな人から「次はどうするんだ」「協力させてほしい」という声をたくさんいただきました。お披露目イベントを経て「温泉むすめ」や輪島かさねちゃんを知ってもらうという当初の目論見は達成しつつあります。
――谷口さんはイベントと翌日のロケをコーディネートされましたが、それぞれの印象的な場面を教えてください。
谷口 イベントでは、大西さんや相良さんたちの演者としての実力や振る舞いに圧倒されましたし、ロケ時には、垣間見えるすばらしい人間性にも感心してしまいました。ほかにも、イベント時の市長の登場時の盛り上がりも印象に残っていますが、とにかく参加された「温泉むすめ」ファンの礼儀正しさ、民度の高さに驚かされました。私も若いころからさまざまなイベントに携わらせていただいていますが、何も注意しなくてもスムーズに入場・退場できたり、イベント後の会場にゴミが落ちていなかったりと、すごく感心しました。これはイベントにかかわった人の多くが語っていたことです。それだけおとなしく礼儀正しいのに、イベントが始まると大きく盛り上がっていて、そのギャップにも驚きました(笑)。
――「温泉むすめ」のイベントをされた方の多くが、ファンのマナーのよさは言及されますね。
谷口 それは翌日のロケでもそうです。大西さんや相良さんを見かけたファンの方が話かけてきたり、遠くからスマホで撮影したりするのかなと思っていましたが、まったくそんなことがなかった。そのおかげか、お2人もリラックスして輪島朝市でたくさん買い物をされたりしていて、うれしかったです。
──ほかに印象的だった場面はありますか?
谷口 ロケの最後に“My箸づくり”としてお2人が輪島塗の絵付けをされていましたが、あれほど上手にできるのかとびっくりしました。私も何度か経験がありますが、とてもSNSに載せられるようなお箸になりません(笑)。それくらい難しいのに、すてきな仕上がりでしたので改めて声優さんの才能に感心してしまいました。
輪島塗の絵付けを体験させていただきました❤️🥢
— 大西亜玖璃 (@aguri_onishi) October 20, 2025
お箸にかさねちゃんの衣装を参考にデザインをいれたよ☺️
なかなか難しかった…🥺
職人さんってすごいんだと改めて感じたよ💓上手くなりたいなあ✨
みんなも輪島へ遊びに行って体験してみてね♨️✨#温泉むすめ #輪島かさね https://t.co/v41gFpWU7m pic.twitter.com/C2tefi1bfr
こちらも公開されてます!
— 相良 茉優 (@MayuSgr) November 7, 2025
「輪島工房長屋」さんにてMy箸づくりを体験してきました⸜(*˙꒳˙*)⸝
一生懸命作ってる姿を撮られてて少し恥ずかしい(,,. .,, )
完成はこんな感じ!!
ぜひ頑張ってる模様をチェックしてみてくださいね! https://t.co/6eiyCjGoof pic.twitter.com/1mz4KPaiOp
──イベントは大きなトラブルなく終わりましたが、実現までにご苦労もあったのでは?
谷口 いろいろありましたが、一番大変だったのはイベントの規模を大きく変更したことです。当初は50~60人くらい来てくれたら、と考えていました。というのも、現在の輪島では泊まれる場所も少ないし、アクセスや駐車場、天候なども考えたら屋内でMAX100人くらいの会場がよいかなと。しかしエンバウンドさんが輪島かさねちゃんに大西さんをキャスティングしてくださったあたりから雲行きが変わりました。キャストが発表されるとものすごい反響だし、「あんなに有名な声優さん、どうやってキャスティングできたの?」と多方面から聞かれて。それで「予定していた会場ではとても需要に対して足りないのでは」と感じ、急遽会場を変更することに。そこからが大変でした。
──300人規模、しかも野外で、キッチンカーなども出るとなると、それまでとは全然違う準備になりますよね。
谷口 そうです。まだまだ復興半ばの輪島では飲食店のキャパや宿泊施設も限られているので昼食難民、帰宅難民にならないようにと、キッチンカーの手配や駐車場の確保やシャトルバス、会場設営やグッズ特設会場の準備などなど、関係各所にお願いを重ねての準備になりました。ただ、観光協会のスタッフ、輪島市観光課などの行政の皆さんや復興支援のボランティア団体のみなさんをうまく巻き込むことができて、いっしょにやることができたので、何とか無事に開催できました。
──謙遜されるとは思いますが、あれだけの規模のイベントを急遽実現できたのは谷口さんがこれまで地元で積み上げてきたものがあったからではないでしょうか?
谷口 私個人というより、自分が常務を務める旅館やホテルが代々地元で営業してきたからこそ得られた地域とのつながり、関係各所や行政からの信頼のおかげだと思います。温泉旅館はそういった関係性のもとにやらせていただく商売ですから。例えばイベント当日のお手伝いも、最初は自分の友人知人や青年会議所時代の後輩にもお願いしていたんです。当初は、お披露目イベントも10月5日の輪島かさねちゃんの誕生日に開催しようと計画していましたが、ぽかさんの参加しやすさやもろもろの調整の結果、前日の土曜日開催に変更しました。その結果、石川県内のイベントの集中日になってしまい、仕事の都合や子供の行事などが重なって当初予定していた人員が不確定になったり、協力していただけるボランティアスタッフの人員がなかなか決まらなくなったりして焦りましたね。それを見かねた輪島市観光課の課長がネットワークを駆使して人を集めてくださって……開催1週間前とかの直前まで、ようやくスタッフが確定できそうだという、そんなスリリングな状況でした。
──同様のイベントがまたあれば、そういった反省も活かして余裕を持ってできそうですね。
谷口 今回一番の反省点は、2月の「宿フェス」で「温泉むすめ」の熱気を感じた私が、本当に小さいコミュニティでプロジェクトを始めてしまったことです。イベントを実際にやることになっても、「キャンプとかBBQやるぞ」くらいのノリで、数人のスタッフで、小さく、こっそりとできる範囲でやるつもりだったので。まさかこんなに大きな規模でやることになるとは……(苦笑)。もし次があれば、実行委員会のようなものをつくってしっかりと計画し、きちんと役割分担して進めたいですね。
──ズバリ聞きますが、次回のイベントはもう計画されていますか?
谷口 確かにイベントを継続したいとは考えていますが、具体的には決まっていません。先ほど話に出た観光課の課長は「大盛況だったし、またやればいいんじゃない?」みたいなことを仰っていますが(笑)。というのもまだ輪島は復興の最中で、懸念事項がいろいろあります。今回の会場となった輪島マリンタウン特設会場はアスファルトや周辺工事も予定されているそうですし、出演者やスタッフが宿泊した能登の庄さんも改修工事が始まったらお世話になれないし、うちのホテルも来年はまだできないし、考慮しなければいけないことは少なくありません。当然、大西さんのスケジュールの都合もあるので、「来年やります」と言ってすぐできるものではなく、すべてはタイミング次第です。
──とは言え、谷口さんのなかでやりたいこともあるのでは?
谷口 それはもちろん。私はサッカーが好きなので、例えば石川県のJリーグクラブのツエーゲン金沢さんとコラボをし、全国の温泉地に縁のあるJリーグクラブと「温泉むすめ」ダービーをして、試合前後にサポーターやぽかさんに石川県内の温泉地に泊まってもらうとか。あと石川県には4柱の温泉むすめがいるので、彼女達が集合するような取り組みもできたらいいですね。ただ、まずは、輪島かさねちゃんの地元での知名度向上が一番です。お披露目イベントでその存在が徐々に輪島市民に浸透してきたと思うので、次はかさねちゃんに輪島の町で大活躍してもらえるような取り組みをみんなで考えていきたいです。
──輪島かさねは、輪島温泉郷の復興を目的として生まれたキャラクターです。「温泉むすめ」でも珍しいプロジェクトですが、今回のイベントを通じての手応えはいかがでしょうか。
谷口 イベントの前後にXを見ていると、「まだこんなに復興の途上なんだ」というふうに輪島の現状を知ってくださった方が多くいました。そんなふうに「温泉むすめ」をきっかけに輪島の復興がどうなっているか気にかけてくれる人が増えるとうれしいですし、そういった皆さんが応援していただいて復興につなげていくというのがプロジェクトの目的です。今回お披露目をしましたが、まだ第一歩を踏み出したところ。イベントに訪れてくれた人が次に輪島に来られたときに、「復興してきたな」「こんなふうになったんだ」と感じてもらえるよう、輪島かさねちゃんや「温泉むすめ」の力を借りながら私達も元気を出して復興に向けて頑張ります。応援よろしくお願いします。
【取材・文:はるのおと】