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デザイナー・コヤマシゲトがNYで企画展を開催! キーワードは“民藝”|「SHIGETO KOYAMA CCMS experiment OBAKE」コヤマシゲト独占インタビュー


『プロメア』や『キルラキル』『HEROMAN』といった人気作にも参加するコヤマシゲトさんと、彼がデザイナーの草野剛さん、野中愛さんらとともに結成したクリエイティブユニット「CCMS」による企画展「SHIGETO KOYAMA CCMS experiment OBAKE」が、11月9日(木)から22日(水)まで、ニューヨークのソーホー地区にあるアートギャラリー、NowHereにて行われます。

この企画展は、ソニー・ミュージックが「アート」と「エンタテインメント」をクロスオーバーする、グローバルプロジェクトの第1弾として開催するもの。企画展の内容は大きく2つのパートに分かれ、前半ではコヤマ氏のこれまでの活動を振り返りつつ、その制作中に生み出された中間成果物を解説とともに展示。「アニメーション制作」という集団作業の中で、デザイナーがどのように思考し、実践しているかがわかる内容になっています。

一方の後半では、CCMSとしての活動にスポットを当て、彼らが生み出す最新のプロダクトを展示。以前、CCMSが発表したオリジナル絵本『おばけちゃん』(のちに『日本アニメ(ーター)見本市』の一本としてアニメ化)のキャラクターを使った新作のほか、『エヴァンゲリオン』とのコラボレーションTシャツといった、ユニークなプロダクトが数多く展示されます。

世界のアートシーンの中心でもあるニューヨークで、彼らはいったい何をやろうとしているのか。その一筋縄ではいかない狙いとコンセプトを、コヤマさん自身に語ってもらいました。


設営中のコヤマシゲトさん


――コヤマさんは2016年に、台湾で個展を開かれていますね。今回の「experiment OBAKE」は、コヤマさんもメンバーのひとりであるクリエイティブユニット「CCMS」と合同で開催することになりました。
コヤマ 今回、ソニー・ミュージックさんから僕個人とCCMS、その両方にオファーをいただいたんです。じつは僕は「個展をやらない」と決めていて――というのも、台湾でやった個展がめちゃくちゃ大変で。それで、もうやらないと決めていたんです(笑)。

――しかも、場所がニューヨークのギャラリーですね。
コヤマ 最初に「ニューヨークで」と聞いたときは「どうしてそんなリスキーなことを」と思いました(笑)。今、ちょうど円安ですし、そもそも僕はアーティストでもないですし。でも、だからこそ逆に「やってもいいのかな」とも思ったんです。……あと僕はサーモンクリームチーズベーグルが大好きなので、ニューヨークに行けばまた本場のベーグルを食べることもできるぞ、と(笑)。そこが、モチベーションとしては一番大きくて。

――あはは(笑)。
コヤマ あと最近、海外のイベントに行くと、ファンが情報に飢えているように感じる機会が多くて。やっぱり、海外ではなかなか、日本のアニメの一次的な情報に触れる機会が少ないんですよね。アニメを見て面白いと思ったとしても、そこから先のコアな情報が、なかなか向こうでは入ってこない。そこをもう少し、ダイレクトに伝える方法はないのかな……というところから、草野さんたちと話していったんです。

――そこから、今回の「experiment OBAKE」のコンセプトが来ているわけですね。
コヤマ あともう一つ、僕としては「絵描きが一枚も絵を描かずに、個展ができないものか」というのが、一番大きなコンセプトとしてありまして(笑)。というのも真面目な話、僕は絵描きであってもイラストレーターでもアーティストでもなくて、アニメーションのいちデザイナーでしかないんです。だから僕の仕事を見てもらうとしたら、本来であればできあがった作品を見てもらうのが一番いい。ただ、さっきも少し話したように、日本のアニメファンなら誰でも知っているような知識や情報が、海外まで伝わってない印象があって。であれば、今回の機会を使って、そういう部分から細かく伝えてみるのもいいんじゃないか、と思ったんですね。

――実際、会場ではコヤマさんがこれまで関わった作品の、中間成果物が解説とともに展示される予定です。
コヤマ 例えば、明治大学の森川(嘉一郎)教授は、もっと大きく「マンガ・ゲーム・アニメ」みたいな枠で捉えて、その魅力を海外に発信していらっしゃると思うんですが、今回の僕たちの展示では、アニメーション制作におけるいちセクションでしかない「デザイン」という作業を、さらにより細かく分解して見せていく。ある意味、メソッドとかノウハウみたいなことですけど、海外には、日本のアニメがやっているようなことを自分たちもやってみたいと考えている人も多いですし、ノウハウ本があってもちゃんと英訳されていなかったりする。日本のアニメ雑誌やイベントのトークショーなんかでもなかなか語られない部分を、海外の人に向けて解説しようという試みですね。

――それを日本国内ではなく、海外の人に向けて開示するというのは面白いですね。
コヤマ いや、日本にはすでにできる人がいっぱいいるので……日本式のアニメのデザインを今さら説明する必要もないじゃないですか(笑)。で、「アニメ」に関しては「これはこういうことですよ」と、丁寧に説明してあげる一方で、もうひとつの「CCMS」の展示では、まったく説明なしでみんなをいきなり崖から突き落としてやろう、というか(笑)。日本の中でも、なかなかわかってもらえないような難解なモノを展示してみよう、という感じですね。

――事前にいただいた資料では、スニーカーやラグマットといったプロダクト(グッズ)が展示、販売されるようですね。
コヤマ いま日本国内で作られているアニメやグッズって、すでにものすごく複雑なコンテクストの上に成り立ってるんですよね。日本に住んでいてそれに触れている人なら直感的にわかるんだけど、海外の人たちにとってはさすがにすべてを理解するのは難しくて。もう少し詳しく言うと、僕らは普段、アニメーションという「商業作品」に携わっていて――それはときには、芸術(アート)と捉えられがちではあるんですけど、とはいえ今日アートと呼ばれているものとはまったく別物なんです。でもその一方で、公開から30年以上経った『AKIRA』のセル画の価格は高騰する一方で、みたいなことが起きている。この『AKIRA』のセル画と芸術作品の違いは何なのか?……と考えていく中で、草野さんから「おそらくそれに一番近い形は“民藝(Mingei)”なんじゃないの」という話が出てきたんです。芸術作品として作られたわけではなくて、娯楽として作られたものが、結果的にのちの世に価値を生むかもしれない、という。

――なるほど。
コヤマ 例えば「この木の棒は、ポール・マッカートニーが自宅の暖炉で使っていた薪と同じです」と言われたら、たぶんビートルズファンはその棒を買っちゃうと思うんですよ(笑)。それは要するに、木の棒に付加されたストーリーを買っているということで、同じように、なぜ僕たちがアクリルスタンドを買うのかというと、合成樹脂の板の上にどのキャラクターがどんなポーズをしているのか、というストーリーを買っている。そこに価値を感じているわけですよね。

――キャラクターの絵が加わることで、モノの価値が上がる、という。
コヤマ 実は、かなり前にCCMSでアクリルスタンドを作ったんですけど、それは草野さんが普段からフィギュアを持ち歩いて写真を撮りたいんだけど、立体物だとかざばる。じゃあどうやったらコンパクトに持ち歩けるだろう、というところからできたアイテムだったんです。今回、会場でもいろんなアイテムが展示、販売されるんですけど、もしかしたらそこで生まれたノウハウが他の作品に適用されたり役に立つ可能性もあるかもしれないし、あるいはあまりに荒唐無稽すぎて、採用されない可能性もある(笑)。でも、試みとしてやってみるのは面白いよね、と。

――なるほど。
コヤマ アニメは作品単体でも面白いけど、監督やスタッフのことを知ったり、どういう流れの中から作品が出てきたのか、みたいなことを知るともっと面白いじゃないですか。それはグッズに関してもそうで、面白い作品が良いグッズを作る場合もあるし、まったく面白くないグッズを出しているという現実もある(笑)。グッズひとつ取ってももっと面白いことができると思っているし、その幅をもっと広げないとダメなんじゃないか、みたいなことも危機感としてあるんですよね。

――そういうチャレンジのひとつとして、今回のプロダクトがあるわけですね。
コヤマ ただ、今、こうして話をしているから「なるほど、そういう背景があるのね」とわかってもらえるわけですけど、いきなり会場で『おばけちゃん』のドクロランプを見ても、なんのことやら、まったくわからないはずで(笑)。で、興味を持った人はきっと「どうしてこれを作ったの?」と思うだろうし、質問をしてくる。面白いと思ったものに対して、疑問を持って質問して、そこに価値を見出すかどうかを判断する。それが、じつはアートで行われていることで。ギャラリーで見た絵に対して、「なぜこの絵を描いたのか」をアーティストに聞いて、賛同できると思った人がお金を払う。そういうコミュニケーションこそが、大切なんだろうと思っていますね。

――ということは期間中、会場に行けば、コヤマさんに直接、浮かんだ疑問をぶつけることができるわけですね。
コヤマ そうですね(笑)。毎日、ギャラリーにいると思います。

――ちなみに、ベーグルが一番のモチベーションだったという話がありましたが、ベーグル以外で楽しみにしていることというと?
コヤマ 今回、Estellaという赤ちゃんグッズのブランドと共同で、おばけちゃんのぬいぐるみを作ったんですけど、じつはだいぶ前から、海外のイベントに行くたびに、赤ちゃんショップに寄っては海外の知育玩具をチェックしていて。別に子供がいるわけじゃないんですけど(笑)。

――でも、赤ちゃん用のオモチャって、生まれて初めて出会うアイテムですよね。
コヤマ そうなんです。そのシンプルなモノ作りみたいなものに、ずっと惹かれていて。その中で見つけたのが、Estellaだったんです。それで今回、ぜひ一緒に何か作りたいと思って、ソニー・ミュージックさんやギャラリーから連絡を取ってもらったりしたんですけど、まったくなしのつぶてで。

――たしかに、向こうからするとよくわからないですよね(笑)。
コヤマ ただ、海外のサイトだとよく「あなたのお探しの商品はこれですか?」みたいな、案内が来るじゃないですか。あのシステムを利用して、自動送信メールに対して「俺が求めてるのはその商品ではありません、あなたたちとのコラボです」って返事をして(笑)。そんなところから始まったコラボアイテムなので、ぜひチェックしてもらえると嬉しいなと思います。


NYの会場限定で頒布されるZINE『GOMENNASAI “OBAKE” edition』。かつてコミックマーケットにて頒布されたCCMS『GOMENNASAI』の新刊に位置する


【取材・文:宮昌太朗】

リンク:SHIGETO KOYAMA CCMS experiment OBAKE https://linktr.ee/artentjapan
    X(Twitter) https://twitter.com/obakenyc
    NowHere https://maps.app.goo.gl/ATFQsWqDb5swVBZs8

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